第69話 秘密のパンプディングと素敵なティータイム。

 ホカホカと湯気を立てるパンプディングをオーブンから取り出す。俺は甘い匂いに満足げに頷いて、バードたちを振り向いた。


「完成だよ。あとは、好きなように盛り付けてみよっか?」


「りょーかい!」


 真っ先にリリアンが元気に返事をして、その次にジンが頷いた。バードは食べる準備を急くように俺をじっと見つめている。

 俺は彼のその視線に苦笑を漏らし、試しに作っていたアイスクリームを保存箱から取り出した。短時間だったので、魔法で凍らかせたのだけれど案外上出来のようだ。それから、イチゴやらブルーベリーやらも足りだして、キッチンの調理台の上に並べる。


「一応四人分焼いたから、心配しないでね。それから、盛り付ける量は食べられる

 分だけだよ、食料は無駄にしたくないからね」


「「「はーい」」」


 三人がそろって返事をする。


「でも、盛り付けってバランスが大事なんでしょ? 僕、あまりそういうの得意

 じゃないな」


 リリアンが少し不安そうに自分の器を眺めた。俺は少し意外に思う。リリアンは服装とか、持ち物にこだわるタイプだからそういうのも特異なものだと思っていた。それに、リリアンの制服はリリアンが女子の制服を自ら改造しているのだという。

 だから余計に不思議な感覚に陥ってしまう。


「しょーがないよね、リリアンは手先が器用じゃないもんね。」


 そう思っていた時、バードがそう言った。


 ??????????


 ?


 俺は首をかしげて、バードとリリアンを交互に見た。すると、リリアンはバードを拗ねたように見据えていた。


「ちょっとぉ、なんでそんなこと言うの。でも、魔法だからこそ器用なんだから」


「でも事実だもん。ね、ハル」


 バードがニヤニヤしながら俺を見た。俺に飛び火してきたぞ、なんでそうなるのかなバード。俺は眉間をおさえて、少しため息をついた。


「魔法でカバーできてるんだし、俺は別にいいと思うんだけど」


 それからそう言うと、今度はバードがむっとした。リリアンはぱあっと表情を輝かせているし、彼らの会話のバランスがよくわからないなぁ。しかし、リリアンが髪をずっとおろしているのも不器用なことに関係しているのかな。

 そう思い、リリアンを見ているとリリアンと目が合った。


「どうしたの、ハル」


「ん~、リリアンが髪の毛ずっとおろしてるのって不器用から(?)、なのかなーっ

 て」


 俺がそういうと、リリアンはわずかに赤面した。


「……合ってる、自分じゃできないからブラッシングだけにしてるん、だ」


 おずおずとリリアンがそう言った。俺はそれに苦笑して、納得する。そこそこ髪の毛が長いメド君だって髪の毛を結っているのに、腰ほどまでに長い髪の毛を持つリリアンが下したままだったのは不思議だったのだから。


「そっか、……あ、じゃあ俺が結おうか? 妹の髪の毛をよく結ってたから、少し

 ならできるよ」


 俺はリリアンの髪の毛を指さして、そう言った。

 すると、リリアンがキラキラと瞳を輝かせた。その隣にいるジンはリリアンを睨んでいる。それはいいとして、リリアンが喜んでくれてよかった。すると、服の裾をバードに引っ張られた。


「……ハル、妹居るの?」


「え、うん。妹と弟、双子なんだ。とってもかわいいよ」


 俺は満面の笑みで伝えた。すると、バードはフーンと興味なさげにうなずいた。なぜだろう、今バードの表情がわずかによどんだ気がする。気のせいなのだろうかと思う前に、バードはいつものぼんやりとした表情に戻ってしまった。

 

「ハル、ほら、早くおやつにしようよ」


 そしてそう言ったので、俺はうなずくほかなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 つやつやとしたパンプディングをスプーン一杯に掬って、三人は口に運んでいる。俺はそれを眺めながら、ティーカップに淹れた紅茶を飲んでいる。前いた世界ではニルギリという紅茶だったと思う。ロシアンティーに使われるもので、ジャムとかブランデーとか入れたりするのだ。そのままでもおいしいけど。


「……おいしい!」


 キラキラと三人は瞳をかがやせて、各々の反応を見せている。

 盛り付けはみんな結局同じにして、俺の作ったアイスクリームとイチゴ、メープルシロップをかけた。


「よかった、ふふ」


「本当においしいよ、ハル!」


「……うん、おいしい」


 リリアンが念を押すようにそう言って、バードとジンは何度もうなずいていた。俺はうれしくなって、もう一度笑った。

 そういえば、パンプディングのごはん版があったような気がする。……確かあれは、サフランライスだったかな。見た目は似ているけど、調理法は全く違うけど。今度材料があったら、作らせてもらおうかな。


「……次は何作るの?」


 そう思った矢先、バードがグッと前に乗り出してそう言った。鼻先がくっついてしまいそうな勢いに俺は思わず仰け反った。しかし、鼻息を荒くしてもう次を期待しているバードは、予告をしなければ離れてはくれそうにないだろう。

 

「……次は、えーと、……何がいいかな?」


「なんでもいい」


 食い気味にバードはそう言った。……なんでもいいが一番困るんだけど、な。俺は苦笑して、リリアンとジンに助けを求めるように視線を向けた。

 すると、少し気まずそうな表情をしたリリアンに目をそらされてしまった。手遅れらしい。


「じゃあ、次までのお楽しみかな……?」


「了解、分かった、待ってる」


 とてつもない勢いで、バードは頷いてどこかへ走っていった。おそらく自室なのだろう。俺は呆れ気味に苦笑して、彼が去っていった方向を見ていた。


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