第85話 とにかく話し合って、何とかしましょう!

 拠点の外はひどい状態だった。

 戦闘をしたせいか、地面は踏み荒らされたようになっていた。その直前に怒った異様な揺れも相まって、地面は割れているし少し視界も悪い。それはおそらく瘴気が少なからず漂っているからだろう。

 ジンたちの拠点に入り、俺たちはひどい徒労感に襲われた。


「……はぁ、もう、動けないんだけ、どッ」

 

 リリアンがソファに凭れ、ああぁと嘆くような声を漏らした。俺は苦笑して、拠点内にいるメンバーの安否を確認する。怪我はとにかく予備のポーションで埋め合わせ、魔法は使わないようにした。何せ、このダンジョンは魔力の消費が著しいのだから。

 すると、目に見えて明かに疲労しているのが目に消えた。ナーシャ、だ。ナーシャは俺たちの戦闘中、室内とはいえ探索魔法でダンジョン内の様子を調べてくれていたのだから。すると、背中にずっしりとした重みを感じた。


「……はあぁあ、つかれた、お腹空いた」


「わぁっ」


 バードだった、急な登場だったもので俺は驚いてしまう。振り向くと、拠点の入り口から入ってくるジィドが見えた。つまり、一緒に帰還してきたのだろう。バードは俺にのしかかったまま、眠そうに瞬きをした。

 俺はリリアンの方を向き、声をかける。


「ねぇリリアン、ちょっと良い?」


「ん~、なに?」


 リリアンは凭れていた体を起こし、こちらを見た。


「キッチン借りていいかな? 保存箱に何かあれば作るよ」


「え、ホント! じゃあ、僕も手伝うよ」


 そういう人形みたいにぴんと跳ね起きて、リリアンは瞳を輝かせた。元気そうに見えるけど、やっぱり疲れているのかリリアンは少しふらつく。俺は苦笑して、リリアンをソファに座るようにやんわりと後方に押しやった。リリアンはやはり足に力が入らなかったのか、ストンとソファに座ってしまう。


「リリアンも休んでて? ジンとリリアンはずっと持ちこたえててくれたでしょ?」


「で、でも……」


「フォレスト、ハルの言う通り休憩はしておけ。いざというとき力を発揮できない

 ぞ」


 俺の言葉に躊躇ったように何か言おうとしたリリアンだが、それをメド君が止める。するとリリアンは複雑そうな表情をして、数秒何らかの葛藤をつづけた後、黙って頷いていた。

 それからリリアンはため息をついて、座ったまま眠ってしまった。よほど疲れていたのか、しばらく起きそうにない。俺はリリアンにブランケットをかけて、金ちんへ向かう。すると、引き留められた。


「……ハル、あとでちょっといいか」


 メド君だった。

 俺は首を傾げ、どうしたのと聞く。


「いや、……この近辺の様子を見ておきたいと思ってな。一人で行くとフォレスト辺

 りがうるさいだろう?」


「わかった、ついていけばいいんだよね?」


 そういうと彼は呆れたように、疲労したように重いため息をついた。それから、そうだと頷いた。少し戸惑ったように見えたのは彼がひとりで行くつもりだったからだろう。


「なら、俺もついていこう。危険だからな、人手があった方が良いだろうからな」


 するとキッチンにもう一人顔をのぞかせた。


「フロッソ、……瘴気もあるんだぞ。少数であった方が得策に思える」


 メド君は顔をのぞかせたジィドに不機嫌そうにそう告げた。しかし、ジィドはそんな不機嫌そうな顔は痛くもかゆくもないというような顔をして、少し笑った。それにむっとしたのかメド君は口端を歪めた。

 

「ははは、メド。俺は常人より瘴気に触れても害がないから安心しろ。……とはい

 え、近距離戦闘は手慣れていないのでなぁ」


 ジィドは苦笑して頬を掻きながら、メド君にそう言う。

 メド君はそれを聞き、呆れたようにため息をついていた。おそらく知っていたのだろう、あきらめたような顔をしている。


「……まぁ、いいだろう。ハルもいいだろう?」


「え? あ、俺はいいと思うよ?」


 急に同意を求められたので俺は驚いて頷く。すると、メド君に呆れたような視線を向けられた。多分話を聞いていないと思われたのだろう。……だって、そういう話はメド君が即決してくれると思ってたから。

 俺はメド君に苦笑して、それから視線をそらした。

 というか、俺は軽く何か作ろうと思っていたのだ。当初の目的を忘れていてはいけないと思い、キッチンを見る。見事に物が少ない。


「……うぅ、二人とも何か飲む?」


「あ? 俺はディンブラでストレート」


 怪訝そうなというか、話をそらしたのにあからさまに飽きれながらメド君は即答する。ディンブラは確か、割と飲みやすい類の紅茶だったと思う。メド君は癖のあるものより、ポピュラーなものを好むらしい。


「じゃあ、俺もそれにしよう。砂糖があればいいのだが」


「わかった、角砂糖があるから持っていくね」


 ジィドも同じでいいらしい。俺はうなずいて、ポットに水をくむ。――この世界にも水道設備が整っているおかげか、作業がスムーズにいく。


「じゃ、しばらく待ってくれる? それからその後のことを話そう」


 俺の言葉に二人はうなずく。

 俺は保存箱からディンブラの缶を探しながら、少しため息をついた。

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