第42話 魔法の入り口は、魔女への道ってどう言うこと!?
SIDE ???
私は玉座で、頬杖をついた。私の周りをこれでもかとばかりに、水晶がキラキラと彩っている。
「主はん、そろそろ来るんとちゃいます?」
脇に仕えていたフロックが、ご機嫌そうに髪の毛を揺らしていった。長い翡翠の髪の毛が視界をちらつく。
そろそろ来る、というのは王国が寄越した子供のことだろう。
昨日、フロックに偵察を頼み、エンカウントさせた。そもそも、エンカウントさせる気は全くなかったのだが、フロックが昼寝をして寝ぼけていたのだから仕様もない。
「そうか、現在は煙水晶の間にいるな」
私は水晶を覗きこんで、彼らの様子を見た。
それから、フロックを見た。
「いままで、奴等が殺したのはどれくらいだ」
王国が寄越したとはいえ、自分の領地を荒らされる気分はよくはない。少なくとも、子供であろうと容赦はしない、がポリシーだ。
すると、フロックは面白そうに笑った。
「あの巨大カマキリくらいですわ。モンチェやらは保護してましたし、
強いて言うなら夕飯の材料に、申し訳なさそうに入れてましたわ」
私は、ふむと言って頷いた。
モンチェならば繁殖力は高いし、さほど問題はなかろう。しかし、気になったのはカマキリのことだ。
最近は良からぬ輩のせいで、自我を完全に失っている。その上、知り得ない巨大かを迎え、私の部下たちでは問題を背負いきれない。そもそも、人間よりも知恵は浅いのだ。
私たちのような、ダンジョンリーダーの格に着いているものは別として。
「そうか。私たちと話をする気があるなら、生かして帰そう」
私は今まで人間がおかしてきた残虐な所業を思い出した。モンスターを殺すの当たり前の世界は、ひどく不便だ。
それに、あの子供の一人には期待があった。弟のように接してきたダリアが、嬉しそうに彼のことを話していたからでもある。それに、状況を見る目が鋭い。先見の明とでも言うのか、戦闘時には戦うべき相手を理解している。
「それから、マンティスの対処法を考えなければな······」
「せやねぇ、誰がやったか知らへんけど、許せへんな」
フロックは歯噛みして、私の言葉に同意した。その表情は、自分の友人があんな姿になってしまったという、後悔と憎悪から来ているのだろう。巨大カマキリのなかには、フロックの友人もいたのだから。
しかし、友を忘れ記憶もなくし、本能のままにモンスターすら食らう醜い姿に成り果てた。
だから、ある意味、フロックはあの子供に感謝しているのだろうな。
「主はん、御一行さんがくるまえに。ワイらはやるべきことが、有りますよ」
フロックは細い切れ長の瞳をさらに細めて、そう言った。
私はもちろんだと言って、ただ一人の心残りへと手を伸ばしたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE ハル
俺はピリッとした視線を感じとり、嫌な予感がして振り向いた。
「あ、れ?」
そこにはなにもなく、スモーキークォーツに囲まれた空間だけがあった。しかし、それに気づいたのは俺だけらしく、みんなは先に進んでいる。俺は最後尾だったことに安心した。こんな、変な挙動を見られていたら恥ずかしくて、生き埋めになりそうだ。
「······おーい、ハル早く来いよ!」
ドナーが空間の中心にたって、手を振っている。ジンもイヴもこちらをじっと見て、待っている。
「う、うん!」
俺は少しだけの不安に気づかれないように、すぐに返事をして彼らのもとへと駆け寄った。
ちなみに、ステージ4には本当になにもなかった。スモーキークォーツの地面と床と天井。それだけの空間。付け足すのであれば、中央の地面で光る、青いなにか。
俺は三人に追い付いて、肩息をつく。結構な距離を走ったから、疲れたのだ。
「······ここから、ステージ5”謁見の間”に行く」
一息ついた頃、ジンが地面を指差した。
そこには青く光るなにかではなく、青く光る精緻な魔方陣らしきものがあった。文字らしきものもあったが、擦りきれていてしっかりと読むことはできない。だが、ジンがいった通り、謁見の間へと繋がっていることは分かった。
「この上に乗るんだよな?」
ドナーがワクワクした表情で、魔方陣を見た。その発言に、イヴがあきれたようにため息をついた、気がした
「そうです。が、この場合は全員で向かった方がよろしいかと」
「······うん。一人でいったときにモンスターに出くわしたくないから」
イヴとジンは警告する。俺はふむふむと頷きながら、魔方陣を鑑定していた。
鑑定とは、魔法で魔法や対象の鑑定をするためにあるらしい。しかし、目に見えてわかるものではなく、自分の瞳に特殊な効果が現れるのだとか。
そして、理解したのはこの魔方陣は極めて安全であり、ただひとつの空間に繋げられていること。初見ではこれが精一杯だった。
「じゃぁ、謁見の間に直行しようか。」
俺は三人に声をかける。すると、三人は不毛な争いをやめて、こくりと頷いた。気合いが入っているのか、どこかその表情は固い。
俺は魔方陣は一歩踏み出した。
「わぁっ!」
踏み出したとたんに、魔方陣から淡い金色の光が溢れた。
光と言っても照らすようなものじゃなく、粒子のように細かいものがいくつもだ。それは俺たちの体を包むように、より強く輝いた。
それから、青い光る蔦のようなものも出てくる。それは光の粒子と結び付いた。俺は目を見張る。
幻覚に等しい光景が、今目の前で繰り広げられているのだ。
結び付いた蔦と粒子は小さな花となり、一斉に空間を光で満たした。その瞬間、体がふわり途中に浮いた感覚がした。暖かな光は徐々に空間の認識を不可能にするほどになる。
「······ぅ」
さすがに、この明るさに耐えられなくなって、俺は目を閉じた。
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