第20話 畑仕事を始められるけど、不安です!
俺は考え込んでいた。
王宮の人間に目をつけられる、マクベスさんはそう言った。俺の魔法のせいで。俺は、どうすればいいのかわからない。ザックさんと、マクベスさんはしばらく隠してくれると言っていた。
二人は王宮勤務らしい。俺が雨を降らせるとき駆けつけてくれたのは、暇だったからと言っていた。けど、絶対違う気がする。そんなので、仕事を抜け出せたらこの国の財政難はないだろう。
俺のせいで二人にも、責が。
「俺、約束守らなきゃいけないのに」
俯いた。この国のことも知らないし、いつもウジウジしてばかりだ。
「朝御飯食べなきゃ······」
朝六時。昨日言われたことが頭の中をループしている。
保存箱からジャムを取り出して、戸棚からスライスしたパンを二つ取り出した。それをトーストして、ジャムを塗る。
頭のなかが晴れない。
「何かあったら、どうすればいいんだろう」
エルやダリアの顔が思い浮かんだ。友達と離れているせいか、心細さがマックスだ。時々思い浮かぶ、弟妹たちの顔。涙がにじんで、目元がヒリヒリする。情けない、お兄ちゃんだったなぁ。
ビビりだし。
焼き上がったパンにジャムを塗って、口に含む。本当はテーブルで食べるべきなのだろうけれど、キッチンの壁に背を預けて食べる。背中が曲がる。
「なんか、ヤダなぁ。」
ポツンと呟いた。空中に霧散して、声は消えていった。
俺はうつむく。テオやメイ、二人以外にも困っている人はいて、自分からそれを助けるといったのに。一歩も踏み出せなくなるなんて、何か笑えない状況だった。
「······兄ちゃん、おはよ」
不意に声が聞こえた。窓の方からだ。
俺はそちらを向く。テオが窓から顔を覗かせていた。眠そうな顔で、相変わらずといった感じだ。俺はテオにおはようと言う。
窓の方を覗くと、メイもいた。メイは可愛らしく笑って、おはようという。
「二人とも今日も早いね」
「うん。今日はちゃんと朝御飯食べてきたよ!」
メイがそう言う。
「そっか。でも、明るくなるまで家においで?」
外はまだ、薄暗い。そんな中、作業をして怪我をさせるわけにもいかない。すると、二人は元気にうなずいて、家の扉の方に回る。
「お兄ちゃん、おとといは凄かったねぇ!」
「うん、凄かった······」
あの場の会話を聞いていなかった二人は、キラキラ輝く瞳で訴える。俺は少し微笑んだ。元気が出てくると言うか、弟妹たちが応援してくれているときと同じ気分だ。
「ふふ、ありがとう二人とも」
「雨がね、きらきらって、虹と同じ色に光ってたの」
メイが嬉しそうに言う。テオもコクコクと、メイの言葉に同意している。二人は元気そうでよかった、不意に思った。
「うん、綺麗だったよね」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「今日は種まきをするよ!」
二人に小さなバケツを持たせて、俺は鍬と大きなスコップを持つ。
「「おぉーー!」」
二人は片手を上にあげ、気合いを入れている。
今日、蒔く種はイモとニンジン、そしてリンゴの苗木とイチゴだ。今の時期はちょうど、日本でいう春だ。つまり、種まきにふさわしい時期だ。
「まずは、畑を耕すよ」
「うん!」
俺の掛け声に二人はうなずいた。耕すのは俺の役目だ。魔法で耕して、地道に種を蒔くのだ。
俺は鍬から手を離す。なんの法則か、魔法の力で鍬が畑を耕してくれる。土がもりもりと、生き生きとした色になっていく。魔素が含まれているお陰か、土も柔らかくなっている。
「種は何から蒔くの?」
テオが小さなバケツに入れている、小さな袋に分けた種を見つめる。開けずに待機してくれたらしい。
俺は二人の持っているバケツから、一番小さな袋を取り出した。
「一番最初は、ニンジンを植えます」
「あのオレンジの?」
メイが首をかしげた。俺はそうだよ正解、と頷いた。
すると、メイは嬉しそうに笑った。
「まずは種を植えるときの、小さな穴を指で開けようか」
俺は畑にしゃがみこみ、指先で小さな穴を開けた。その中に種を一粒入れる。テオをメイも俺のとなりにしゃがんで、小さな指先で穴を開けた。そして、種を一粒づつ入れる。
「種と種の間を開けると、大きく育つんだって。
石とかあったら、避けてあげてね」
二人は真剣そうに頷いた。種まきが楽しいのか、頬を赤く染めて地道に種を蒔いている。俺はその場から立ち上がった。
もうちょっと時間がかかりそうだから、リンゴの苗木を植えておこう。
俺は家の壁に立て掛けていた苗木を取り、畑の脇をスコップで少し深く掘る。そして、苗木を根っこが隠れるように植えた。小さな苗木だけど、俺が水やりをするともっさりになる。それを見るのが少し楽しみだ。
「兄ちゃん、蒔き終わった」
不意に服の裾を引っ張られる。腰元にテオがいた。
「ん。りょーかい。じゃぁ、イモの種芋を植えようか」
「スコップ使うやつ?」
メイが首をかしげた。勘がいいというか、準備万端でメイは小さなスコップを二つ、手に持っていた。俺はうなずいて、新しい畝に種芋の袋をおいた。
「一杯植えようか。」
「「うん」」
俺も小さなスコップを懐から取り出す。二人は予想外だったようで、俺の来ているローブをめくって確認しようとする。いやん、エッチ。
「種芋を間隔を開けるよ。
いっぱいあるけど、全部は植えなくてもいいからね」
「分かった。イッパイ食べる」
テオがそういった。彼はもう先のことを考えているらしい。お腹は空いていないようだけど、食事のことに胸が踊っているらしい。たしかに、自分で育てたものはおいしいもんね。
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