第81話 終焉を迎える余裕はない。

 無駄にダンジョンが明るかった。拠点の窓から見える水中は薄暗さなどなく、白夜のように明るかった。

 まるで何かの兆候のように。

 まだ二人は眠っている。あの後気持ちよさそうに眠っている二人を起こすのは気が引けたから、起こしていなかったのだ。俺は窓辺でダンジョンの様子を眺めながら、違和感を感じた。


「……あそこって、ジンたちの拠点じゃ」


 白夜の中でひときわ暗く見えるところがあった。それが、俺たちの拠点とは結構離れているジンたち――ジン、リリアン、ナーシャ――の拠点だった。そしてその近隣にはグラン達――グラン、ジィド、ファナ――の拠点もある。

 その方向からはグワングワンと、重低音の余波のようなものが届いてくる。何かが起こっているのだと悟った。


「メド君、バードおきて!」


 自分では対処できないであろう気配を察知し、俺は手始めに大声で二人を起こした。バードはすぐに駆け付けて来てくれたが、メド君はまだ寝ぼけ状態だ。

 すぐさま彼の肩を揺さぶり、外の異変を伝える。


「ん"、なんだ、騒がしい」


「ご、ごめんね! でも、ジンたちの拠点で何かが起こってるぽくって」


 少し寝起きの彼の顔の怖さにおののきつつも、状況を説明していく。すると、その長い説明の間に覚醒したのか彼は、そばに置いて居た剣を腰に差した。


「すぐに向かうぞ。厄介事かもしれん」


「じゃあ、せめてサンドイッチだけ持っていこう……」


 テーブルに置いているサンドイッチを指さし、お腹を鳴らすバード。


「一切れずつ持っていこう。到着する前に食べておいて!」


 皿に置いているサンドイッチを一切れずつ渡して、俺もローブを羽織って脇差を腰に差す。

 バードも同じようにローブを受け取って、サンドイッチを受け取る。それから、扉を開ける。メド君も渋々受け取って、黙って頷いた。


「食べ歩きは気が引けるが、致し方ない。」


「ごめん、でも空腹じゃ戦えないでしょ」


 もし敵襲なのだとしたら、だけど。その推測が伝わったのか、メド君はため息をついた。


「そうだな、敵襲の類なら空腹で力が抜けて倒れてられない。シルヴィア家の名に

 泥を塗ることになるしな」


 こぶしを固く握りしめて、メド君がつぶやいた。

 そして、バードが先に向かった方向を追うように駆けていく。一切れを走りながら食べるのは少し危ないのだが、距離がある分余裕はある。

 ただ、誰かが殺されそうになっている状況で余裕などはない。


 とにかく急がなきゃ。

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