第48話 帰るには、魔法を使わなきゃいけないって嘘でしょ!?

 白髪さんの伝言を伝えるべく、俺たちは素早く帰ることを決意した。

 というのも、そうしなければ他のダンジョンに被害が及ぶ可能性があるからだ。しかし、ジンいわく、レカルドはしばらく身を潜め行動を起こすことはない。


「ハル、頼んだぞ。」


「はい」


 白髪さんと向かい合って、俺は返事をした。伝言くらいなら頑張ってもいいだろう。

 俺は最後に白髪さんに頭を下げた。


「元気にしていてくださいね」


 そう言って、俺は微笑んだ。次会うとき、敵かもしれないという恐怖はあるが、出来ればお互い笑って再開したい。

 すると、白髪さんは少し驚いたように目を見開いた。それから、呆れたように微笑んで俺に手を差し出す。


「あぁ。申し遅れた、私はハク。また縁があったら、」


「はい!」


 白髪さんの名前はハクと言うらしい。色彩通りだし、きれいな彼らしい名前だ。俺はおずおずと、白髪さんーーハクの手を握り返す。

 ヒヤリと冷たい。水晶のように澄んだ白い手は、彼らしい暖かさがあった。


「フロックさんも、元気にしててください」


 ハクさんから手を離して、フロックさんの方も見た。すると、フロックさんは照れ臭そうに笑って、うなずいた。

 そして、扉の方で待たせていた三人の元へ、俺はかけていく。

 ドナーは待ちわびていたのか、眠そうにしていた。イヴは姿勢よくピクリとも動いていないし、ジンに至っては呼吸しているかも怪しい。


「ご、ごめんね。待たせてしまって······」


「······待ってない」


 すると、ジンは閉じていた目を開き、そう呟いた。ドナーも歓喜するように、にっかりと笑った。イヴもうなずいて、準備万端のようだ。なんというか、切り替えが早いメンバーだなぁ。

 俺は三人の切り替えの早さに苦笑しながら、頬をかいた。それから、またフロックさんとハクさんを振り向く。


「······ありがとうございました」


 二人に頭を下げて、少しだけはにかむ。

 二人は笑って、手を振ってくれた。そして、俺はきびすを返すように大きな扉に手をかけた。

 重くて水晶がぎっしりつまった扉に、体重を少しかける。


「よし、行こうか。」


「あぁ!」


 一番最初にドナーが返事をした。そして、先頭をきって彼は走っていく。俺もそれに続いていく。イヴとジンはそれを確認してから、俺についてくる。雛鳥みたいに二人だな。


「ジン、これから街に戻るんだよね?」


 俺は後ろをついてくるジンを振り返り、そう質問した。すると、ジンはうなずいて、立ち止まった。


「ドナー、一回止まって戻ってきて!」


 先を走っているドナーを呼び止め、俺とイヴも立ち止まる。

 ドナーも不思議そうな顔をして、稲妻のように走ってきた。そして、三人でジンを見た。


「帰るんだけど、最終ステージまで来たら移動魔法を使うしかないんだ。

 ······ここはレベルが高いのしかこれないから、普通は」


 ジンは気まずそうにそういった。普通はってことは、俺たちが異常だってことだ。なにせ、ドナーはLv.40を越えていない。イヴもそうだ。ジンは越えてはいるらしいけれど、ステータスを見たことはないし。


「あぁ、なるほ、ど、ね。」


「マジか! オレ、高度な魔法使えねぇぞ!」


 俺は苦笑してジンから視線をそらした。ドナーもそれなりにショックを受けているらしい。

 そこで思い出す。装備品である、グリモワールならかかれているんじゃないかって。俺が使えるのはモンスターを移動させる魔法だから。俺は急いで腰元にかかっているグリモワールを取り出した。


 

「ハル? それって、グリモワールじゃ······」


 ジンの声が耳に入ってきたが、ページをめくっている俺は左右に声が流れていってる。集中していたお陰か、すぐに見つかった。

 今までのページとは違い、少し言語が違ったが、言語理解のスキルのせいか気合いを入れるとすぐに読めた。その頃には、ジンも何も言わなかった。


 俺は三人を順々に見た。

 

 三人で帰りたい。


 俺は虚空に手をかざした。じわりと、手のひらに熱が集まった。辺りの魔素に集中して、それからその流れにしたがって魔力の流れを作る。水流みたいに、鮮やかで激しい渦の魔素が見える。

 俺は目をつむった。

 うん。できる。


 移動魔法はダンジョンの外へ繋げる。もともと、今は昼間だから誰も近づかない。だけど、誰かに見られたら。そんなことを思いながら、フッと息を吐いた。ゴッソリと魔力が削られたような気がするが、頭の中にある魔方陣が思い浮かんだ。


「······帰ろう」


 俺は目を開いて、ふと微笑んだ。

 イヴやドナージンの顔が見える。それから、足元が淡い金色に輝いた。俺は少し驚いて、足元を見下ろした。


「魔方陣が浮かんだ!」


 ドナーがはしゃぐように、そう叫んで笑った。ジンは驚いたような顔をして、魔方陣をじっと見下ろしていた。イヴも、だ。

 

 足元には俺たち四人を囲むように魔方陣が浮かんでいたのだ。ふわふわと綿毛みたいな、淡い光の粒子が砂ぼこりみたいに舞い上がる。

 すると、ステージ5に入ったときみたいな浮遊感が俺たちを包んだ。

 目の前には”オメデトウ、ダンジョン踏破”の文字。


 俺は、少し達成感を感じた。しかし、魔力をごっそり削ったせいか、眠気が襲ってくる。でも、帰れるんだし、まぁいいか。

 帰ったら、テオとメイとまた畑を作れる。ジンも迎えることになったし、少し楽しみになってきたな。まぁ、ザックさんにたくさん怒られて、無茶ぶりされるんだろうけど。



 俺は、第二ダンジョンを踏破した。

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