第50話 宰相さんに目をつけられました、ん?

 俺は王宮にてとある人物と対面していた。モノクルをかけた、美人な男の人が俺をじっと見据えている。その表情はザックさんと同じ面影を持つ。

 ここは王宮の宰相執務室。

 目の前にいる人はブルーノ=レイア。若くしてこの国の宰相になった、ザックさんのお兄さんだ。


「待っていましたよ、ハル=サクラシマ」


 フクロウのような鋭い瞳を細め、ブルーノさんは不敵に微笑んだ。

 俺は少し恐怖を感じ、彼から目をそらすために頭を下げた。挨拶もかねて、ではあるんだけど。


「ハルくん、君の今回の行いには感謝します。

 街の復興に一部貢献し、王族専用の魔法自動人形の発見、

 指名手配の少年の捕獲。実に素晴らしい」


 彼は淡々とした口調でそう言った。俺はその言葉に取っ掛かりを覚える。イヴを発見したのは偶然だし、ジンにしたって捕獲したかった訳ではない。それに、ジンはもう暗殺から足を洗ってるんだし。


「俺は二人をどうこうしたいわけじゃ······」


「そうですね、少し試しただけです。アイザック君にも、君は底無しの

 お人好しだと聞いていますから。そこでお願いがあります」


 ブルーノさんはにこりと不穏な笑みを浮かべた。

 俺の背筋が冷たくなった。嫌な予感がする。だって、そのお願いって明らかに拒否権がないでしょ。


「これです、どうぞ」


 ブルーノさんは俺に一枚の紙を差し出す。規則正しく手書きでかかれた文字は、予想外のお願いがかかれていた。


「王立学園に通う······?」


 確認するために聞き返すと、ブルーノさんは良くできましたと言わんばかりにおうように頷いた。王立学園に俺は、なぜ通うことになるんだ。


「はい。学園に通って、この国や世界、魔法について学んでください。

 編入手続きはすでにしてます。来期から、といっても一週間後からですが、

 まぁ構わないでしょう。寮も完備してますし、学費はウチだ出します」


 ブルーノさんはそう言った。俺は首をかしげ、ぐるぐると思考が果てなく回る頭を必死に冷静にさせた。財政難なのに、学園に通わされるの。そのぶんは出せるってことなんだろうけど、なんで俺なんかが。

 それに、ジンも心配だ。


「あの家は残すので心配なく。あと、要求があれば聞きますが」


 それ、絶対聞くだけのやつじゃん!

 心の中で叫ぶが、ブルーノさんのさっきの笑顔が怖くて言えなかった。そこで俺は、受け入れてもらえそうにない願いを言うことにした。


「では、ジンーー指名手配の少年も一緒に通わせてください。

 あと、何か仕事があれば、と」


 すると、ブルーノさんは目を見開いた。


「······それだけですか?」


 彼はまばたきをして、俺にそう聞いた。俺はその表情を不思議に思い、そのままこくりと頷いた。  

 すると、ブルーノさんはそうですかとだけ言った。そして、書類を懐から取り出して、何か書き込んでいる。


「そこまで欲がないとは思いませんでした。はぁ、では承認します」


 


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 SIDE ブルーノ=レイア


 私は彼の出ていった扉を見つめた。

 そして、モノクルをはずしため息をつく。


「ネイビー、いや今はジンでしたっけ?」


 そして、天井を見上げた。ずっと、彼の気配がしたのだ。すると、彼は天井の板を一枚はずし、天井裏から顔を覗かせた。

 昔から変わっていないと言うか、いい意味で何も変わっていないと言うか。


「ブルーノ、それは昔の暗殺者としての名だ。それで、なに」


 つっけんどんに返されたが、昔からだ。幼少の頃、平気で暗殺をしていたときより感情が豊かそうで、私は少し安心している。


「貴方は学園にいくこと、」


「了承する。······ハルには恩がある」


 最後までいい終えることはできず、彼の返事を聞くことができた。私はただ頷いた。なるほど、あの少年はとても大きな魅力を持っているようだ。

 シンア君から聞いた通り、とでも言えばいいのか。


「では、貴方の指名手配を取り下げます。

 まぁ、あれは貴方を始末したかった貴族側の思惑、完全な濡れ衣ですから」


 そう言うと、ネイビーもといジンは目を細めた。彼にもここ数年、思うところがあったのだろう。だから、私としてはこの少年に少しの余裕ができてもよいと思うのだ。

 昔の下っぱの文官だった時とは違い、私にもそれなりに地位がある。


「彼がこの世界を救う御神託の少年であるなら、

 利用しない手はありませんから」


 

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