第66話 魔法の話は、禁句ということで……。

 睨み合う、バードとメド君。そして、俺の図星はまんまと的中したせいで、結構空気が悪い。というか、なぜこうなったのか分かっていない。理由は俺の魔法の話なんだろうけれど、バードが言った”魔法の扱いに慣れていないのではないか”という発言からだ。


「……そうでしょ、ハル?」


 ふわふわとした笑みを向けながら、バードはそう聞く。感情がこもっていないように聞こえるせいか、心の奥底まで覗かれている気分だ。

 俺は、少しうつむけていた顔を上げる。ちょうど、咎めるような視線をしたメド君と目が合う。俺としては、正直に頷いておきたいところだった。だが、俺のステータスに関することはほとんど禁句だとザックさんが言っていた。それは幻であり、ほとんど空想上のものだと認識されているから、らしい。

 俺はグッと、下唇を噛んだ。

 乗り気はしないけれど、誰かに明かす時が来るのはある程度予測していたのだ。


「うん、……慣れていないよ。つい最近使い方を覚えたばかり、だから……」


「ふ~ん、やっぱりね。」


「やっぱり? どういうことだ、ラクリエ」


 にやりと、何かを自覚したであろうバードにメド君が怪訝そうな顔をして見せた。バードは長い前髪の間から瞳をのぞかせて、愉悦に浸るような表情をして見せた。


「ハルは、魔力を垂れ流してる状態なんだよ。……ハルは、それが当たり前だか

 ら気づいていないみたいだけど。

 まぁ、”魔素”じゃなくて、魔力が見えないとわかんないことだけど」


 バードの発言にメド君が、”どう違うんだ?”というような顔をした。

 でも、彼は違いだけなら理解している。魔素と魔力は大きく違うのだから。わかりやすく説明すると、”水素と酸素を合わせれば、水ができる”。の水素と酸素という原子が魔素だ。それを合わせてできるのが水だとしたら、水が魔力だ。

 魔素は、魔力の源であり親のようなものといえばわかるだろうか。


「ラクリエ、お前には見えるのか?」


「ん~? 見えないこともないって感じ。

 だって、ハルが魔力垂れ流し状態だって気が付いたの”朝食”の時だもん」


 俺は首をかしげる。確かに彼にも作った朝食を分けたけど、俺もリリアンも特別何かをしたわけじゃない。それに、リリアンもジィドも、ジンも何も言わなかった。俺も食べて、何か異変を覚えたことはないし。

 

「ハルの魔力が、料理に流れてたもん。……普通はそんなことはないんだけ

 どね。まぁ、魔力が料理を美味しくさせることも不味くさせることもないし、

 当然美味しかったしね♪」


 機嫌よさそうにバードがうきうきした様子で話す。それにあきれたような表情をして、メド君は深くため息をついた。

 そして、なぜかハッとしたような表情になる。


「ハル」


「へッ? え~と、何かな」


 その視線がまっすぐ俺に突き刺さり、メド君にじっと見つめられる。


「明朝、俺も朝食を食べに行く」


 キリリとした表情で、メド君はそう言った。

 あまりにも、真剣な表情だったので思わずうなずいてしまった。というか、お話それてません?

 俺の作る朝食なんて、貴族の方々からしたらちっぽけにしか見えないだろうに。なんていうのも、偏見に過ぎないのだろうか。俺は、少しもやもやしながら苦笑する。すると、腕をグイっと引っ張られた。

 そのまま、無理矢理立ち上がらせられる。


「じゃ、話もひと段落終わったし、ばいば~い♪」


 そういうバードに引きずられるように、俺もメド君の部屋を退室することになった。助けられたというより、バードが今、明日の朝食のことしか感がいていないという可能性のほうがグッと濃い。

 メド君も何を聞こうとしていたのか忘れてしまったのか、ああと言っていつもの仏頂面で俺たちを部屋から追い出す。俺らが出ると、バタンと扉を勢いよく閉めるんだもの。いかにも、俺たちを早く追い出したかったといわんばかり、というか実際話を終わらせて追い出したかったのだろう。


「あ、あの、バード?」


「ん~?」


 襟首をつかまれ、ずるずると引きずられ続けるのはなかなかにしんどいものがあるんだけど。俺はそれを目で訴える。すると、理解したようで襟首をパッと離された。その拍子に尻餅をつく。


「……そうだ、ハル。お腹空いた」


 バードはにこっと弱弱しく笑い、あくびをした。眠いのか腹が減ったのか、せめてどっちかにしてほしいと思う。しかし、そのしぐさは天然というか、子供っぽさを感じさせた。弟妹をどうしても思い出してしまう。どうしても、甘やかしたくなってしまう。

 俺はうなずいて、分かったと言った。

 すると、バードはパアァっと表情を華やかせて、ニマッと笑った。嬉しそうな、幼子のような表情だった。


「あれ。でも、食材がほとんどないんじゃ……」


「それなら大丈夫。週に二回食料が運び込まれるから。

 ……ここは、ちょっと悪いものも運ばれてくるけど、もう別のが運ばれてるよ」


 安心してというように、エッヘンと胸を張ってバードがそういう。というか、食材のほとんどが傷んでいたのは、そのせいだったのか。まぁ、この寮のみんなが料理をしないっていうのも、一種の要因ではあるんだろうけれど。

 まぁ、今はとにもかくにもバードの食事が先だ。

 というか、俺もお腹が減っている。


 現在時刻、12時30分なんだもん。まだ、昼食食べてないんだもん。

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