決意表明
入団したいという俺の言葉を聞き、橋宮さんは頷いた。
「もちろんだよ。だけど申し訳ないけど、すぐに所属、というわけにはいかないんだ」
「何か試験でもあるんですか?」
「そうなんだ。うちは試験を通った冒険者しかとらない方針でね。君にもそれを受けてもらう必要がある。とはいえ、僕と玲の推薦だから、合格は確実だけど」
それ受ける意味あるのかと思ったが、「実力を仲間になる者たちに見せるという意味合いの方が強いね」という橋宮さんの言葉に納得した。
考えれば、一人だけ楽した奴が試験を受けた他の冒険者に馴染めるかと言えば難しいし、その辺りは平等に扱った方が後々いいのだろう。
「試験はいつあるんですか?」
「来月、というか一週間後だね。それまでは仮入団って形になるかな」
本当にすぐだな。
だが、それは、さっさと【オリオン】に正式に所属できるようになるということ。
俺にとっては都合がいい。
「詳しくは玲に聞いてくれ」
「はい。それと、『オーブ』と素材の売却のことなんですけど」
「ああ、玲から聞いているよ。うちに売ってくれるんだろう?本当にいいのかい?」
「はい。手に入ったのは玲のお陰ですし、本音を言えば、さっさと手放したいので」
「ははははっ!正直だね!分かった、満足してもらえる額を支払うよ」
俺は橋宮さんに『オーブ』と素材を引き渡した。
既に時間は深夜だ。
橋宮さんも仕事があるのか、雑談もそこそこに帰っていった。
あとに残されたのは玲だけだ。
借りている客室とはいえ、自分が使う部屋に美少女と二人きりは緊張する。
だが玲は俺とは対照的に上機嫌だ。
いつもクールな彼女にしては珍しく、頬がほころんでいる。
「どしたの?」
「ふふっ、これでこれからもパーティーが組めますね!」
「………ん?」
「え?……も、もしかして、今回限りのパーティーでしたか……?」
笑顔は一転して曇る。
大きな瞳は潤み、今にも泣きそうだ。
「いやいや!俺から頼みたいほどだぞ。むしろ玲はいいのか?」
「はい、もちろんです」
「じゃあこれからもよろしく」
「はい!」
こうしてあっさりと俺と玲はパーティーを結成した。
「湊先輩、早速発表しましょう」
「………!そうか、配信で言うのか」
「はい、『オーブ』と素材を手放したことにも触れれば、ひとまずは落ち着くと思います」
玲は「【報告】」というタイトルで配信枠を取った。
夜中だというのに、大気人数は数万人を超える。
流石は登録者数200万人を超えている配信者だ。
そして配信が始まる。
『おっ、始まったー』
『珍しく深夜じゃん』
『こんばんはー』
『また家主いるじゃん』
『流石に多くね?』
『カップルチャンネルかよwww』
『てかホテルいる?』
『………え、無理無理無理無理』
『事後か…あの羨まし双丘を弄んだんか!』
おおう、混沌としている。
冗談なのか本気なのか分からないコメントもあって怖い。
横を見ると、玲は僅かに顔を赤らめながら、キッとドローンを睨みつける。
「………変なことは言わないでください。……湊先輩も笑ってないで否定して!」
「悪い悪い。えっと、ここは【オリオン】さんに用意してもらった部屋です。今日はいくつか報告があるので、玲のチャンネルにお邪魔してます」
『後輩玲ちゃんも可愛すぎる』
『なんか幼げでいいよな』
『報告?あのことか』
『あの『オーブ』どうすんの?』
「コメントでも言ってる人いるけど、冥層で手に入れた【ディガー】の『オーブ』と素材についてです。あれは全部【オリオン】に売却することにしました。なので、個人的に交渉をしてくれる人もいたんですけど、すみません」
もちろん、個人的に交渉をしてくれた人、というのは正体不明の襲撃者だ。
彼らを差し向けた黒幕には分かるだろう。
この報告が俺を狙う者たちへの抑止力になってくれればいいが……。
『そっかー』
『まあ、予想通りだな』
『オークションに流して!』
『今後の予定は?』
『冥層の情報流せよ!独占すんな!』
「それともう一つ。俺は【オリオン】に所属することにしました」
ぴたり、とコメントが止まった後、一気に流れ始めた。
『まじか!』
『おめでとさん~!』
『フリーから一気に【オリオン】所属。成り上がったな!!』
『は?裏口入団かよ』
『推薦だろ?珍しいけどな』
『来週の試験は出るん?』
「試験は出るよ。あ、それと玲と正式にパーティーを組むことになったから、これからもよろしくね」
『はぁあああ!?』
『そうきたか!』
『ビッグサプライズじゃん』
『そのための所属かな?』
『ついにあの孤高の【舞姫】にもパーティーメンバーが』
『それはどうかと思う』
『過激派ぶちぎれで草』
「【舞姫】?」
『あ……』
『あ……』
『あ……』
「………………………無視してください。戯言です」
玲はクールな表情で言い捨てた。
「え、【舞姫】なの?二つ名的なやつ?え、【舞姫】なの?」
「二回も呼ばないでください!」
『恥ずかしがる玲ちゃん至高』
『分かるわー』
『いい名前だと思うんだけどな』
『アンタは【家主】だろ笑』
□□□
『【オリオン】に大型新人加入か』
名も無き市民 001
「今話題の冒険者【家主】さんが、【オリオン】への加入を決定、南玲とも正式に『パーティー』を組むことも発表した件。どう思う?」
名も無き市民 002
「気に食わん」
名も無き市民 003
「南玲って誰だっけ?」
名も無き市民 004
「【オリオン】の冒険者で配信者」
名も無き市民 005
「……今見てきたけど、可愛すぎてビビったわ。グラドルかと思った」
名も無き市民 006
「たまたま冥層行けただけの奴がいい気になって【オリオン】入るのも気に入らんし、体使ってたぶらかした玲もきもすぎる」
名も無き市民 007
「それに関しては同感。急にパーティー組むとかこっちの準備も出来ないし、ファンを舐めてる」
名も無き市民 008
「いや、それは当人の勝手だろ。それに冒険者がパーティー組むのは当たり前じゃん。今までソロだったのがおかしいんでしょ」
名も無き市民 009
「こいつらに何言っても無駄だぞ。南玲ガチ恋リスナーに冥層の情報独占すんな派閥が合流して暴走してるだけだから」
名も無き市民 010
「そんなんじゃなくて、対応がふせてい実っていってんの」
名も無き市民 011
「顔真赤で草」
名も無き市民 012
「誤字すごwww」
名も無き市民 013
「てか、【オリオン】って入団試験クリアしないと入れないんじゃなかった?ほら、毎年やってるやつ」
名も無き市民 014
「その件は勘違いしてる人も多いけど、幹部陣からの推薦があれば、入れる。これは【オリオン】も公式に発表してること。だけど、入団が決まっていても入団試験は受けないといけない。これは、被推薦者の実力を他の幹部陣が確認するため。あまりにひどいと推薦を取り消されることもあるらしい」
名も無き市民 015
「【オリオン】の入団試験って派手だから好き」
名も無き市民 016
「分かるわ。毎回配信してくれるもんな。いろんな冒険者も見れるし」
名も無き市民 017
「実質的に、新人のお披露目の場になるからな。日本有数のクランってこともあって、注目度は高い」
名も無き市民 018
「俺としては【重裂傷】の『オーブ』の方が気になってたけどな」
名も無き市民 019
「【オリオン】が買い取ったんだろ?唯一行ける家主さんは【オリオン】の所属になったし、『冥層』の品が市場に出回るのはだいぶ先になりそうだな」
名も無き市民 020
「【オリオン】独占かぁ。面白くない展開」
名も無き市民 021
「それありなの?一つのクランが『冥層』の品を独占するって、色々まずそうだけど」
名も無き市民 022
「実際、国内のクラン間のバランスは崩れるだろうな。でも法律違反とかではない」
名も無き市民 023
「基本的に冒険者がダンジョンで手に入れたものに関しては、冒険者に所有権がある。これは全世界共通。だから海外では新しい品は国が高額で買い取ったり、売却者に税制面での優遇措置なんかを与えることで、独占よりも流通させる方が得するようにしてるんだけど……」
名も無き市民 024
「【迷宮管理局】のその辺の対応の悪さは昔から言われてるよな」
名も無き市民 025
「土台だけ海外をパクって、後はケチり出すお家芸ね」
名も無き市民 026
「他の冒険者が『冥層』に行くまではこの状態が続くだろうな。白木がオークションか何かに流してくれたら話は変わって来るけど」
名も無き市民027
「【オリオン】にも白木にも、そんなことするメリットあんの?」
名も無き市民028
「このスレ見れば分かると思うけど、独占はヘイトが向きすぎるだろ。それを嫌がって、っていうのはあるかも。あんま気にしなさそうではあるけど」
名も無き市民029
「【オリオン】は自由な気風だし、家主さんは興味ないことには目を向けないタイプだろうしな」
名も無き市民 030
「ていうか冥層行けそうなやついんの?」
名も無き市民 031
「聞いた話じゃ、他の大手クランも大規模な侵攻準備をしてるらしい。実際、配信で結構『冥層』の情報は流しているし、雨の危険度が知れ渡ったのはでかい」
名も無き市民 032
「【オリオン】所属になったってことは、『冥層』の情報は出なくなんのかな?」
名も無き市民 033
「あー、かもな。独占した方がクランとして恩恵がでかいし」
名も無き市民 034
「できれば情報出してほしい。あの人の考え方とか技術は、上層とか下層の冒険者にも有益だから」
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