第55話 Sクラスとは?

 ジンが俺に向かい合い、真剣そうな表情を浮かべている。


「王立学園にはクラスカーストがある。」


「カースト?」


 引っ掛かったところを聞き返すと、ジンはこくりと頷いた。推測でいうと、ジンが言いたいのは俺たちが所属している1-Sについてだろう。それに、グランが寮について話すとき、B~E、A、Sのように別れているといっていた。それも関係するのだろうか。


「まず、この学園のB~Eは普通のクラスと判断されている。

 Eから上にいくとランクも上がる。

 それからAは、特待生クラス。主に貴族とか王族が所属している」


「······じゃあAが一番カーストランクが高いの?」


「うん」


 ジンの説明的に、それが普通の俺が通っていた高校と変わらない。とはいえ、それは成績が上にいくほどとか、進学するかしないかみたいなわけ方だったけど。

 王立学園では成績を二の次にして、身分とかが優先されているのだろう。

 しかし、分からないのはSクラスだ。


「じゃあ、孤立しているSは?」


 俺の表現が正しいかはわからないが、E~Sの間がないのだから差し支えはないだろう。とは言え、グランはおれたちみたいな貴族は家事をしたことがない、と言ったことをいっていたような気がする。

 すると、ジンは少し難しそうな顔をした。


「Sクラスは、噂だけど問題がある生徒を集めたクラスらしい。

 それもいい意味での噂ではなく、悪い意味での噂だ。そこのところハッキリ

 してないけど」


 自身の髪の毛に触れながら、ジンは窓の外を眺める。窓の外には荒れた庭が見える。

 俺はジンの言葉を頭の中で反芻していた。だから、ジンは教室に入る前にため息を吐いたんだ。納得もしたけど、次第にうっすらとした不安が生まれてくる。つまり俺が所属することになったクラスは、明確に示してしまうと問題児クラスと言うことになる。

 まぁ、普通のクラスで下手に目立つよりはましなのかもしれないけど。


「悪い意味での噂かぁ·····」


 俺は苦笑して、頬を掻いた。

 ジンが意外そうな顔をして、俺をじっと見つめている。たぶん、ジンは何かをいっていないのだろう。そこまで重要な事項ではなさそうだけど、ジンの表情は少し居心地が悪そうだ。

 別に隠し事はしていてもいいんだけど。


「でも、続いた人が少ないのはどうして?」


 あまりにもジンが居心地の悪そうな顔をしていたので、話を進めることにした。それに、気になるのはやっぱりそこだ。

 すると、ジンは神妙そうに口を開いた。


「それは長く続いた生徒たちに着いていけないかららしい。

 バランスをとるために、一度普通の生徒を所属させたところ、

 そんな風になったと聞いている。」


「着いていけない?」


 ジンは情報を集める仕事をフリーとは言え、最近までやっていた。間違いはきっとないのだろう。表情的にも嘘をついているようには見えないし。俺は首をかしげ、それからわずかに言葉の意味を理解する。

 

 はじめて教室に入ったとき、異様な殺気を向けられた。

 それから、クラスのメンバー自体が積極的に話してもいない。とはいえ、静かと言えばそうでなかった。お互いを牽制しあうような視線を交わしあっていたりと、教室にいた一時間だけでもジワジワとプレッシャーが掛かってしまうのだ。

 自己紹介とかはしていないから、メンバーのことなど知らない。そもそも、仲良くなれるかどうかよりも、生きて帰れるかが不安になったくらいだ。

 メド君にはにらまれるし。


「う~ん、まずは明日の授業でそこそこ分かるよね。

 それに、ジンがいるから不安はないし、ダメになったらその時考えよう?」


 俺はもう一度苦笑を浮かべて、ジンを見た。


「······ん、解った。」


 すると、ジンは静かに返事をして立ち上がる。しかし、その表情が少し嬉しそうなのはなぜなのだろうか。

 俺は内心首をかしげ、部屋の扉を開く。すると、ジンは入ってきたときと同じように、静かにとなりの部屋へと戻っていった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 俺はふうっとため息をして、椅子に腰かけた。荷物整理をして、部屋の掃除もしていたらいつの間にか夕方になっていた。


「んぅ"~」


 俺は背中を伸ばして、それから椅子の背もたれに背を預けた。

 はじめて異世界に来たときも、掃除の疲労で眠ったんだっけ。猛烈までいかなくとも、ウトウトしながら思い出す。新生活って、ドキドキするけど面倒くさいんだよなぁ。


「······そいえば、最近ステータス見てないなぁ」


 目を擦りながら、視界の脇に光るステータスアイコンに手を伸ばす。代わり映えはないんだろうけど、むしろLv.0の意味を知ってから心臓に悪いものだけど。俺の手がアイコンに触れると、ステータスが表示された。

 

 ハル=サクラシマ


 スキル追加 +神眼

       +自然治癒α



 ステータス表示の最後。見慣れない文字に目を止める。俺は、背筋に汗が伝った。

 いやいやいやいや、なんか増えてるし。

 誰だよ、代わり映えしないっていったやつ。

 俺は眠気が吹っ飛ばされた。いたずらで弟にラリアットされたときみたいな、そんな衝撃だ。

 スキル追加って。前まであったのは農業とか、言語理解とかだ。それから、俺の知らないうちによくわからんものが増えたって言うのか?


「神眼と、自然治癒αって······。」


 神眼も自然治癒も知ってるけど、αってなんだ。

 ちなみに、神眼はあらゆるものを見抜くスキルだ。魔法にある鑑定のグレードアップした物らしい。これはスキルだけど。

 それから、自然治癒は自分も含めた周囲の傷や病気を急速的に治癒できるものだ。とはいえ、大ケガだと回復魔法の方が早いと言われている。


「αってなんだよぉ······」


 頭を抱え、俺は呟いた。

 触らぬ神にたたりなり、だよなぁ。しばらく、様子見にしておこう。俺はスキルから目をそらし、ステータス表示を閉じた。まぁ、これが後々いけなかったことに気づく理由なんだけど。

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