第75話 安全地帯はどこも同じで安心できる。

 安全地帯は少し薄暗い。ドナーたちといたところは水晶に照らされていたけど、それも昼間だけだ。夜になればちゃんと暗くなる。だが、このダンジョンはいつまでも薄暗いようだ。ま、水中なのだし仕方ないんだけど。

 俺は相変わらずポーチに入れていたテントを取り出した。魔法のポーチは便利だ、何でも入るから容量を気にしなくていい。


「そのポーチ、相変わらずわからないな」


 テントの組み立てを手伝ってくれているメド君がつぶやく。俺はそれに苦笑して、テントカバーをかけ始める。確かに大きなテントだから、あの森の家を出る時も俺は躊躇った品だ。というか、森の小屋になぜテントがあるのかすら不思議だった。

 

「はは、俺が最初から持ってたものだから便利なんだけど、ね。」


「まぁ、長年使ってるものは愛着がわくからな」


 そんな会話をしながら俺は、チラリとバードの様子を振り返る。ぐっすり眠ってる。しかも岩の上で。ここに到着してすぐに個々の岩にのかって、バードはぐっすりだ。夕飯の時に起こせばいいか。

 

「そういえば、ここ一応水中だけど火は点くの?」


 馬鹿な質問だとはわかっている。とはいえ、ここはダンジョンだ。可能性は無きにしも非ず。そうすると、メド君はうなずいて”ただし”と言った。


「魔法の火じゃなければ、点火しない」


「あぁー、うんわかった。」


 調理器具をあれこれ出しながら、俺はうなずいた。調理するだけで魔力を消費するのは何というか、避けたいことだった。避けたとこで、このダンジョンでは普段の1,5倍の魔力を消費するらしい。それも、ここのダンジョンのモンスターは魔力をあまり保有していないらしい。そのためのハンデらしい。

 俺はポーチからパンと、野菜数種、スパイスを取り出した。水は魔法で何とかなるしね。というか、ここのダンジョンだと水属性の魔法は魔力をさほど消費しないらしい。

 と、いうのも。ダンジョンにも魔法の属性に適性や、ハンデがあるらしいのだ。このダンジョンだと、水が適正となり、火や光が不適正としてハンデを負う。第二ダンジョンであった水晶の迷宮は、水と土属性に適性があり、光と風が不適正でハンデを負っていたらしい。


「魔力の消費って、抑えられないものかな?」


「無理があるな。抑えれば、精神力を使うし、元の世界に戻った時リハビリが必要

 になる。……魔道具で抑える方法もあるらしいが、ああいうのは高級品と言って

 差し支えないしな。」


 ふむ。メド君の説明だとそうらしい。それに高級な魔道具を買ってまでやるほどのことでもない。というか、節制することが日常だったので無駄遣いは得意じゃない。

 俺は水中であるはずなのにまな板にじっと置かれているニンジンを切りながら、その説明にうなずいていた。


「……夕餉になるのか?」


「うん。あとはここで寝ればいいだけだから、多めに作る必要もないかなって」


 調理を眺めながら質問するメド君に答えながら、鍋に火をつける。魔法で付けたら、本当に火がともった。薄暗い安全地帯もほんのりと照らされて、少しだけ安心する。暗いと、なぜか不安になってしまうから。


「魔力でが作用すれば、周りの空間に作用するときもあるらしい」


 不意にメド君がつぶやくように言ったのでそちらを見ると、俺を指さして”お前がいい例だ”といった。


「ま、お前みたいな魔力がイカレてるやつしかできないけどな」


「うん、自覚してます……」


 意地悪そうににやりと笑うメド君。彼が笑うのは多分初めて見たんだけど、なんかいろんな意味でがっかりしたような気がしてならない。心から笑った顔を見てい見たいものだ。……というか、やはり彼やバードから見ても俺の魔力は頓珍漢な量らしいのだ。

 煮だった湯に痛めていた野菜をぶっこみ、蓋をする。


「魔力の量がおかしいのってなんでなんだろ……?」


「大抵は生まれつき、とか家の遺伝だな。後天的になるのは、よほどのショックで

 記憶をなくした時とか、多重人格のもう一方だったりとかあるな。ま、……本当

 によほどのことがなければ魔力の器が大きくなったり小さくなったりはしない」


 記憶喪失とか、多重人格とか前の世界でも小説でしか触れることのなかった単語が出てきたことに驚いた。ただ、彼の説明にどこか愁いが帯びていた気がするのが気になったのだが。


「……お前は生まれつきだな。元気そうだし」


「ふふ、……元気だからねぇ」


 鍋の蓋をあけながら相槌を打つ。それからスパイスを入れて、塩コショウも入れる。調味料はシンプルなほうがおいしいからね、特にスープは。

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