第63話 たかが杞憂、されど杞憂、しかし?

 二時限目が始まる。まぁ、同じ授業を四時間ぶっ通しでやるだけなんだけど。二時限目からはメド君が言った通り、自由に二人一組を組むことになった。

 ジンに誘われたけど、先にメド君と約束をしていると断った。ジンはやや落ち込んでいるように見えたが、リリアンに引っ張られていった。少し申し訳ないが、友達が増えたみたいで嬉しかった。


「メド君、ごめんね待たせちゃって」


 そのやり取り――リリアンがジンを引っ張っていくのを見送ったあと、彼を振り向きそう言った。すると、彼は首を振った。


「フォレストがああやるのは、よくある光景だ。」


 フォレスト――リリアンの家名だ。

 そして、その光景を見慣れたと言うよりも、諦めたような表情をしている。たぶん、ああやって引っ張られて強制的に組まされたことでもあるのだろう。そう思うと、少しほほえましくなってくる。


「······何を笑ってる」


「え?」


 不機嫌そうに聞かれたので、思わず口許を手でおおった。自覚しないうちに、表情が緩んでいたのだろう。いや、もとからヘナヘナしてると、言われるけど。


「まぁ、いい。」


 彼はため息をつき、フンッと不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「内容はさっきと変わらず、相手に付与魔法をかけることだ。

 戦闘時に味方が有利になるような魔法を、な。」


「うん」


「それで、さっきお前が何をやったかは知らないが、今回は指定する。

 防御上昇と、効果異常の防止及び、効率化上昇だ」


 はぁ、と俺は気の抜けた返事をする。すると、ギラリとメド君が俺を睨む。別にできない訳じゃない。

 俺がそんな返事をしたのは、その指定が理解できなかったからだ。

 確かに、戦闘する上では重要なのだろう。しかし、いずれも装備品がより強い効果を発揮してくれるものだ。少々値は張るらしいが、国に属する騎士団だとか兵士団だとかは所持しているらしい。


「装備品にある効果を、わざわざ魔法を使ってやるの?」


「そうだ。そうすることによって、より強固なものが出来上がる」


 戦闘する上では、なんだろうけれど。俺は一応納得して、分かったとうなずいた。とはいえ、その魔法もナーシャのときのように、手を繋げばいいのだろうか。

 

「最初は魔法防御、物理防御の上昇からだな」


「同時に?」


 そう聞くと、メド君は当然だと言って頷いた。俺は少しだけ戸惑う。魔法防御と、物理防御では明らかに属性の違う魔法が加わるからだ。同じ防御でも、これは集中力を削りそうだと感じる。

 

「同時に、俺もお前にかける」


 いいな? と、聞かれてうなずく。

 そして、メド君は目をつむり片手をスッと出す。直接触れずに、魔法をかけるつもりらしい。俺も彼を真似して、目を閉じる。そこまではいつも通りだ。そして、彼の居る方向へ集中して、片手を出す。

 

 そして、魔素の流れをつかむ。

 なんとかできそうだ。そして、魔法をかけようとした瞬間、彼の魔力を感じた。たぶん、かけるタイミングが同じになったんだ。

 しかし、どちらにも魔法がかかることはなかった。

 目の前でバチッとなにかが弾けるような音がして、俺は目を開く。思ったより大きな音だった気がする。


「······お前、魔法を弾いたのか?」


 怪訝そうに眉をしかめ、少しだけ驚いたような声でメド君が聞いてくる。俺はそれに首を振った。違うと。

 魔法を弾いたつもりはない。それに、同時に魔法を掛け合うと言う状況で、魔法が弾かれることがないことも知っている。本からの情報ではあるが、間違いであるはずもないのだ。

 

「今の魔法が弾かれたと言うよりも、干渉してうち消えたって感じだった

 ような······」


 俺が呟くと、メド君はジワジワと瞳を開く。驚いたような、怒ったようなそんな顔だった。

 しかし、それどころでもないらしい。

 周りの、少ないクラスメートの視線が俺たちに集っている。俺は、やってしまったとそう思った。多分、俺のせいなんだろうなぁ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 SIDE メド=シルヴィア


 ジワジワと、魔力を放出した手のひらに熱が戻ってくる。

 さっきのはなんだ。俺の魔法が弾かれることなんて、今まで数度しかなかった。それも、より高度な技術を有し、意図的に防がれたときだ。ハルは、多分俺の魔法を防いだわけでは決してないだろう。

 

 そして、弾かれた魔法は残り香がわずかに残ると言うのに、それすらない。


"干渉してうち消えた"


 さっきのハルの言葉が、頭のなかで反芻される。しかし、そんなケースはどの本にも記載されていなかった気がする。ただひとつの可能性を除いて。

 しかし、それはこのクラスに所属している以上あり得ない話だ。ここはどんな形であっても貴族であっても、落ちこぼれの集まる場所だ。成績が優秀であっても、そのレッテルを貼られたらここまで堕ちる。


「お前、ステータスを見せろ」


「あー、うん。それはちょっと遠慮したいかな······?」


 ハルは俺の申し出に目をそらし、そう言った。見られたくないステータスだってくらいしかわからないが、明らかに異常な数字を持っている。


「魔力の属性と、魔力値だけで構わない」


「う、うん。それだけなら」


 地雷は魔力値な訳ではなさそうだ。そう言って、ハルは俺にその部分だけを見せる。それは、充分地雷となることを自覚していなかった。

 並ぶ四つの9と、魔力ランクS。そして、火以外の属性すべてが並ぶ属性値。 

MP/9999

魔力 999 S 

属性 地、風、水、光、闇


 あまりにも無防備にこのステータスを晒させることは、失態だった。俺は痛む頭を押さえ、キョトンとした顔をするハルを睨み据える。

 すると、ハルは少し怯えるような顔をして、どうしたのと暢気に聞く。

 

「もう、ステータスはしまってもいい。」


 脳内完結でも仕方はないが、俺とハルの魔法が弾かれた――うち消えた理由は一目瞭然だった。それは魔力値の圧倒的な開き。

 俺は十代後半の平均を越えるLv.25で、MP/500だ。つまり、コイツは平均レベルをかなぐり捨てるくらい高いレベルを保持し、王宮仕えの魔術師を越える魔力を持っていることになる。


 ちなみに、王宮仕えの魔術師の平均レベルはLv.50のMP/700程度だ。


「そりゃあ、効果打ち消しもできるな」


 気分は最悪に近い。無自覚で、ノコノコとよく今まで生きてこられたものだ。俺は変に関心を抱きながら、今日何度目になるか分からないため息をついた。

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