第68話 手軽なお菓子と、サンドウィッチパーティ。

 俺はちょうど空いていたバードの隣に座った。

 すると、何かを期待したような表情でバードが俺を見ている。俺は何かと、彼を見た。


「おやつって、いつできるの……?」


 バードはそう言って、サンドウィッチを頬張る。その表情は満足げで、真っ白な頬に桃色がさしている。リリアンは、バードのその姿がツボに入ったのかプルプルと震えている。

 

「バード、もうちょっと待ちなって。まだ3時になってないんだから」


 口についたパンをぺろりとなめとった後、リリアンは笑いながらそう言った。俺はそれに同意するように、苦笑を浮かべながら頷いた。それに、そのおやつは少し時間がかかる。今すぐにはできない。


「そうだよバード。3時になったら、ちゃんと出すからそれまで待ってくれるか

 な?」


「……おやつがもらえるなら、ちゃんと待つ」


 コクリと、バードはうなずいた。ちゃんと口の中のものを飲み込んでから話すのは、行儀がいい。タイムラグができたみたいな気分もするけど、常識があるみたいだ。だって、彼はどこか不思議な、つかみかねないような雰囲気を有しているから。そんなことですら、人間らしさを感じてしまう。

 すると、ジンに袖を掴まれた。向かいの席からだったので少し驚いたが、俺は彼のほうを見た。


「……手伝うこと、ある?」


 紫水晶の瞳が少し落ち着かないといった風に揺れていた。ジンは、多分にぎやかな食事とか空間に慣れていないのだろう。ドナーたちといたときだって、基本的に俺のそばにいたし。

 俺は、少し考えてから微笑んだ。


「そうだね、2時半くらいに取り掛かるから、その時に手伝ってくれる?」


「わかった……」


 そういうと、ジンは不安そうな表情を一転させ頷いた。すると、リリアンが身を乗り出してくる。


「じゃ、僕も手伝って良い?」


 キラキラとした笑みは、性別の垣根を超えたものがある。というか、弟妹に甘えられているみたいな感じで、ついあまやかしたくなる。ジンや、バードにしたってそうだ。

 

「うん、いいよ。バードも来る?」


「もちろん」


 即答だった。キラキラを通り越して、獲物を狙う獣のような瞳をしている。俺は思わず吹き出しそうになる。口に何も入っていなくてよかった。


「うん。じゃあ、二時半にまたここに集合しようか」


 そんなこんなで、昼食を終えた。

 とはいえ、ほとんどのサンドウィッチがバードのお腹の中へ消えたので、二切ほどしか食べられなかったけど。

 というか、あんなに華奢なバードの食べたサンドウィッチはどこへ消えていくのだろうか。彼のお腹はブラックホールにつながっているに違いないのだ、そう感じた。まぁ、たくさん食べる人を見るだけで満腹だ。満足そうな顔は、作った側としてはうれしいの一言に尽きるのだから。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 俺はオーブンに四つの器を入れたところである。

 すると、肩にひたりと手が置かれた。


「ふぇっ」


 びっくりして、オーブンに抱き着くところだった。俺は、手に器を乗せた黒皿を手に持っていなかったことに安堵した。落としたら、おやつが作れなかったしね。


「……ごめん。びっくりした?」


 びっくりした俺の顔をバードが覗き込む。俺はバクバクしたままの心の臓を押さえ、コクコクと何度もうなずいた。


「ハルがもういたから、……気になって」


 見てたんだけど、とバードがそういう。見てたらしい、俺はそんなのに一寸も気が付かなかった。ちなみに、現在時刻は約束の十分前だ。先に調理していたのは、そこそこ手間がかからない作業を済ませるためだ。実際、あとはオーブンで焼いて、盛り付けが残っているだけだったし。

 すると、バードはオーブンを覗き込み、首をかしげた。


「なに、つくってるの……?」


 バードは知らないらしい。そもそも、今作っているのは貴族より庶民になじみのあるものだ。俺のいた世界じゃそうだったけど、そもそもこの異世界にない可能性が浮上する。まぁ、その時はその時なんだけど。

 

「パンプディングだよ。本当は主食になるんだけど、味付けとかでお菓子にもなる

 し」


「パンプディングは知ってる。おやつに、……なるの?」


 想像できないとバードは言った。俺は苦笑した。この世界にもあるらしい、まあおやつにするのは日本人くらいかもしれないんだけど。

 そもそも、作るのは簡単なのだ。


「なるよ。パンの耳じゃなくても、普通に作れるんだけどね。牛乳と卵、はちみつ

 とバニラエッセンスを混ぜたのに浸して、寝かせておくんだ。それで、ちゃんと

 染みたらオーブンにかける。

 ……おやつにするときは、お好みでフルーツとかアイスを乗っけて完成って感

 じ」


 今回は少し短時間だけど、おやつ程度なら十分だろう。そう解説をしていると、バードは目をキラキラと輝かせて、オーブンに穴が開きそうなほどの視線を注ぎ始める。

 というか、垂涎直前のような表情で先の説明をしても意味はなさそうだ。


「……あとどれくらいでできる?」


 そう思った矢先、彼はバッと首が飛んでいきそうな勢いで振り向いた。


「あと? えーと、三十分程度で焼きあがる、よ」


 勢いに驚いて、変な疑問形が完成する。すると、バードはフンスと鼻息を漏らして、頷いた。

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