第74話 目立ちたくないので、そこそこ自粛します。
俺はナイフ、いや今は脇差を鞘にしまって息をついた。
しかし、討伐するといっても罪悪感がある。すべてを殺すわけではないのだけど、もとはモンスターたちも自我があって俺たちをむやみに襲うことなんてなかったのだろう。
「ハル……?」
「ん? どうかした、バード」
俺はバードの顔を振り向き、足を止める。襲い掛かってくるモンスターたちは、すべて自我を失った者たちばかり。俺はそれに少しだけ疲れていた。別にこの国の騎士団とか魔術師団に入るわけでもないし、出来るなら殺すことなんてしたくはない。
そんな疲れを感じ取られたのか、バードは俺を頭を撫でた。
「休憩、する……?」
「いや、大丈夫。進まないと帰れなくなっちゃうし」
「そうだぞラクリエ。いつ襲われるかもわからないここで休憩はできない」
メド君も振り向き、そう言った。そうだ。
ここは水中。呼吸はできるとはいえ、幾分か動きは鈍っていく。だから、モンスターに狙われやすいし、モンスターとの戦闘で不利な状況も続く。
「えー、ハルも疲れてるのにぃ……?」
なんかうまい具合に利用しようとしてないか、バード。俺は苦笑しながら大丈夫だよと、いったがメド君は眉をひそめた。
「なら拠点に戻るのはあきらめて、安全地帯に向うか」
メド君は拠点の宿泊用の小さな家に戻るのをやめるといった。多分それは俺を気遣っての発言なのだろう。俺は少し申し訳なく思いながら、メド君の後をついて行った。
バードは安心したように息をつき、俺の服の裾を掴みながら歩き始めた。というか、俺なら体力もあだあるから大丈夫なのに。でもさすがにそれを口に出す勇気はなく、ありがたくついていくことにした。
「安全地帯はほかの生徒は来ることもなさそうだな、……ほかのクラスはうわべだ
けでもいい子ちゃんだしな」
ふいにメド君がそう呟いた。聞こえないように言ったのだろうが、このダンジョンの性質のせいなのか聞こえてしまう。俺はメド君の方を伺い見た。彼の眼はどこか遠くを見ていて、虚ろだ。
「まぁ、落ち込んでもしょうがないってメド。いい子ちゃんでいたって、成績悪けり
ゃ落第するんだしね」
俺の服から手を放して、バードはメドに近づき背後から抱きしめた。ちょうどチョークスリーパーのような形になって、メド君は苦しそうだったけど。バードのセリフは的確だったのか、メド君は少し悲しそうに微笑んだ。
俺はそのやり取りに少しばかり安心して、その様子を見ていた。
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