間章 王宮に呼び出されたって、俺なにもしてません!

第49話帰ってきました、頑張ったよ!

 俺は目を開いた。

 帰路につくために移動魔法を使った俺は、巨大な魔力消費できを失ったのだ。視界には懐かしいとすら思う、青い空。ダンジョンの入り口を囲む、木の群れ。その視界に少年の顔が入る。


「おっ、やっと起きたな、ハル!」


 ドナーだ。安堵したような、嬉しそうな顔をして、満面の笑みを見せている。俺は苦笑を浮かべ、ゆっくりと体を起こした。地面に横たわっていたから、背中に土ぼこりがついているだろうなぁ。


「ごめん。魔力使ったから、疲れちゃったみたい······」


 ローブを脱ぎ、痛む頭を押さえながら立ち上がる。目眩はないし、雨を降らせたときみたいに昏倒はしてなかったみたいだ。

 すると、ジンが脇から俺を支えてくれる。別に歩けないほどでもないけど、甘えさせてもらおう。イヴも支えようとしているのか、あわあわとしている。出会ってから、随分と表情が豊かになったものだ。


「······大丈夫なら、良いんだけど」


 ジンが不安そうにしている。俺はそれに微笑んで、ジンの頭を撫でた。すると、ジンはムッとした表情をして、照れ臭そうにしていた。

 

「つーか、無理する前にいっておけよ! ヒヤッとすんだから」


 ドナーに思いきり背中を叩かれた。

 俺は少しつんのめったけど、ジンが支えてくれているお陰か転びはしなかった。しかし、それが嫌だったのか、ジンはドナーのすねに蹴りをいれていた。俺はそれを見ないふりをして、三人の顔を見比べる。


「イブとドナーは、帰るところはあるの?」


 ジンは俺が引き取るという話をしていたから問題はないらしいけど、イヴやドナーは分かっていない。イヴはダンジョンに長い間いたと言うし、ドナーにしたってそんな話を聞いたときはない。


「ん? オレは一応、兄弟いるから帰るぜ!」


「······私は、多分あります」


 ドナーはいつもの笑みであったが、イヴはその表情を曇らせている。俺は内心首をかしげたが、不意に遠くから音がしてそちらを見た。

 馬の走るような音が、こちらへ近づいてくる。

 そういえば、この音、何かで聞いたときがあるような。


「おや、居たよアイン!」


 木陰から、走ってくる馬とそれに乗っている人影が見えた。いるのは五人ほどか、それより少し多いくらい。

 すると、ジンはわずかに驚いたような顔をした。そして、俺の背後に隠れる。

 

「無事だったか、ハル」


 駿馬であったのか、馬はすぐ俺たちの前についた。俺に声をかけたのは、久しぶりにとも言えるザックさん。相変わらず、顰めっ面をしていて大変だったんだなぁと思う。

 すると、頭に衝撃が走る。


「コラ、アイン。帰ってきたのにそれは酷いよ」


 それをとなりにいるマクベルさんがたしなめる。頭へ走った衝撃は、恐らくザックさんのげんこつだろう。俺は頭を押さえながら、苦笑を浮かべた。めっちゃ痛い、頭痛に響く。

 すると、ザックさんは俺以外のメンバーにやっと気がついたらしく、目を見張る。マクベルさんも、同じような表情を浮かべている。


「ハルくん。この子達は、君が拾ったのかい?」


「え·····? えと、はい」


 マクベルさんに聞かれ、おずおずとうなずく。とは言え、拾うという表現には躊躇いはあったが。


「その女の子、イヴ=クリスタだね?

 王族専用の魔法自動人形だった。40年前に行方知らずになってたらしいけど」


 マクベルさんの目がスッと細められる。


「王宮禁書庫に君の絵があったよ?」


「そうですか。」


 マクベルさんに対して、イヴは気にしてもいないような顔をしている。俺はその状況を理解できていなかった。しかし、マクベルさんの表情からして、とても重要そうではある。

 それから、ザックさんも険しい表情をした。


「テメェらは、指名手配とギルド荒らしか」


 その視線はドナーとジンへ向けられている。指名手配はジンで、ギルド荒らしは魔力制御ができないドナーのことなのだろう。


「ハルくん」


「っへ、はい!?」

 

 馬に乗ったままの二人に、見下ろされている俺はサァッと悪寒がした。曰く付きのメンバーをつれているのだから、理由はそれなんだろう。だけど、怖くて仕方がない。いつも温厚そうなマクベルさんも、笑顔ではなく険しい表情だ。


「すごいね、君。本当に面白い」


 その表情はすぐに変わった。今は満面の笑みで俺を褒め称えている。

 それから、まるでそれが合図となったかのように二人は馬から降りた。それから、ついてきた兵士らしき人たちも馬から降りて、整列している。俺はそれに驚いき、肩が跳ねた。


 兵士さんたち、心なしか俺を見てる、ような······?


 兵士さんから視線をそらし、ザックさんたちを見る。

 すると、ザックさんは辛抱強く、ため息をした。話を聞いてくれる余地は与える、みたいな感じっぽい。


「ハル、お前一回王宮に来い。気は乗らねぇが、な」


 では、ないっぽいな。

 

「今、······?」


 いきなりすぎて、俺は首をかしげた。すると、ザックさんは険しい顔をさらに険しくさせた。

 はい。

 俺はうなずくしかなかった。俺なにもしてないもんね!

 心の中で必死に弁明しても、伝わることは当然ない。辺りを見ると、ドナーは危険を察知したのか居なくなっているし。ジンは俺のローブに引っ付いて、コアラの子供みたいになってるし。


「······選択肢は」


「当然ないな」


 ザックさんに全部言わせる暇もなく、切り捨てられてしまった。


 デスヨネー。

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