第25話 水晶迷宮は危険だって、知ってるけど!?
イヴは俺の先頭を歩きながら、進んでいく。それから、このダンジョンの説明をしてくれる。
「この水晶迷宮は、第二ダンジョンです。
主に商人たちがここの迷宮の水晶を売りさばき、
もしくは珍しい植物を求めてきます。迷宮の資源は無限ですから」
「珍しい植物って?」
俺は書状にかかれていた水晶を探しながら、イヴに聞く。イヴは少し考え込むような仕草をして、水晶柱のところにしゃがみこんだ。そして、なにかを柱の麓から採った。
それは水晶と同じ色の、花だった。それも綿花のような。
「これでございます。透明な綿ができるのです。
その綿は主に青や緑に染まり、機織り職人に好かれます。
そして、高値で取引されるため、商人たちが目をつけたのです」
水晶と同じ色彩の綿花を渡される。綿ではあるのだけど、光沢があってふわふわしている。俺はそれをじっと、眺めた。確かに、綺麗だな。
「これって、採取していってもいいのかな?」
俺が呟くと、イヴが微笑んだ気がした。そして、彼女はうなずいた。
「はい。許可は降りているのです。
ただ、誰もとろうとしないのは、
その花が加工するには難しい構造をしているからです」
「難しい構造?」
俺は首をかしげて、花を見た。視た。ステータスボードの脇に情報が表示された。どうやら、光の魔素を持っているものにしか加工はできないとかかれている。光の魔素の保持者はザックさん情報だが、非常に少ないという。それも、400年に一度しか生まれてこないとか。
ふと、俺は首をかしげた。
俺。光の属性持ってるよ?
「ハル、どうかしましたか?」
「俺、光属性持ってるよ」
俺はイヴにそう告げた。持っているからと言って、素の魔素があるとは限らないが、ワンチャンありそうな。
すると、イヴは驚いたような顔をした。
「なら、持ち帰りましょう。暮らしに困らない金額が入ってきますよ」
気合いのはいった声と顔で言われた。俺はその勢いに驚く。とは言え、今の暮らしが貧困と言うほどでもない。野菜は育つし、種も逐一とっている。だから、強いて言うなら服とか布とかを作りたいだけなのだ。
まぁ、そんな金額なんて、どう使っていいかわからないから、何処かに寄付してしまうかもしれないし。
「う、うん。じゃあ、水晶も探すついでに、これも探そうか」
「当然ですよ!」
イヴが弾けんばかりの笑顔でいった。俺は苦笑を浮かべる。人形も貧困の類いを気にするんだなぁ。でも、心が通じることはこの上なく嬉しいことだ。
ガサガサッ、ガサッ
背後でそんな音がした。ここには草むらなどないのに、そんな音がするものかと思っていたが、イヴが怖い顔をしていた。
「何か来ます!」
そして、イヴは腰元のナイフを引き抜いた。イヴをめがけて、何かが突進してくる。目で終えない早さではないことに気がつき、俺はその何かを捕まえた。真っ白な体毛、真っ青な真ん丸お目々。
ウサギ?
「ゴツいウサギだ······」
俺は呟いた。鋭い牙を剥く、普通のウサギより大きなウサギ。それが一匹。俺はそのウサギを抱えたままーーつまり捕まえた状態のまま、イヴのもとへ駆け寄る。
「大丈夫、イヴ?」
すると、イヴはポカンとした表情でうなずいた。
不意に腕に痛みが走る。
「痛ッ!」
俺は自分の腕を見下ろす。そこには抱えられていたウサギが、俺の腕に噛みついていた。どうりで痛いわけだ。俺はそのままウサギのモンスターを撫でる。ウサギはおとなしくなって、俺の腕のなかでおとなしくなる。
すると、イヴが目を瞬かせて、唖然としていた。
「大丈夫なのですか、噛まれてしまいましたが」
「え? うん。平気だよ」
俺はうなずく。こんなのザックさんの拳骨と比べたら、天と地の差だ。それに装備しているだけ、怪我はしていないな。
ローブが少し穴が開いたけど。後で帰ったら繕えばいいだけだ。長くものを使うことはいいことだって言うし。日本独自の文化なのかもしれないけど、特にツクモ神とかは。
「とにかく進もう。この子、どうしよう」
俺は腕のなかでおとなしくなったまま、デンと動かないウサギを見下ろした。ウサギは鼻息をして、そっぽを向いた。動く気は、さらさら無いらしい。俺はもふもふだから、構わないけど。
イヴは苦笑して、ウサギを見る。
「連れていきましょう。何かあれば使えるかもしれません」
「······食料とか?」
俺は首をかしげた。エルがいたときは、エルがウサギを獲りに狩りに行っていたけど。ウサギを捌いたのはそれきりだ。それに、俺にジビエ料理の心得はない。あと、このウサギは美味しくない。ステータス表示に表示されている。
この世のものとは思えない味がしますので、食料には適しません。
と。そんなわけで、俺はイヴを見た。イヴはそういう意味じゃないと、首を振る。
「そのウサギーーモンチェは、痺れ薬の材料になるんですよ」
物騒な単語が飛び出た。痺れって。
確かに、この世のものとは思えない味って、評価されるわけだ。俺はウサギをもう一度見下ろして、撫でた。
「そっか。」
「殺したくないのですか?」
不思議そうに、イヴがいった。その言葉が胸に刺さる。モンスターが殺されるのは、この異世界じゃ当然のことだ。俺はそれができない。
「うん。殺したくないよ、何も」
俺はイヴを見て、笑った。
すると、イヴは悲しそうに微笑んで、それからうなずいた。
「ニンゲンには当然の感情ですよね。私が間違っていました」
イヴはそう言って、胸を押さえていた。聞こえるのは魔素の流れる音なのだろう。心が確かにあると、わかっている表情だった。
「大丈夫だよ。俺も間違うことはあるもん、ね?」
俺はイヴに手を差し出した。片手だ。
もう一方の腕にはウサギがいる。
すると、イヴが嬉しそうに笑って、俺の手をとった。俺はその手を握り、ダンジョンの中を進んでいく。水晶の迷宮には、靄がかかっている。はぐれたら、大変だもん。
「行こう。んで、早く帰ろう!」
俺は意気込んで、ウサギとオートマタと進んでいく。
端から見れば、可笑しな組み合わせのパーティだ。ウサギは戦力ではないけどね。俺は少し微笑んで、前を向いた。
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