第60話 初めての授業なんですが、1~4限目まで実技です!

 休日に作るから、なんてできるかもわからないような約束をしてしまった。なにせ、あの輝く視線が痛かったもので、自棄になってしまったのだ。俺は教室の端の席に座り、重いため息をついた。

 昨日はなかったけど、今日は授業があると言うのに。


「テンション低いねぇ、おれはこんなにも元気なのに」


 前の席のグランが、満面の笑みで振り向く。本当に元気そうだ。というか、いつ教室に来たのやら。

 俺はそんなグランに苦笑した。別に元気がない訳じゃないんだけど、と言いながら。そのやり取りを、隣席でジンがじっと見ている。まぁ、ジンはグランが苦手なようだし仕方ないんだろうけれど。


「あそうだ。今日は初めての授業だね、ハルの!」


「え、うん。そう、だね?」


 歯切れが悪い返事を返してしまう。それは、教室の前に貼ってある時間割りを見たからじゃない。断じて違う、そうであってほしい。

 この学園では、複数のクラスがある。んだけど、みんなこんなカリキュラムをやってるのだろうか。


「今日全部、実技?」


「えっ、マジ? ヤダなぁ~」


 ニマニマしていたグランが青ざめる。俺とは別の驚きというか、単に授業がなんなのか把握してなかったのだろう。曜日感覚がずれた、長期休暇のあとみたいな感じだ。

 俺の驚きはそこではなく、今日一日ずぅっと実技だと言うことだ。

 座学がありそうにない。しかも、実技の中でも魔法実技だ。一日――今日は半日だけど、恐ろしい何かを感じてしまう。


「大丈夫なの?」


 思わず、グランに聞いてしまう。

 だって、一日中魔法を使ってたら疲労でぶっ倒れるんじゃ。すると、グランは、キョトンとした顔で”何が?”と聞いてくる。


「魔力の枯渇とか、精神疲労とか」


「ん~、大丈夫じゃない? MPポーション常備してるし、――まぁ、

 あれ不味いけど。

 それに初めての授業で、リヒちゃん先生も厳しくしないって」


 ポーション······、この世界にあるのか。ますますゲームみたい、とずれた驚きを感じる。というか、先生をあだ名で呼ぶのってどこも共通なのかなぁ。慣れてないだけかもしれないけど

 すると、教室の扉が勢いよく開いた。


「全員中庭に集合だ!」


 鋭い目付きの、男の人。見た目は三十代くらいで、痩身で飢えた猛獣を連想させる。

 すると、彼の指示で各々がゆっくりと行動をとり始める。

 あ、ホームルームはないんだ。


「よーし、行こう! 早く、ハル、ジン」


 グランが扉のところで俺たちを呼ぶ。ジンはそれに不機嫌そうに眉を寄せたが、迷う可能性があるのでジンを視線でたしなめてグランの方へ向かう。そして、教室を出る。のだけど、バードがいないことに気がつく。


「ハル、バードは夜行性だから気にしないでもいいよ」


「え? ······うん、分かった」


 思考を先読みされたのか、グランは苦笑を浮かべて俺にそういった。まぁ、確かに彼は夜行性の動物――猫とかを連想させるような動きをしてはいたけど。授業にでなくてもいいのかな?

 俺は少しモヤモヤしながら、先に歩き始めたグランとジンの背中を追った。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 中庭にいくと、そこには大きなドーム状の何かがあった。近くにある温室より大きくて、硝子みたいな水色のものが覆っている。

 

「ここで授業受けるんだよ~♪

 

 グランはそのドームの入り口を発見して、そこへ入る。そして、俺たちを招く。まぁ、メドくんとかリリアン、ジィドもいるし安全なんだろうな。他にも女子生徒もいるし、演練場みたいな場所なのだろう。······中庭なのに。


「君たちが転入生か」


 不意に背後から低くとおる声が聞こえ、俺は恐る恐る振り向く。突然だったから、マジでビビった。

 そこには、さっき教室に集合命令を出しに来た男性がいた。

 俺は背筋をただして、彼に会釈する。


「えと、俺はハルです。こっちがジン。お世話になります」


 そう言うと、彼はふむといって、それから険しい表情を少しだけ微笑ませた。


「私はリヒト=グランヘルツだ。魔法実技1-Sの担当だ。よろしく頼む」


「はい、よろしくお願いします。リヒト先生」


 握手を流れで求められ、俺は彼の手をとる。すると、彼は満足げにうなずいた。そして、空間の中央へ歩いていく。

 俺はその威風堂々たる背中を見ていた。厳しそうではあるけど、怖そうな先生ではないみたい。でも、1-S専属の先生ってなんか引っ掛かるなぁ。気のせいかもしれないけど。


「では、今日は付与魔法の演習をする! 

 各自二人一組となるため、紙に組み合わせは表記してきた」


 それを見るように、とリヒト先生は言った。そして、懐から一枚の紙切れを出したと思うと、それを浮遊させる。見にこい、という意味なのだろう。俺はジンに目配せをして、一緒に向かった。

 てなわけで、組み合わせが決まった。

 全部で五組、バードはあらかじめ欠席扱いらしい。


1.メド=シルヴィア ファナ=オラルク

2.ジィド=フロッソ ジン

3.グラン=ロード  リリアン=フォレスト

4.ハル=サクラシマ ナーシャ=マイン

5.バード=ラクリエ


 と、言う感じだ。五組とは言ったが、実質四組だけど。しかし、知っている顔じゃないだけで緊張する。メド君と俺だけ女子と組むことになってるし。

 つまり、このクラス、人数が少ないと言うのもあってか女子が二人、男子が七人だ。俺たちが来て、結構偏った気がするけど。

 

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