第58話 朝食とみんなのお兄ちゃん。

 スープを盛り付け、トレイに並べる。ついでに丸パンも。

 スープとパン。何て簡素な食事なのだろうか、と見ていて思う。せめて、卵がまともな新鮮さを持っていればよかった。

 

「一応四人ぶん準備したけど、いいの?」


「うん。ダイジョーブ、ジィドはちゃんと食べるから」


 満面の笑みで回答するリリアン。

 ちゃんと食べるって、どういう意味だろうか。朝食を、ということで正解なのだろうか。俺は引き出しからスプーンとフォークを四人ぶん取りだし、トレイに並べる。

 まぁ、まともには見える。CMで観るような、シンプルな感じだ。まぁ、ああいうのはスープの宣伝とかパンの宣伝だから、強調するものが限られているから何だろうけれど。

 まぁ、よく知らんけど。


「······おはよう」


 扉の方から微かな声がした。俺たちは少しだけ驚いて、顔を見合わせる。すると、わずかに開いていた扉がゆっくりと開かれる。

 リリアンは誰が開けているのかわからないと言うのもあって、俺のエプロンの裾をつかんだ。結構力が強いから、エプロンの肩紐が肩に食い込み始めている。普通にいたいんですけどぉ······。


 そして、扉を開けた人物が露になる。

 というか、そこそこ予想はできていたので驚くこともなかった。現れたのは、ジンだった。制服には俺たち同様、もう着替えていて準備万端っぽく見える。だが、もとから頓着しない質なのか寝癖がひどい。元からのくせっ毛なのだろうけど、手強そうな寝癖だ。


「おはよう、ジン」


「······ぅん」


 眠そうに目を擦りながら、ジンはうなずく。それから、少しだけふらふらしながら然程遠くないキッチンまで歩いてくる。その光景が、少しだけほほえましい。しかし、なにか良くないと思ったのか、リリアンが拗ねた表情でジンに向かっていく。

 ジンは寝ぼけいているせいなのか、それに気づいてない。


「ちょっとぉ、寝癖でボサボサなんだけど!」


 芯の通った変声期前のリリアンの声が、共有スペース全体に響く。やっぱり、女子の制服を改造して伸ばした髪の毛を巻いているくらいだ。それなりに、拘りもあるらしい。

 まぁ、寝癖は目立たない程度にするのは”俺の”最低限だからなぁ。


「······ちょ、触らないで」


「はぁ~!?」


 ジンの髪の毛を整えようと手を伸ばすリリアンの手を、ジンが振り払う。リリアンはそれに激昂する。そして、二人はジリジリと視線を交わしあい、謎の攻防を始める。

 

「ちょ、二人とも。喧嘩しないで、スープ冷めちゃうから」


 沈黙のまま睨み合う二人の間に割り込もうとしたが、二人は聞く耳を持たない。というか、ジンが寝癖を直してくれば収まる話じゃないのか。

 すると、目を見張るような巨体が視界に入る。


「リリアン、怒りすぎるのは健康によくないぞ」


 彼はリリアンの肩をつかみ、牽制に入る。

 

「すまない、ハル。朝食がしたいのだろう、すぐに済ませる」


 リリアンを半ば引きずるようにジンからひっぺがし、彼は柔らかな表情を浮かべた。

 彼は、リリアンがいっていた朝食を一緒に食べてくれる人だ。名前はたしか、ジィド。軍人みたいな規則正しい動きと、面倒見がいいことから父親みたいな存在だとグランが言っていた。簡単は説明だったけど。

 まぁ、俺から見ればジンと似て、無表情なんだけど。でも、流石にこの適度な筋肉と巨体は圧倒されるものがある。


「あ、ありがとう、ジィド」


「気にするな、クラスメートだからな」


 羽交い締めにしたリリアンには構わず、俺にそういうジィド。なかなかにカオスだ。それから、リリアンから逃げるように俺の背中にジンが隠れているし。


「ジン、まず朝御飯食べよう? 寝癖は直してあげるから、ねっ?」


 少し不機嫌そうなジンに目線をあわせてそう言うと、ジンは納得のいかない表情でうなずいた。

 あぁ、これで一応朝食はとれそうだ。

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