第38話 ステージ3第一安全地帯は、至って快適です!
ポーチからニンジンと芋を取り出す。ちゃんと包装しているので、問題はない。それに、"魔法"のポートなので、収納したものを覚えている限り、望んだものを取り出せる。
つまり、ポーチの中身を見なくても、目的のものが取り出せるのだ。
「なぁ、何作るんだ?」
ドナーが俺のそばにしゃがみこんで、俺の作業を見ている。
俺は苦笑しながら、ポーチから固形スパイスと、大きな鍋と包丁を取り出す。固形スパイスは俺お手製。
前いた世界、というか日本ではカレールーの素と言うのではないだろうか。家では辛いのが苦手な父と弟妹のためにバー○ンドカレーを使っていた。というか、料理好きな母がいたので、家計に余裕があった時期はスパイスから作っていた。俺もそうしている。
「カレーを作るんだよ。」
「カレーを?」
俺の言葉に、ドナーは首をかしげて聞き返す。俺はそのままうなずいて、ニンジンを一口大に切っていく。
「この国は食糧難だって、ハルは知らないのか?」
ひどく純粋なドナーの一言に俺は固まる。この国の食糧難は根深いのだそうだ。ザックさんが生まれる前からあるのだから、認識的には野菜は珍しく貴重なもの。貴族であっても、本当に上のランクの人しかお目にかかれないのだそうだ。
「知ってるよ。だから、街で野菜を育てられるように頑張ってるんだ。
この野菜は、街の子供たちと一緒に作ったんだよ」
そう言いながら、ジャガイモの皮を剥いていく。皮は出汁にも出来るからあらかじめ洗っている。ついでに、ドナーが狩ってきてくれたウサギを捌いていく。血抜きも面倒くさいが、やらなければならない。
「ふーん。」
ドナーは俺の作業をずっと見つめながら、眠そうにいった。俺は苦笑した。今日はダンジョンを走り回っていたし、ドナーに至ってはカエルに呑み込まれそうになっていた。
俺はポーチからブランケットを一枚取り出す。
「できたら呼ぶからさ、仮眠しておいでよ。
イヴも休憩でスリープモードだしさ、気にしなくても良いよ?」
「······うぅん」
ドナーは渋い顔をしながらブランケットを受け取った。結局、今日は第一安全地帯に辿り着いただけだった。思ったよりも広かったのだ。だから、今日はここにとどめておこうと言うことになったのだ。
「わかった、お前も休んでから夕飯にする」
ドナーはあくびをしながら、張った大きなテントの方へ歩いていく。俺はうなずいて、微笑んだ。
心配しなくても、俺は結構頑丈な方だから大丈夫なんだけどな。いや、我慢強いって言うのかな。俺は魔法で水を発生させながら、鍋に注ぎ込む。
「ちゃんとしなきゃなぁ······、ふふっ」
野菜とウサギの骨から出汁を取りながら、笑いが漏れた。
そして、不意に気づく。今から出汁をとってたら、時間がなくなるのでは?
少しあせる。
「時間魔法なら、なんとかなる、······かな?」
不意に思い付く。時間魔法とは、時間を巻き戻したり、早送りしたりできる魔法のことだ。
でも、使い方を誤ると、料理に関しては焦げたり渋くなったりするのだ。
俺は少しだけ悩む。
料理をしている時間は至福だし、なにより楽しい。だが、時間をかけすぎることが多い。でも、今回は二人を待たせるわけにもいかない。俺は、決心した。魔法を使おう!
「ふむ。」
俺は鍋に指をかざした。
それから、鍋の熱気に魔力をのせる。
フワリと、芳しい出汁の匂いが漂ってくる。俺はフフと、微笑んだ。この匂いが、俺は結構好きだ。
アクを取り出して、もとになった野菜の皮と葉、ウサギの骨も取り出す。それから、脇で炒めていた芋とニンジンを鍋の入れる。クツクツと、甘い匂いを醸し出しながら魔法のおかげか、柔らかくなっていく。
それから、また別に火を通していたウサギの肉も入れる。
ついでに、忘れていたと思いながらポーチからハチミツと林檎を取り出す。
よーし、便利な魔法でゆっくりできそうだ。
ラストスパート、頑張りますか。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
鍋の火を止める。俺はため息をついた。
それから、ポーチからパンを取り出す。白米はまだ栽培できそうにないから、未だにパンのままだ。日本人の俺は白米が、とても恋しいのだけど。
「······アンタ、物好きなもん作ってるな」
不意に頭上で声がした。
「へ?」
俺は驚いて、頭上を仰いだ。そこには久しぶりとも言えない顔があった。
昨日の少年だ。紫色の髪の毛は相変わらず存在感が大きく、細くて繊細そうだ。俺は目を見開いた。
頭上と言うよりも、結構至近距離に彼の顔があったのだから。
「······それ、カレーって料理だろ?」
「う、うん」
じっと、鍋の中身を見つめながら彼は質問する。それに俺はうなずきながら、驚いていた心臓を押さえる。
どうやって、現れたのだろうか。昨日も思ったのだけど、彼は足音を全くたてない。常に静寂にあるような、影そのもののような雰囲気を彼は持っている。すると、俺の足元にナイフが突き刺さった。
いや、彼が避けたものが俺の足元に刺さったのだ。
「ハル、ソイツから離れろ!」
それを投擲したのは、ドナーだった。焦っているような表情で、少年を警戒している。それから、俺を庇うように瞬間的に駆け寄ってきて、背に隠した。
「······はーあ、めんど」
少年は鬱々とした表情で、ドナーを見据えた。
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