第12話 長い道の先に、待ってるものは。
森を抜けたあとは平坦な道が続いた。
やっと、長い道が終わった。俺は今、大きな城壁の前にいる。見上げてたら、首がいたくなるくらい大きな城壁だ。
「門番に受付しにいくんだっけ?」
ザックさんは門番に許可をもらわないとは入れないといっていた。前の世界だと関税みたいな感じなのだろう。確かに、疫病とか犯罪者とか入れるわけにいかないもんな。
俺はとりあえず、その関税みたいなところを探す。
「おい、坊主」
不意に、誰かに呼ばれた。俺は声がした方を見た。
声は城壁にある窓から聞こえていた。そこから一人の男の人が顔を出した。金髪の男の人だ。ガタイが良くて、男前だ。
「は、はい」
「お前さんが、レイアが言ってた餓鬼か?」
金髪さんは俺にそう問いかける。レイア?
レイアって、もしかしてザックさんのことか。
「それって、アイザックさんのことですか?」
「あぁ、たぶんそうだ」
男の人に手招きされる。俺はそのまま彼のところへ駆けていく。そして、割と高いところにある窓の前にたつ。中の様子が気になって、背伸びをしてみる。
すると、金髪の男の人は苦笑いした。
「今、レイアを呼び出すから待ってろ」
「あ、はい」
男の人に言われて、俺は頷いた。男の人は今どこかに、連絡しているのか通話魔法を使っている。俺は使ったことないけど、連絡先を魔法の連絡帳に登録すると使えるらしい。
しばらくして、男の人は通話が終わったのか、こちらを向いた。爽やかな笑みを浮かべて、一番最初の門を開けてくれた。
門は二重になっているのだ。
そして、税関ーーではなく検問というらしいーーに招かれた。
「俺はライアって言うんだ。
ライア=モール」
思い出したように言われた。男の人はライアさんというらしい。
「えと、ハルです」
手を差し出されたので、握手をする。ライアさんは、いいお兄さん風だ。ちょっとガタイは良いけど、いいお嫁さんがいそうな感じだ。彼も、ザックさんとは違うが鎧を着ていた。
ダマスク紋様みたいなエンブレムが胸元に描かれている。
「このエンブレムか?
ハルは本当になにも知らないんだなぁ」
ザックさんが事前に伝えてくれていたのか、変な顔をされずにすんだ。常識を知らない俺としては、そういう気遣いはありがたい。
「この国、ウィルンズ王国のエンブレムでな、
よくは知らんがハーブの紋様らしい」
らしい。そもそもこの国の国名を今知った。ウィルンズと言うらしい。でも、兵士なのにエンブレムについて知識が曖昧で、良いのだろうか。
そう聞くと、ライアさんは気にするなと、豪快に笑った。
「遅いぞ。」
不意に声が増えた。
この不機嫌そうな声は、
「ザックさん!」
彼だ。すると、彼は検問所内に顔を出した。鎧を今は着ていない。だって、あれ重いもんね。何て思ってたらげんこつされた。
滅茶苦茶痛いんですけど、Lv.57の拳骨は。
「なに、モンスターの森に二日もかけてるんだよ!」
「まあまあ、そう怒らんでもいいだろ。
レイアは最短ルートで飛んでくるんだから、違いも出るさ」
ライアさんがかばってくれる。だが、ザックさんは不機嫌そうにライアさんを睨む。そして、俺を振り向いた。
「うひぃっ」
顔が怖い。とっても。
「マップ見せろ」
ザックさんはただ一言だけ言う。俺は怯えながら、鞄の中から本になった地図を取り出す。それから、唯一のページを開いて、ザックさんに差し出した。
すると、ザックさんは目を見開いた。
「俺がくれてやったのはどうした」
「これになりました」
素直に白状するにはダリアのことを話さなければならない。しかし、その一言で察したのか、ザックさんはマップ帳を見る。
「すげぇな、シークレットエリアまで埋まってるぞ」
覗きこんでいたライアさんが興奮したようにいった。ザックさんに襟首を捕まれた。こわい。
え、なに。俺なんもしてないこの扱いなの。
「どうやって埋めた」
狩りを始める獣みたいな顔をしてザックさんに問われる。俺は目線を泳がせる。だが、無駄な抵抗だった。
ザックさんが俺の両頬をつかんで、視線を合わせさせられる。
「うぅ、エリアボスと仲良くなりました」
「あ"?」
思いきり睨まれた。何でだよぉ。
ダリアは悪者じゃないんだぞ。俺が的に出会わないように一緒にいてくれたんだぞ。果実とるのも協力してくれたんだぞ。
「本当なんです。行ってない区画は更新したときに勝手に現れて」
「ブッ」
コーヒーに口をつけていたライアさんが吹き出した。俺はビックリして、ザックさんに襟首と頬を捕まれたまま、縮こまる。
「ごほっ、マジで規格外の子供だな」
咳き込んだまま、ライアさんが言う。ザックさんは今までにないくらい、不機嫌そうな顔をしていた。そして、ため息をつかれた。
俺はその様子を見ていた。そのせいか、また睨まれたが。
と言うか、とりあえず俺を解放してください。
「あの狂暴なフェンリルと仲良く?」
「本当です。色々教えてくれたし、何かされた訳じゃないんです。
怪我もしてません。」
そんな言い訳をしていると、ザックさんが俺を下ろしてくれた。むしろ、落とした。尻餅をついた、とても痛い。俺はおしりを擦って、立ち上がる。
「本当なのか、レイア?
とっても弱そうに見えるんだが、」
「そうですよ。俺みたいなひょろひょろのモヤシ!」
ライアさんに便乗して反論する。実際自分をけなしている気がするのは、俺だけに気のせいだろうか。
「なんで、お前は自分を貶してんだよ」
気のせいじゃないらしい。俺は知らないうちに、こんな感じに育ったのだ。だから、仕方ないだろう。いつも、いつの間にか胸を張って自分をけなしてるんだから。
すると、ザックさんはまたもやため息をついた。苦労の絶えない人だな。三割くらいは俺のせいかもしれないけど。
「とりあえず、街に行くぞ。
空き家があるからそこを手配してる。勝手に使っておけ。
畑も準備してあるから、そこも使っていい」
ザックさんはそういった。俺を話していても、埒が明かないと思ったんだろう。それはそれで、傷付くな。
「いやぁ、お前は見かけによらず面倒見がいいな」
不意にライアさんがケタケタと笑い出した。
ふむ。
確かに、ザックさんは口調に反して、やることがいちいち面倒見がいいいよな。これがツンデレって奴か。
知らんけど。
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