第91話 異常な友人の話。
SIDE バード=ラクリエ
ハルのステータスをじっと食い入るように見つめる。それは見たことのないハイスコアが並び、幻のスキルが敷き詰まっていた。
それはハルが無尽蔵な魔力で、身体能力ですらも異常であることを示している。ハルは自覚がないせいか、メドの魔力を反発したりすることを理解していない。このダンジョンでだって、安全地帯でなければ魔法は使えないも同然であるのに、大渦を起こしたり回復魔法を使ったりしていた。
「これは納得、かも……」
僕はつぶやいた。
ハルたちがグランを連れ帰ってきたとき、メドが僕にその時のことを話してくれた。グランの父親があのレカルドであること、あのレカルドがハルを”ご神託君”と呼んでいたこと。
「バード、……そのやっぱり、変だよね」
「え……」
自信なさげにハルは眉を下げた。こんなステータスを持っていて、自身がなさそうなのは一体何事かと思う。こんな幻も伝説も詰め合わせたステータスは誇ってもいいものだ。
僕は首を振り、口を開く。
「……変というか、あまり見せるものじゃないと思う。……下手すれば殺されてる
し」
僕の言葉にハルはシュンと眉を下げた。怒っているわけじゃないし、責め立てているわけでもない。
ただ、ハルのステータスを利用しようとする人間はたくさんいるだろう。それはハルの能力がどんな状況でも応対できるからだ。例えば魔力は攻撃・回復に使っても酷使しすぎない限りなくならない。体力だって装備を変えればダンジョンを永遠と回ることができる。
「ハルは、自分のスキルを活かそうとは思わないの?
「……え、特に思ったことはない、かも。野菜作るときは便利だって思ったくら
い」
ハルがきょとんとした顔でそう言った。
この国は治安が少し悪い面があるから、下手に魔力を持ってると自分の利益のために使用する奴が多いのに。僕は少し呆れて、ため息をついた。確かにハルの魔力で農業をすれば、野菜は時間をかけず質の良いものが収穫できるだろう。逆に魔力が普通の奴は育成スピードが少し早まるだけで、これと言って通常と差異はないのだ。
それにスキルの欄に”自然治癒+α”と書かれている。
「ハル、……このスキルの効能は知ってる?」
「え、ううん。自然治癒の能力は知ってるんだけど、……それは」
ハルがおずおずとそう告げた。本当にこの友人は自分にあまり関心がないのだと実感せざるを得ない。
そのスキルは自然治癒というスキルが自分の治癒を高めるものの進化バージョンだと思っておけばいい。とは言っても、それは周囲の治癒能力を引き上げるから問題が違う。
「それはハルの魔力を介して、勝手に回復してるもんだよ。怪我をしてもハルの近く
にいれば勝手に治っているみたいな感じ」
するとハルは少しハッとしたような表情をして、もしかしてとつぶやいた。
「それって、ステータス補正をかけたりはしない? 俺が回復魔法を使ったら、相
手に経験値を与えるみたいな……」
最後らへんが自信なさげなハルの表情とともに消えていく。
僕は首をかしげた。よくわからないけれど、魔法に詳しいラクリエ――僕の家でもそんなことは聞いたことがなかった気がする。
「僕は知らない。……知りたいなら回復かけたメドに聞くしかないかもね」
「……あぅ、そうだよね。でも、俺、……あまり自分のステータスに関することは
言うなって言われてて。バードは魔法に関して詳しそうだし、多少犠牲にしてもい
いかなって思って」
空色の瞳を泳がせ、ハルはそう言った。僕は場違いにも頼りにしてくれたことを少しうれしく思いつつ、コホンと咳払いをした。なんというか、心の奥底から緩んでいく感じがしたからだ。
「なら、……学園に戻って聞くしかないね。……僕の知り合いなら知ってるかも」
ハルは不思議そうな顔をする。初めてハルの顔をはっきり見たけど、なんというか女っぽい。それに昔、別の世界から来たっていう、小さなころ読んでもらった”絵本”に出てくる英雄と同じ色をしている。
気のせいかもしれないけれど、メド伝いに聞いた”ご神託”が気になる。それは、元来、この世界に大きな災害・戦争が起きる時に現れる特別な存在のこと。隣国では”聖女”を召喚するらしいけれど、僕の属している国は神託が下りてくる。しかし、その存在が見つかるかはわからないのだ。明確に召喚する力も、この国にはないから。
「バード、黙り込んでどうしたの? ……その、」
「大丈夫、ハルが謝ろうとしないで。」
そう断言するとハルは苦笑した。それはハルが納得していないときの表情だ。ハルはよく謝るし、よく苦笑する。同い年の僕にも子ども扱いをするし、なんか気に食わないときがある。それが今だ。
僕は少しうつむいて、またハルの方を見た。ハルは眉を下げ、僕を心配するように見つめている。
「ハルは、……ご神託の”英雄”なの……?」
「え?」
俺の一言に、ハルは目を見開く。何を言っているのだろうかという顔だ。僕は息を深く吸った。
おそらくこれが何かの分岐点だ。
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