第61話 二人一組の授業と、付与属性魔法。
はじめての授業は、付与魔法の実技らしい。ちなみに、四時間。休憩は少しずつ挟んでいくらしいけど。
その前に、付与魔法について詳しいことを反芻してみようと思う。付与魔法とは”付与属性魔法”の略称で、大きく分けて三つに別れるらしい。
1 敵に戦闘を困難にさせるもの。 例)麻痺、錯乱、毒、拘束
2 味方を有利にするもの。 例)体力・魔力増強、隠密、付与魔法防御
3 空間に作用するもの。 例)移動、地殻変動など。
と、いった感じだ。因みに、1の場合はある程度魔法を習得すると使用できるが、3の場合は特級魔術師以上の魔力を保持していなければ使用不可だ。
それから、魔法には属性があって火、水、風、地、光、闇の六つに分けられる。基本所持できるのは二つ程度で、後半二つに関しては特殊なものらしい。そのあわせ持った属性を掛け合わせることで、付与魔法や複雑な攻撃魔法が使えるようになるのだ。
てなわけで、話は授業に戻る。
俺は、ナーシャ=マインという少女と組むことになった。彼女はリリアンと同じぐらいの背丈で、他の面子と比べるとやや地味そうに見える。
「あの、ナーシャ?」
「は、はい!」
ちょっとデジャヴを感じる。何故だろう。
俺は少し怯えている少女が落ち着くのを待つ。彼女は二つの三つ編みと、丸メガネと言ったいかにもな優等生スタイルの子だ。しかし、緑がかったダークブラウンの髪の毛とか、手入れされた見た目に関してはやっぱり貴族なんだと感心する。ちょっと、失礼かもしれないけど。
今回の授業にやるのは、付与魔法の中の味方に対するフォローの訓練だ。各自――バードを除いて、二人一組でやるはずなんだけど全然進んでいない。どこのグループも、だ。
メドくんに関しては、相手の子を気にかけてすらいないし。リリアンはグランと言い争いをしているし。ジィドはジンへのコミュニケーションアプローチを何とかしてくれようとしている。
なんか、授業なはずなのにカオスだ。
「ナ、ナーシャ?」
「は、はい! 大丈夫です、始めましょう」
今にも泣き出しそうと言うか、泳ぎまくった視線でナーシャはそう言った。めっちゃ、焦ってるんだろうな。俺は、少し苦笑して頷いた。
さて、どうやって訓練するものやら。
「えっと、ハルさんは付与魔法は使えますか?」
「うん。ある程度、なら」
俺の回答に、ナーシャは少しほっとしたような表情をする。何故だろうか。しかし、その回答、まるっきり嘘でもないが事実でもない。と言うのも、付与魔法の古いものであればグリモワールに書き記されているからだ。
しかし、授業でそれを使うことはダメらしく、今は魔法のポーチの奥底だ。
「じゃ、じゃあ、先に使ってみてくれませんか?
······私、魔法のセンスが全くなくて、できれば見本をと」
ナーシャは少し落ち込んだ表情でそう言った。嘘ではないんだろう。彼女から感じ取れる魔力は、他の皆と比べてやや微弱だ。それでも、結構ある方なんだろうけれど。
すると、ナーシャはおずおずと両手を差し出してきた。
俺は戸惑い、その両手を包み込むように握った。
「魔力伝達をすれば、良いの?」
首をかしげ、そう聞くと、彼女はなぜか顔を真っ赤に染め何度も頷いた。
「はい、そ、そのまま魔法をかけてくだ、さい」
虫が鳴くような小さい声がそう言った。うん、と俺はうなずいてスッと瞼を下ろした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
SIDE ナーシャ=マイン
私はどぎまぎしたまま、魔法をかけようとしている彼を見る。
サラサラの黒い髪の毛をウサギの尻尾みたいに小さくまとめて、空色の瞳をした青年。貴族ではないらしいけど、貴族みたいに整った顔立ちと珍しい瞳の色。
彼は今その瞳を閉じて、魔力に集中している。
しかし、彼に握られた手から手汗が吹き出しそうだ。妙に緊張する。いつも、なんだけど。
「(睫毛長いなぁ……)」
ぼぉっと、彼の端正な顔を見ているとフワリと彼の瞳が開いた。私は羞恥から、彼から顔をそらした。
しかし、彼の魔力――魔法が彼の手を通して伝わってくる。なんの魔法だろうか、そう思いながら彼の魔法が途切れるのを待った。
「······ふぅ、これでいいかな?」
「えっ、えぇ、はい!」
微笑みかけられ、どきりとする。昨日転校してきたばかりなのに、こんな風に意識してしまうのはおかしい。
で、でも。私は悶々と思考しながら、何度も何度も頷いた。
そして、俯いていた顔をあげると視界が変わっていることに気がつく。
「······っ」
思わず装着していたメガネをはずす。
ちゃんと見える。ボヤけた視界ではない、はっきりした光景が裸眼で。私は、ハルさんの顔を次に見た。彼は困ったように笑って、頬を掻いていた。
「視力向上の付与魔法なんだけど、効果は十分で切れるようにしてるから」
ゴメンね、なんの魔法か伝えてなくて。何て言うので、私は、首を振った。なんというか、少し感動している。今までに見たことのない、鮮やかで鮮明な景色が広がっていたものだから。
「ちゃんと、魔法かかってる?」
「えぇ、はい。」
心配そうに見つめられ、思わず顔を背けてしまったが私は何度も頷いた。だが、彼が使った魔法。いくら、味方を有利にする魔法とはいえ、効果が絶大な気がする。
私の視力は、目の前のものすらぼやけて見えないのに。今は鮮明すぎる光景に、酔ってしまいそうだ。というのも、いくら有利にするからといって絶大な効果は魔道具に匹敵する。高度な装備品に匹敵する効果なのだ。
「あ、あぁの!」
「ん、どうかした? 何か異常が出た?」
焦ったような表情で、私の呼び掛けに答える。私はその質問に首を振り、特に異常はないことを示す。
「どこか、具合悪いことはないですか?」
「? なんで?」
キョトンとした彼の表情。私は、ガツンと鈍器で頭を殴られたような気分になった。
彼、いろんな意味で無意識なんだ。天然過ぎるんだと、薄々感じていたことを自覚した。
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