第52話 王立学園の人の少ないクラス。

 男性に案内された先には、人の少ないフロアだった。なんというか、全体的に静かで気味が悪い。それに、通ってきたお城の中みたいなところとは違って、退廃的というかボロい感じだ。


「ブルーノ様に頼まれ、お二人にはこのクラスに所属してもらいます」


 男性が扉の前で立ち止まり、にこりと笑った。クラスの掛札には1-Sと書かれている。まぁ、当然一年生からなのはわかるけど、クラスが多いのかな? すると、ジンが眉を寄せた。


「ホントに?」


「はい。手違いはございませんよ」


 男性はジンに微笑みかけ、扉を開けた。そして、どうぞといわれる。なんか、この人は服装とか雰囲気とか壮年執事って感じだ。紳士って感じもするけど、一歩引いた感じがそう思わせる。

 俺は男性にお辞儀をして、教室(?)に入る。


「······っ」


 俺は怯むように、教室から目をそらした。

 向けられたのは殺気に近い視線だ。たくさんの視線ではないけど、肌がピリリと焼けそうなほどのものだった。

 ジンはしれっとしてるけど。


「皆様、今日から二人が仲間に加わります。どうぞ、仲良くしてくださいね」


 それでは、と男性が言って踵を返した。俺は呼び止めることができず、口をパクパクさせてしまう。それから、教室を振り向いた。

 人数は十人もいないくらい。使っていない椅子と机を自由に使っているのか、各々が好きな席に座っているように見える。すると、一人と視線が合う。俺はその人に会釈をする。

 すると、手招きされた。


「?」


 俺はその人のところへいく。その人は俺と同じくらいの齢なのだと思う、それから男の人。少し怖い感じがするけど、慣れなきゃいけないよね。


「お前が新しいやつか。席は好きなところを選べ、どうせ長く続かん

 だろうしな」


 嘲笑するように彼はいった。きれいな形の眉毛が歪み、冷たそうなアイスグレーの瞳がすがめられる。

 俺は首をかしげ、質問しようとした。しかし、彼はそれきりで読書を始めてしまう。すると、服の裾を引っ張られる。


「······ハル、あっちいこ」


 ジンだった。俺はうなずいて、ジンに窓脇の席に引っ張られていく。

 名前聞きたかったけど、読書の邪魔はしたくないしなぁ。彼を一度振り返り、窓脇の一番後ろの席に腰かけた。荷物も最低限だから、机の脇にかけた。寮に引き渡す荷物は、先に送ってもらっているしね。

 すると、ちょうど前の席になった青年が振り向いた。優男、という表現がぴったりな感じの垂れ目の青年だ。桃色がかった茶髪がふわふわとしている。


「これからよろしくね、転校生くん!

 おれは、グランだよ」


 手を差し出される。握手なんだろうな。俺は戸惑いながら彼の手を握り、少しだけ微笑んだ。


「俺はハル。えと、よろしくグラン?」


「うん!」


 彼はしっかり俺の手を握って、それから離す。彼の中指にゴツい金色の指輪が光っていた。

 なんだろ、女の子に好かれそうなイメージそのものって感じ。でも、喰えないって感じでもあるんだよな。


「そこの君は~!?」


 身を少しねじり、グランはジンを見る。ジンはそっぽを向いて、何も言わなかった。人見知りじゃないだろうから、単にグランに苦手意識を持ったのかな。俺は苦笑して、グランを見る。


「彼はジンだよ。少し無口なんだ」


「へぇ、そっか。宜しくね」


 そっぽを向いたままのジンにグランはヒラヒラと手を振る。


「あ、そう言えばさっき、メドに何言われたの?」


「メド?」


 グランがそういうので、俺が首をかしげる。すると、グランは読書をしている青年を指差した。手招きされたあと、何をいわれたかってことだろうなぁ。


「えーと、長く続かないって」


「あぁ~、続かない続かない。おれたちが奇跡って感じ」


 ヘラりと笑って、グランはあきれたような顔をした。


「二人とも災難だったよね。」


「さい、なん?」


 その表情は少し嘲りが混じっていて、俺はゾッとする。それに、災難なんて言うのも気になる。


「そう。ここは特殊クラスだから、いろんな意味で、ね?」


 やけに色っぽく言って、グランはにこりと笑った。その笑みに俺は嫌な予感を覚える。


 もしかしたら、このクラスは席の数の人数がいたんだろう。そんで、続いた十人にも満たないメンバーだけが今ここにいる。それが、正解みたいなものだったら嫌な予感もするものだ。


「グランは続いてる一人なの?」


「ん? まぁ、そんなもん?」


 疑問形なのが不思議だが、これからわかるんだし。不安で仕方ないけど。


「ハルは大丈夫かもしれないけどね?」


 グランは明るい表情を浮かべて、ジンの方にも笑いかける。変わらず無視というか、気づかないふりしてるけど。俺はその光景を見て、苦笑した。


「寮はたぶんおれたちと同じだから、放課後一緒にいこうよ」


「うん」


 グランの誘いを断る理由もなく、俺はうなずいた。すると、となりの席でジンが不満そうな顔をしていた。

 口にはしないのだが、ジンは本当に嫌なときは唇を尖らせる。子供みたいな顔をして拗ねるので、分かりやすいのだ。ジンには申し訳ないけれど。


「ジンは、嫌かな?」


「······別に」


 一応聞くと、ジンはため息をついてそう返事をした。

 

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