第33話 俺が隊長だなんて、絶対に無理!

「おーい、早く行こうぜ」


 ドナーが俺に呼び掛ける。

 俺は、絶賛嫌々中だ。なぜなら、今日はステージ3を目指すからだ。

 そりゃあ、嫌に決まっている。

 

 このダンジョンは、全てで5ステージまであるそうだ。ちなみに、ステージの最後につく数字が大きければ、モンスターも強くなってくのだそうだ。そして、このダンジョンは敵の出現率が高く、狂暴で自我を抑えることが不可能なモンスターが大半を占める、レベルアップに重宝される場所でもあるのだとか。


 また、11あるダンジョンの中でも、最終ダンジョンである11が難関なのだそうだ。モンスターのランクも高く、帰ってきたものはいないそうだ。


 ちなみに、モンスターのランクはこうなっている。


 S ダンジョン主、神モンスター

 A フェンリル、ドラゴンなど

 B ピンクスパイダー、妖狐など

 C モンチェ、パラアイズなど

 E ゾンビ、ゴブリンなど


 と、言う系列からなりたっているらしい。ザックさんが予習講座をしてくれた。ちなみに、ダリアはSランクであり、あまりお目にかかれないエリアボスらしい。俺が出会ったのは、ほとんど偶然に過ぎないらしい。

 俺はため息をついた。


「ハル、急がなければ危険地帯で野宿することになりますよ」


 イヴがそういった。俺はうなずきながら、魔法のポートの畳んだテントを押し込んだ。ポートはその形を崩すことなく、あの猫型ロボットのポケットのようにテントを収納した。ついでに魔法で刈り取っていた薬草もまとめて、ポーチのすみに入れた。


「はぁ、行くしかないよな」


 俺は安全地帯の出口で待ちわびているドナーをみやって、そう呟いた。イヴももうすでに、そちらへ歩を進めている。


「よし!

 ······行ってきます」


 安全地帯に背を向ける前にいった。そうすれば、僅かに心の奥が軽くなった気がした。弟妹たちを送り出すのを思い出したからだ。とはいっても、一緒に学校にいくことの方が多かったけどなぁ。

 お兄ちゃん、頑張ってくるよ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 俺たちはまた、黄水晶の道を進む。道は入り組んでいて、複雑で歩きずらい。なにせ、水晶でできているダンジョンだ。地面はごつごつしていて、転びやすいと言うよりも、コケやすい。


「ドナー、何か来るかも。気をつけて」


「おぉ!」


 一番後ろで歩くドナーに声をかけた。ドナーは調子よくうなずいて、辺りをキョロキョロ見回す。ちなみに、先頭は俺だ。気が重いというか、俺では役立たずなのではないだろうな。

 何か来るといっても、気のせいかもしれない。

 俺は自分の発言を取り消すように思ったが、四方から音が聞こえてくるのだ。気のせいだと思いたいし、一大事だとしか思えない。


バキバキ!


 派手に音がした。予想通り、四方から。水晶の大きな岩が破壊された。モンスターが四匹現れた。

 それも、昨日俺が遭遇した大きなカマキリ。そのカマキリよりも巨大な、平屋建ての一軒家くらいのカマキリが現れた。ドロッとした鈍い光を反射して、巨大な鎌は俺たちを映している。


「イヴ、安全なところに身を潜めて!」


 俺はひとまず、彼女に指示を出す。一応、予備のナイフを持たせているとはいえ、戦闘向きではない。イヴは無言のままうなずいて、巨大な岩へと身を隠した。水晶だから透けて見えるが、そこは問題なさそうだ。


「ドナーは、二匹頼む。

 俺も二匹相手するから!」


「OK!」


 苦笑を浮かべながら、巨大な鎌を大剣で受け止め耐えているドナーがいった。やはり、巨大で素早いだけあって、手強そうだ。

 そう考えていたせいか、目の前を巨大な鎌が掠めた。


 俺はギリギリのところを、上半身をそらして回避した。

 しかし、二匹いる。そのせいか、追撃が早い。取りあえず、それをナイフで受け流す。でも、やっぱり昨日のとは比べ物にならないくらい重くて、早い一撃だ。二匹相手にするのは難しい。

 そして、受けきれなかった一撃で、俺は壁に激突した。

 ちょうど、ドナーが吹っ飛んだのも見えた。


「っ······」


 俺は受け身をとり、着地する。カマキリが襲ってくる前に、魔力に意識を集中させる。そして、やや遠いところにはいるが、ドナーの回復を試みた。それから、今構えているナイフに魔力を注ぎ込む。

 こうすることで、武器や装備品の強度が爆発的に上がり、戦闘でものを失うことがなくなるのだそうだ。


「ふぅ、」


 俺はカマキリの攻撃を回避し続け、ナイフの強化に集中する。昨日の鉈みたいに折れてしまっては、もとも子もない。

 ナイフが淡い金色の光を帯びた。朝日のように鮮やかで、ナイフを包み込むようだった。

 そして、その光が俺の手元まで達した頃、ナイフが形をグニャリと歪めた。ややごついナイフが、鋳とけた鉄のように歪んだのだ。そして、見覚えのある形になる。日本刀だ。それもやや短く、脇差程度ではあるのだが。

 白銀のやいばが、辺りの色彩を反射する。鞘も真っ黒な、シンプルなものになっている。そして、特徴的なのは柄がないことだ。真っ直ぐで、綺麗な。


「スゲー······」


 ドナーがこちらを見て、そう言った。同様に、俺も呆然としていた。これでは強度をあげる、ではない気がするのだが。

 

 しかし、襲いかかってくるカマキリの鎌が、そんな思考を吹っ飛ばす。

 俺は脇差を構えて、巨大カマキリへと走っていく。カマキリはややイラついたように、俺に鎌を振りかざしてくる。二匹同時に、だ。

 回避はするが、その一撃でダンジョンの地面が抉れる。


「······殺し合いは、嫌いなのに」


 俺は呟く。この世界に来てから、生死の概念が狂った気がしてならない。特にダンジョンでは、抵抗しなければ殺されるのだから。

 俺は誘導するために一匹のカマキリの腹の下へと入り込む。もう一匹は俺だけを視線にとらえている。そのせいか、もう一匹は一匹のカマキリと激しく激突した。

 

 狙い通りだ。巨大カマキリは、普段は群れることをしない。純粋に獲物だけを追い詰める習性があるせいか、周りの視野がひどく狭いのだそうだ。


 俺は一匹の腹をかっ開く。


「······ぇ?」


 不意に異変を察知する。このカマキリ、変だ。

 魔素が他のモンスターとは大きくかけ離れているのだ。そこで気づく。このモンスターが強化体だと言うことに。


 強化体とは、亜種とはまた違って混血ではなく、人工的に魔素を流し込んでモンスターを強化したものだ。できるのは人間か、頭脳を持ったモンスターのみ。それも、ダンジョン主ではない強大なモンスターだ。


「ハル、危ねぇ!」


 ドナーの叫び声が聞こえた。

 思考に意識をそらしていたせいか、カマキリの巨大な鎌は俺の眼前に。俺は飛びすさって、それを避ける。

 同じように鎌から逃げてきたドナーと、背中合わせになる。


「自分に集中しとけよ!」


 それも一瞬で、同じタイミングで俺とドナーは駆け出す。その一瞬で、ドナーがいった。俺はうなずいて、グリモワールを開いた。

 ちょっと厄介だけど、仕方ない。

 倒れるのを覚悟で、このカマキリを処分しなきゃいけない。

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