Lv.0からって冗談でしょ!

道理伊波

序章 これで序章とかLv.0にそれはキツいよ!

第1話 ガチゲーマーでもないのに、俺は

 春の陽気がポカポカと暖かい。

 俺は背をそらして、アクビをした。今日はいい日になりそうだ。眩しい日差しが入ってくるようにカーテンを開けた。洗濯物がよく乾きそうだな。

 そう思いながら、早朝の空気を吸うために、ベランダに向かう。


「ふぁぁ、今日は課題も終わったし、のんびり本でも読もうかな」


 ベランダに寄ってくる雀を撫でながら、呟く。この子達にもなにかご飯をあげよう。雀たちは気持ち良さそうにしている。

 邪魔したら悪いかな?

 日向ぼっこをしている雀を脇に、俺はベランダから出た。家のなかに入れることはできないから、ちゃんと窓を閉めなきゃ。そう考えながら、リビングとベランダを隔てる窓を閉めた。


「······ん?」


 窓を閉めて、リビングを振り向いたとき、なにか見慣れないものがあった気がする。俺は確認するために振り向く。


「は?」


 うん。なんかあるよ。

 リビングルームに変な黒い球体が浮いてるよ。コポコポいいながら。

 怖い、な!

 俺は動揺して後ずさる。窓にどすんとぶつかって、メチャクチャ痛い。え、何あれ。誰だよ、こんなに怪しいさムンムンの物体持ち込んだの。俺、独り暮らしだよ!

 男の一人暮らしに不審物置いていって、需要なくない?

 

「ふぇっ」


 しかもなんか動いてるし。ぐねぐねしてる。

 え、怖。俺どうしたらいいの、とりあえず警察呼ぶ?

 気が動転して、好奇心かどうか知らないが、近づいてきた黒い球体に俺は触れてしまった。それがいけなかった。

 黒い球体は触れた俺の手をズブズブと侵食していく。

 というか、俺飲み込まれてるんじゃね?

 黒い不審物、黒い球体に?

 

「ヒィ、怖い怖い!」


 全力で叫ぶ。俺、明日学校なんですけど。バイトいかなきゃ家賃払えないんですけど。友達いないけど、それなりに満喫してるんですけど!

 俺、死ぬん?

 思ったときには遅かった。

 球体は俺を完全に飲み込み、意識が包まれていく。そして、意識を手放してしまった。




◆◇◆◇◆◇◆◇


 身体がふわふわした感覚に包まれている。不思議とそれは心地よく、眠りに誘われてしまう。

 のは、なんか違うよね!

 俺は必死で体を起こし、意識を覚醒させた。


「イヤッホー、起きたね!

 遅かったね。何年待つかと思ったよ!」


 目を開けた先、というか眼前になにかがいた。


「う、」


「う?」


「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁあああ!」


 全力で叫んでいた。顔近い。知らない人。不審者が俺の目の前にいる。何なんだよ、死んだ次は魂をいたぶるつもりかよ。


「おいおい、落ち着けって。

 また新しい人生エンジョイしようぜ!」


 語尾にハートマークでもつきそうな勢いで、眼前の人は言った。一先ず、誰なんだよ!

 それを言う胆力はさすがになく、目の前の人をにらむ。


「こえーな。最近の人間は。

 お、そうだ。俺はロイって言うんだ」


 突然自己紹介すな!

 つーか、なんて格好してるんだ。昔の神様みたいな格好は、現代だとただの露出狂だぞ。俺は心のなかで不満を漏らす。

 雀に餌あげたかった。まだ読んでない本もあったのに。

 そう思ったら、涙が出てきた。ささやかな俺の人生が、あんな黒い球体に台無しにされるなんて。


「元気出せって、若いんだしよぉ!

 お前は名前なんて言うんだ?」


 露出狂は俺に聞く。知らない人に名前を教えるなって、小さい頃教わらなかったのかよ。お母さんと一緒にならうだろ。知らんけど。

 

「ここはどこですか?」


 取り合えず、自己紹介はしたくないという意思を見せる。名前を教えたところで、お友だちになろうって流れにはならないし。

 

「んー、簡単には教えてくれんかぁ。

 ここはな、お前たちとは違う世界だ。」


「は?」


 すっとんきょうなこと言われた。

 は?

 お前たちの世界とは違う世界って、何だ。俺はそんな世界に来たのか。朝着替えて、雀を撫でてた俺が何をした。雀の恩返しならありがたくいただくけど。雀かわいいし。


「つまり、お前たちの世界のゲームで言う、異世界ってやつだな!」


 露出狂はにかっと笑った。

 いやいやいやいや、可笑しいだろ。何でそうなるんだ!


「そんでさぁ、この世界で厄介事が起こっててよ、お前に協力してほしいんだ」


「え、あの、どう言うことですか?」


 聞き返してしまうのは当然だ。高校にこういう展開が好きなやつがいたけど、俺はたいしてそんなものに興味を示したことは無かったぞ。それに、異世界とか、いわゆる非科学的なものを俺はどう信じればいい。


「信じられんって顔だな!

 じゃあ、見てろよ。」


 露出狂は俺の前に手をかざした。それから数秒。眼前で突風を食らった。痛いというよりも、息苦しくなった。というか、初対面のやつにそんなことしないだろ!


「これで信じたか?

 他にも水や炎も出せるぞ!」


 子供みたいにはしゃぐ露出狂は俺を見た。


「い、いいです。信じますから!」


 しかし、さっきと同じのを水や炎で食らっていたら大惨事だ。とにかくうなずく他ない。すると、露出狂は満足げに笑った。


「おぅ、じゃあ名前を教えてくれよ!」


 それとこれとは話が別じゃないか?

 しかし、長引くと面相臭いし、他人と話すのは疲れる。


「桜島 春です······」


 てなわけで、自己紹介をした。女子みたいな名前でよくからかわれたし、幼少は見た目が美少女だったらしいので性別を間違えられていた。いい思い出がないな、俺の幼少気。


「そうか。じゃあ、まずはソロで頑張ってくれや!」


 露出狂はにこりと笑う。純粋にいっているんだろうけれど、なんか無理矢理こじつけられた気がする。

 そして、二度目の危機を迎えることになる。

 俺は、露出狂に背中を押されたのだ。トン、と軽く。

 思っていたんだけど、露出狂は神様なのでは?

 だって、ここ空の上なんですもん。今、空から墜落体験してるんですもん。

 

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