第17話 御免なさい、俺、雨を降らせます!
SIDE アイザック=レイア
俺は、今、あの街に向かっている。駿馬を走らせ、風を切り、急いでいる。理由は、あの餓鬼が俺に連絡を寄越したことだ。
"俺、雨を降らせます!"
ふざけたことを、と鼻で笑おうとしたが、あの餓鬼の魔力ならできる。そう思った瞬間、俺は走り出していた。ハルに待機命令を出してから。
「ねぇねぇ、君のお友だち、何かするんでしょ?」
俺は舌打ちをした。となりには同僚の優男が、なぜかいる。なぜついてきたと、問いただしても答えることはないだろう。ソイツも駿馬を借り、共に来たのだ。
俺はそいつに隠し事はできないと知っている。だから打ち明けることにした。
「とある餓鬼が、魔法であの枯渇した街に雨を降らすそうだ」
駿馬に揺られながら、男はゆっくりと俺を見た。
「はぁ? ンなことあるわけないじゃん」
男は鼻で笑う。俺は舌打ちをした。こいつに説明をしても無駄だ。なら、実際に見せれば早いのだが、こいつが一番ハルを貴族に売り払いそうだ。金に執着があるから。
すると、街の入り口が見えた。
「急ぐぞっ!」
俺は叫び、馬の腹を蹴る。馬は加速して、街へと飛んでいく。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE ???
僕は街に入る。枯渇している街、植物がもっとも育たない街。同僚のアインは、何か焦っているようにセカセカと歩く。
そんなに急いでも、ストレスで禿げるだけの未来しか待っていないよ。
「あ、ザックさん!」
ふと、前方から声がした。彼がアインのいっていた、子供かな?
男の子っぽいけど、女の子みたいな顔してる。彼はアインに駆け寄り、何か話そうとしている。
しかし、アインがそうはさせなかった。
「あ、痛いッ!」
彼がそう叫んだ。だって、アインが殴ったんだもの。彼のげんこつ、痛いからねぇ。
「何をふざけた連絡を入れやがる!
雨を降らせるだと、冗談を言うな!」
アインは顔を怖くさせて、彼を怒鳴り付ける。というか、彼、可愛らしいというか、綺麗な顔をしているんだね。アインだけ独り占めとかずるいなぁ。
そんなことを思っていたら、彼と目が合った。
「······、ザックさんのお友だちですか?」
彼はアインの方を見て聞く。へぇ、アインは彼にザックと呼ばれているのかぁ。すると、またもや彼にげんこつが飛ぶ。
理不尽というか、アインは短気だよね。
僕はくすりと笑った。
「そんなわけあるか!
こんなやつと友人のやつは、物好きか、変態だ!」
アインは叫ぶ。えぇ、酷いなぁ。
「ザックさん、それはあまりにも理不尽では······」
彼が助太刀してくれる。案外、背が高いのだとわかる。アインと同じくらいなんじゃいかな。まぁ、優しい子だし、名前くらい教えてもいいかな。
僕は彼の前にたつ。彼は怯えたように、後退り瞬きをした。
「僕はシンア。シンア=マクベルさ。
宜しくね」
「え? ······はぁ」
彼はよくわからなそうな顔をして、僕の握手に応じてくれる。白くて細い手だ。僕たちみたいに剣を握って戦う、戦士の手ではない。
ふふ、ちょっと興味がわいてきたなぁ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
SIDE ハル
ザックさんにめちゃくちゃ怒鳴られた。耳がキンキンするよ。
そして、そのあとちゃんと事情を説明しました。すると、ザックさんは納得したような顔をして考え込み始めた。
「だが、お前が雨を降らせたところでどうなる」
眉を寄せ、ザックさんは俺に聞く。俺は考えたことを話始める。本当は、思い付いた瞬間から確かめたかったのだが、あの二人がいることを思い出したのだ。つまり、今はテオとメイにお帰りいただいたあとだ。
「魔法には魔素が含まれているんだと思うんです。
つまり、魔法で降らせた雨にも魔素が含まれているはずなんです」
俺が言うと、ザックさんは渋面を浮かべた。となりのマクベスさんはにやにやしている。彼はもとから理解していたようだ。
「ねぇ、アイン。いいんじゃないかい?
ハルくんが言っていることの原理は間違ってないよ」
マクベスさんがそういうと、ザックさんは一層渋面を深くした。何故だろうか。ザックさんはマクベスさんが嫌いなのだろうか。俺はその様子をじっと見つめる。
「あの、この国の人たちは魔力が少ないと、ザックさんは言いましたよね。」
「あぁ、そうだな。」
俺は深呼吸をした。最後の一手ではあるが、検証済みである。
「魔素の含まれた植物を接種していないから、魔力が少ないんです。
俺、今日、テオくんと朝食を摂ったんですが、
その数時間後にわずかに魔力量が増えてました。共に摂ったメイちゃんも」
ピクリと、ザックさんの眉が動く。変わらず怖い顔をしているけど、手応えはある。
「事実だな?」
ザックさんが低い声で俺に問いかけた。俺はうなずく。
発見したときは驚いたが、少なくとも魔素は調理しているときに消えるものではない。ならば、魔素の含まれていない土に魔素がないことを疑うべきなの。
「やる価値はあるよ。ねぇ、アイン、躊躇う理由がないはずだよ」
ふと、マクベスさんがザックさんに言った。その笑顔は、少し怖いくらいだけど、なんとか手助けしてくれているのはわかる。すると、ザックさんは立ち上がった。
そして、俺を睨む。
「出来るんだな?」
鋭い眼光が、さらに鋭くなる。
俺はうなずいた。雨を降らせるのははじめてだけど、魔力の制御方法はもう覚えている。育たない植物と、子供たちを助けるためなら。身を焦がす火の海にだって入れる。
だって、弟妹を見捨てた気分になるなんて、寝覚めが悪いじゃないか。あの子達と弟妹が重なってしまうんだ。
「俺、やりますよ」
出来ないなんて、毛頭から言う気はない。
俺にできることなんて、限られているんだから。身を削ってでも、その事を果たしたい。
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