第86話 紅茶とともに、
ティーカップの載ったお盆を持ち、俺はダイニングテーブルへ向かう。拠点はどこも一軒家のような作りをしているので親しみやすいものがある。俺はメド君とジィドの前にティーカップを置き、自分の分も置いて座った。空いている席に座ったのだが、メド君とジィドの真ん前で面接されている気分になる。
「あとみんなは休憩してるの?」
「あぁ、マインも仮眠に向かった。ジンとフォレストもだな」
「ファナも疲れたのだろ、ナーシャに付き添って眠ってしまった。いないのはグラン
だが……、ドコへ行ったのか」
確認をすると、二人はそう答えてくれた。バードは確認する以前にもう眠っている。すぐそこのソファでうずくまり、野良猫のように眠る姿は存在感が激しい。俺は苦笑して、二人に向き合う。
「……見回りに行く前に、誰かに連絡していく? まだ起床時間じゃないし、先生
が起きてるかは解んないけど」
現在時刻は早朝を指している。それもいつもの起床時刻より二時間ほど前だ。
「……いや、見回り程度ならいいだろう。だが、この状況で教師のいる拠点まで行く
のは危険極まりない」
メド君は顎に手を当て、考え込むように目を伏せた。確かに、このジンたちの拠点から教師たちが滞在している拠点まで距離がある。それに、ジンがぐしゃぐしゃにしてしまった呪字の手紙の件もある。
俺としては彼らを危険に巻き込みたくはない。自分で何とかしなければならない気がするのだ。レカルドの時のように、巻き込んではいけないだろう。――あの時は、けが人が少なかったからいいのだけれど。
「そうだね、じゃあまとまって行動したほうが良いかもね」
「俺もそうしたほうが良いと思うぞ。メドはどうだ?」
あの時の光景を振り切って、そう提案するとジィドはあっさりと承諾してくれた。メド君もうなずく。
「あぁ、それが得策だろう。行く前にジンを起こして、ここの警備でも頼もう」
「……呼んだ?」
ふいに俺の背後で声がした。
後ろを振り向くと、ジンがいた。気配がなかったので気づくことができなった。それに、流石にメド君もジィドも気づいていなかったらしく、驚いたように目を見開いていた。
俺はとりあえずジンに隣の席を進め、立ち上がった。すると、ジンに手で制されてしまった。お茶を持ってくるべきだと思ったのだけれど、要らないらしい。俺はおずおずと席にもう一度座り、ジンを見る。
「もう大丈夫なの?」
「……大丈夫、疲労はもうない」
ジンはそう言ったが、俺は納得できなかった。なにせ、ジンは自身の疲労に気が付いていない節があるのだ。とはいえ、口うるさく俺が言えるほど立派ではない。
そんな俺を見て向かいに座るメド君がため息をついたように見えたが、すぐに元に戻った。
「ジン、俺たちは今から見回り行く。だからここの拠点の警護と見張りを頼む」
「わかった」
ジンの返事は早かった。
というか、今から行くのだろうか。たしかに、行動は早いほうが良いのだろう。
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