第94話 さぁ、洗いざらい吐いてもらおうか?

 SIDE メド=シルヴィア


 俺は戸惑うなようなハルと、それをからかうロウドにため息をついた。二人そろって本題を忘れているのだろうか。ハルはあえて触れていないような気がしなくもないが。

 

「おい、そろそろまともな話をするぞ……」


 そういうと、ロウドがこちらを見た。不満はないのだろうが、どこか虚ろな瞳でこちらの出方を探っているようだった。

 ハルはもとより俺に主導権を握らせるようだった。俺はロウドを見据え、口を開いた。


「グラン=ロウド、すべて、洗いざらい話してもらうぞ。これが終わればお前は裁き

 にかけられる。ここで聞かねば、もう一生聞くことはないだろうからな」


 俺の言葉にロウドはもちろん、ハルも動揺していない。

 おそらく、この合宿が終わればダンジョンの破壊に加担したことでロウドは裁かれる。加担というには証拠は少ないが、ロウドの父親がいたことを見ている俺たちがいる。それを言えば、少なからずロウドの罪は軽くなるだろう。というのも、ロウドの父親は数年前監獄から逃げ出している。そのうえ、ダンジョン崩壊を以前からもくろんでいたとされていた。それが可能であることもあり、その父親に脅されたとなればロウドも執行猶予くらいはつくはずだ。

 まぁ、目的は父親への復讐なのだろうが。


「そうだね、裁きにかけられれば学園に戻ることもできないしね。……そうだな、

 何から話すべきかな」


「あの瘴気はお前か……?」


 迷っているようだったロウドに、俺は聞く。


「いいや、あれはおれじゃないよ。ただ、この場所にモンスターを集めたのはおれ。

 あいつを探すのにはモンスターが邪魔だったからね……?」


「あいつってレカルドの事……?」


「そう。ハルは知ってたんだね」


 ハルの問いにロウドがそう答える。ハルはロウドの言葉に複雑そうな顔をして、眉を寄せた。


「うん、第二ダンジョンで戦った。人質を取られて、冷静じゃなかったけど……」


 ハルはうつむいて、苦しそうに微笑んでいた。


「ハルが感情的なのは目に見えないなぁ。ま、つづけるね。おれは合宿中ずっとあ

 いつを探してたんだ。拠点にも戻らなかったし、あいつを見つけるのには苦労し

 たんだけど……、ハル? どしたの?」


 ロウドの言葉にハルが眉をしかめた。だが、何でもないと苦笑を浮かべて話の路線を戻そうとする。これはさすがにおかしいと思ったのか、ロウドが春の顔をじっと見つめていた。

 

「ハル、何か隠しているなら話せ……」


「う、うん……」


 ハルは自分の手をぎゅっと握りしめながら、深く息を吐いた。


「夜中にさ、……ジンが俺に手紙を渡しに来たんだよね。ジンはグランから受け取

 ったって言ってたから、……でもグランは拠点に戻ってないみたいだし」


「ねぇ、それってホントにおれからって聞いたの?」


「うん、ジンがグランから受け取ったって。い、……一緒に見たら呪字が並んでて。

 ジンがすぐに握りつぶしたから、何もなかったけど……」


 グランがそれを聞いてさっと顔を青ざめさせる。そして、桃色の頭髪を掻きまわして、そのまま黙ってしまう。


「……それ、あいつから、だ。あいつ、魔術で化けれるから」


 ロウドが頭を抱えたまま呟いた。すると、椅子に座っていたハルがロウドの背中をさする。わずかに呼吸が荒くなったロウドは、少し落ち着いたように深呼吸をする。


「グラン、落ち着こう……? 冷静になれば、思い出せるから」


 被害者であるはずのハルが優しくつぶやいた。


「メド君、とりあえずお茶を淹れてきてもいいかな?」


「……好きにしろ」


「うん、ありがとう……」


 反対してもおそらく俺が納得するまでお願いされるのだ。俺は素直に聞き入れ、キッチンへ向かったハルを見届ける。それから、ロウドの前に椅子を持ってきて、座った。ロウドはやや虚ろな瞳で俺を見た。

 何か思うところがあるのだろうが、今はそんなことを考える必要は俺にはない。そういうのはハルみたいな優しすぎる奴がすればいい。


「ロウド、お前は日ごろから探るような真似をしていただろう。なぜだ」


 俺の問いに、ロウドははっとしたように顔を上げた。


「気づいてたの……?」


「俺と、おそらくジンは気づいていた」


 俺の言葉に、ロウドは弱弱しく笑って”そう”と返事を返した。


「噂だったんだけど、あいつの手先が学園にいるみたいな話を聞いてさ。あれを探し

 てた。……突然転校してきたハルとか、授業に出ないバード何て一番あやしいじ

 ゃん? でも、違った。……はぁ」


 ロウドはため息をつく。


「その話なら、出所に聞けばいいだろう?」


「え、なに? メドは知ってんの?」


 俺の発言に瞠目しているロウドに頷いた。ポカンとしているロウドを見ているうちに、ハルが戻ってきた。ハルは距離を詰めた俺とロウドに驚いたようで、首をかしげていた。それから、何事もなかったかのようにマグカップを渡される。

 

「はい、ハーブティ。飲みやすいようにしてるから、熱いのにだけは気をつけてね」


 そう言って、ハルは椅子に座った。


「ん、おいしい……」


 のんきにロウドが言うものだから俺は少しイラついて、ため息をつく。すると、近くに座ったハルが苦笑を浮かべたのが見えた。


「で、? メド、さっきの話の出どころって誰?」


 ロウドの発言を理解していな入るに状況を説明してから、俺はロウドに向き合った。


「うちの学園の新聞部だ。あいつらが噂の出どころだ。……新聞部の長が誰か知って

 るだろう」


「あぁ~……、あの子、ね……」


 俺の話に、グランは苦笑した。ハルはまだ対面したことがないはずだが、新聞部の部長は相当なゴシップ好きだ。そのうえで、ゴシップのためなら法を犯しかねない奴だ。

 俺も顔を合わせれば、家のことでスキャンダルはないかとよく聞かれる。


「なら、聞いた方が早いかぁ……」


 ロウドがそういうも、すぐに真顔に戻る。


「……ねぇ、グラン」


 ハルが何かを思いついたのか、目を細めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Lv.0からって冗談でしょ! 道理伊波 @inami_douri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ