第一章 農業が国を救うのは、聞いてます!

第13話 新居は調味料がいっぱいです!

 ザックさんに案内されて、手配してくれた家に向かう。

 外観は普通で、中もきれいに管理されていた。それにキッチンも広い。


「これ、好きに使え」


 ザックさんがぶっきらぼうに言った。一人で使っていいんだ。


「本当にいいんですか!」


「あぁ」


 ザックさんはうなずく。広いキッチン、あとは自室と家具も最低限ある。

 キッチンには鍋も皿も、調理道具も一式揃っている。それから、調味料の種類の多さと量が半端ない。あの家のよくわからない塩より興味がそそられる。砂糖と塩。つまり、"さしすせそ"はもちろんのこと、スパイスやハーブも豊富にある。


「わあぁ、これも使っていいんですか!」


「おぅ、この国はスパイスや調味料が有名な国でな、

 次いで、ハーブも豊富だ。食料に野菜はないのにな」


 皮肉げに彼はいった。だが、国の自慢をしているときは生き生きとしていた。

 改めて、調味料に向かい合う。

 粉ものの調味料は全部、丈夫な紙で包装してあって、たぶんどれも10kg程度はある。

 スパイスも包装されているが、調味料より小振りで、それでも3kgくらいはあるだろう。ハーブは大きな瓶に詰まっている。一種類二瓶だ。


「小麦粉とか、片栗粉、海藻の類いもあるから存分に使え。

 ついでに、肉は保存箱にいれておいた」


 太っ腹だな。俺は感心しながら、ザックさんの話を聞く。

 確かに、小麦粉っぽいものも包装されているものがあった。それも複数。種類が違うのだとすぐに気づく。強力粉と薄力粉か。その他にもあるのは餅粉とかかな。


「穀物は採れるんですね」


「ん、ああ。穀物は丈夫だからな」


 俺の問いにザックさんはそう言った。確かに、小麦は短い期間で育つ上に、丈夫だと聞く。だが、米は小麦の比べて弱く、虫にも食われやすいとか。なるほど、気候に合わせて作ればいいのか。


「種もなくなったら、小さな物置に保存してあるから使え。

 あと、明日、街の餓鬼が一人来るから、畑を教えておけ」


「え? あ、はい」


 捲し立てるように続けたザックさんに返事をする。ザックさんはこれでもう用はないと言う風に、出ていった。


「あ、ありがとうございます!」


 とりあえず聞こえてたらいいな。

 ザックさんは仕事にこれから向かうのだろうし、引き留めて怒らせる訳にもいかない。ついでに、またげんこつを食らいたくない。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「よし」


 俺はエプロンを着て、長い後ろ髪を結わえる。長いといっても背中に到達はしていない。だから、結わえるとウサギの尻尾みたいに短くなる。

 さて、クッキングタイムだ。


「このよくわからん果実をジャムにしよう。」


 砂糖は大量にあるし、魔法で長期保存できるようにすれば50年は保つらしい。ハーブにスパイスもあるから、風味付けにいれよう。

 果物は山奥の方から持ってきたリンゴとオレンジしかないから、慎重に使い時を選ぼう。頑張って、アップルパイとかにしてもいいんだけど、甘いのばかり食べるのは健康によくない。


 俺は、青い果実をごろごろとキッチンのテーブルに並べた。結構な量だ。そう言えば、これ売れば高く売れるんだっけ。

 ジャムにしても、売れるのかな。売る気はないけど。

 とにかく、この青いザクロみたいなやつを水で洗う。蛇口を捻れば水がちゃんと出てくる。きれいな水だ。


「水が原因で植物がとれないわけでもなさそうだよな」


 俺は洗い終わった果実のヘタと、大きな種を取りながら独りごちる。この種、植えたら生えてこないかな。小さな鉢も持ってきたし、苗になるまで育ててみよう。

 それから洗った果実を大きな鍋にごろごろいれる。その上から砂糖をこれでもかとばかりに、大量にいれる。ジャムは砂糖を大量消費するから、前いた世界では作っていなかった。だって、砂糖はお高いし、ガス代はかかるし。ねぇ?


「うーん、とっても罪悪感」


 鍋に火を掛けながら、呟いた。鍋に入っている果実は、焦がさないように慎重に混ぜていく。トロットロになるまで混ぜるから、根気と、集中力が必要なのだ。それから、風味を引き締めるために、スパイスを少々いれる。なんのスパイスかは、分かんない。


「これ、パンに塗って。しばらくの朝御飯にしよ」


 俺はワクワクしながら、鍋の中身を混ぜ続ける。固いか実は徐々にとろとろになり始める。すると、小さな影が見えた。家を覗く、影が。窓から、小さな頭が見えている。鍋から離れられないときに、来るなんて何て俺は不運なんだ。

 すると、小さな影の顔が見えた。

 小さな女の子だ。


「どうしたの?」


 思わず声をかける。すると、女の子は俺を見て、驚いたような顔をした。そして口を開く。


「ここに引っ越してきたの?」


「うん」


 俺は女の子の問いに答える。女の子はこちらをじっと見つめている。なんか、ちょっと怖かったりする。

 女の子は次に、鍋をじっと見つめる。


「お兄ちゃん、お料理するの?」


「うん。出来たら、持っていく?」


 俺がそう聞くと、女の子はパッと顔を輝かせた。甘い臭いが外に届いていたわけではないだろうに、わざわざこの家を覗きに来たのはなぜだろうか。

 

「入ってもいい?」

 

 女の子が家の扉の方向を指差す。俺は少し迷って、こくりと頷いた。

 暫くすると、女の子は家の中に入ってきた。そして俺のところに来て、鍋の床とに張り付いている。


「気になるの?」


「うん」


 女の気は背伸びをして鍋を覗きこもうとする。しかしながら、女の子の身長では足りなかった。なので、踏み台を出してあげる。

 女の子はそれに登り、青い果実が崩れて、ジャムになっていく様をじっと見ている。


「何作ってるの?」


「ジャムだよ。甘くて美味しいんだ」


「ジャム?

 ジャムって何?」


 女の子は首をかしげた。そこで気がつく。この国では果実は収穫できないから、貴族しかその味を知らないだろうということに。

 俺は女の子に笑いかける。


「果物を保存するために煮詰めて、パンにつけるんだよ」


「パンは知ってるよ。ジャムは果物なの?」


 少女の言葉に俺は頷いた。ジャムを知らないとは、全く、この国の貴族は罰当たりだ。贅沢をして、街の子供の大勢は果物の味を知らないなんて。


「うん。今回は向こうの森のやつだけど、普通はイチゴとかで作るんだ」


「イチゴは美味しい?」


 女の子は首をかしげた。俺はうなずく。近いうちに栽培して、この街の子供たちに振る舞ってあげよう。ジャムじゃなくて、そのままのイチゴを。でも、パフェとかにしてあげたい。

 かわいく盛り付けをしたい。


 とりあえず、できたジャムを空いていた瓶に詰めて、5、6個のパンを袋に入れて女の子にあげた。味見をしたとき、女の子は大層喜んでいたから、嬉しい。

 大事そうに抱えていたから、落とさなきゃいいなって思う。落としたら、絶望するからね俺なら。


 さて、明日は他にも子供が来るってザックさんが言っていたし、少しだけお菓子も作ろう。バターも牛乳も生クリームもあったから、アップルパイが作れるね。

 少しだけだよ。本当だよ?

 楽しんだりなんかしてないからね。

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