第21話 畑の野菜は、俺の魔力で大豊作!
種まきを終えました!
テオとメイは疲れてしまったのか、家の中のソファで居眠りをしてる。ぐっすり眠ってしまったので、その間に水やりをしよう。水やりは俺の魔法を使う。そこから、また育つかが問題だが。
「よし、リンゴの苗木はまだしも、野菜は育てて分けよう」
俺はガッツポーズをして、気合いを入れた。近所におすそわけするのは、久しぶりの体験だ。
俺が一人暮らしを始める前、母親と作りすぎた料理を近所にすんでいた祖父母に分けていたのを思い出す。あまり会う機会はなかったけど、優しい人たちだったなぁ。
「よし、イチゴが育ったらタルトにしよう!」
俺は畑に手をかざした。
久しぶりに見る、小さな雲の群れ。俺は魔力に意識を集中させる。むくむくと膨らんで、畑に雨が降り注ぐ。
局所的に降り注いだ雨が、植物の成長を促す。
それから、魔法で降らせた雨は止む。そして、イモとニンジンが育つ。イチゴはみずみずしい、赤色に育って、小振りな果実へと膨らむ。でも、あの赤いのは果実じゃないけど。
「······ふぅっ。終了かな?
収穫は二人が起きたら方がいいよなぁ」
「手伝いましょうか?」
不意に声が聞こえた。
俺は驚いて振り向いた。そこには一人の女性がいた。誰かに似ている気がする。
「あぁ、テオとメイの母親なの。フレアと言うのよ」
女性は無邪気に笑った。母親を思い出す快活な笑みだった。
「え、ああ!
こんにちは、俺はハルです」
そう言うと、柵越しに話しかけていた二人の母が、知ってるわといった。そして、握手を求めてくる。俺はそれに応じて、彼女と握手をする。フレアさんは、大きな手をしている。母親の手だった。
「いつも二人から聞いているのよ。世話になっているわね」
「いいえ。いつもといっても、
二人ともとはまだ三日くらいしか過ごしていませんし」
俺は滅相もないと、呟く。すると、フレアさんはあきれたように笑った。
「確かに、アイザック君がいってた通りねぇ」
そう呟いて、彼女はクスクスと笑った。表情がコロコロ変わる人だなぁ。俺の母親もよく笑う人だった。
どうしても、家族のことを思い出してしまう。俺はもう戻れないのに。戻れたら、それは嬉しいことだけど。俺は苦笑した。
「あら、やっぱりちゃんと育っているのね。」
柵から身をのりだし、畑を覗きこむフレアさん。その目はメイに似ていて、キラキラと輝いている。
「あの、収穫したの、俺一人じゃ食べきれないので配ろうと思ってたんです。
フレアさんたちもいかがですか?」
俺は畑の野菜を指差して、笑う。すると、フレアさんは目を見開いた。そして、プッと吹き出した。
「良いのかしら?」
「はい!」
俺はその問いかけに返事をする。そう聞かれるとは思わなかったけど、貴族しか野菜が食べられないこの国ではイレギュラーなのかもしれない。
「ふふ。なら、収穫を手伝うわ。あの子達はお昼寝してるんでしょう?」
「え、でも申し訳ないですよ。フレアさん、お仕事があるでしょう?」
俺が聞くと、彼女はまた無邪気に笑った。
「今日は終わったのよ。野菜を分けてもらえるお礼なんだから」
力強い笑みを浮かべるフレアさん。俺は許諾する他なかった。なんか懐かしい気がして、胸の奥がチクチクしたけど。それは、自分の家族の顔が、どうしても思い浮かんでしまうからだろう。
俺は俯いて、フレアさんが畑に入ってくる間、少しの時間だけ目元に涙がにじんだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
収穫した野菜は、結構な量があった。テオとメイが頑張って植えてくれたもんなぁ。
俺はジャガイモの土を落としながら、微笑んだ。ジャガイモは結構、重量級だ。ニンジンはフレアさんに任せているから、集中できる。
すると、不意にフレアさんはいった。
「ハルは、本当にお人好しよねぇ」
懐かしそうに、フレアさんは微笑んだ。それから、昔のアイザック君みたいと、呟いた。ザックさんがお人好し。馴染みのない組み合わせに、俺は首をかしげた。
俺が知らない過去があるのは当然だけど、不思議な感覚だった。
「俺はお人好しなんかじゃないですよ。俺は、弱虫なだけです」
苦笑してしまう。すると、向かいでニンジンの土を払っていたフレアさんに、手刀を食らう。頭に。少し、いたい。
「褒められたら、お礼言うだけで十分なのよ」
と、彼女はいった。
俺は目を見開く。母親も似たようなことをいっていたような気がしたなぁ。あの頃は、何だったか。弟妹の面倒を見て、偉いわね。とか、言われたのだったか。
「······えへへ、ありがとうございます」
少し悲しい気持ちが出てきたが、俺は笑ってそういった。すると、フレアさんが安心したように笑った。
母は強しって、こんな感じなのかなぁ。
俺はそう思った。
それから、俺とフレアさんは黙々と収穫を続けた。イチゴは別に収穫していたので、フレアさんに何かと聞かれた。俺はそれに、秘密ですと答えた。
ちょっとやりたいことがあるので、今回のイチゴは俺の秘蔵なのだ。種はイッパイあるから、まだ気にしなくてもいいし。
「フレアさん、本当にありがとうございました」
俺はもう一度彼女にそういった。彼女は眠ったままのテオとメイを抱え、ウフフと笑った。そして、なぜか俺の頭を撫でた。
「良いのよ。野菜をもらったし、気にしないで」
彼女はそういった。ワザワザ、俺と一緒に野菜を配るのも手伝ってくれたし、街のことも教えてくれたりした。
昔のことを思い出して、少し悲しくなったけど。少し、心強くなれた。
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