反響

『白木湊、パーティーメンバーを見捨てる?』


名も無き市民001

「みんなこのニュース知ってる?」


名も無き市民002

「当たり前よ。どのサイトも一斉に報じ始めたじゃん」


名も無き市民003

「飽きるほど流れて来たわ。これホンマなん?」


名も無き市民004

「冥層で人が死んだのはマジっぽい」


名も無き市民005

「いつか起こるとは思ってたけど」


名も無き市民006

「配信開けば白木が億越え品回収しまくってるもんなー、そりゃ同業者、特に下層の最前線にいる奴らからしたら目の毒だわ」


名も無き市民007

「自分も行けるって思うよな。最高到達階層5の俺、高みの見物」


名も無き市民008

「駆け出しじゃねえかwww」


名も無き市民009

「ある意味高み(地上付近)だなぁ笑」


名も無き市民010

「配信ちゃんと見てれば、無謀だって分かるんだけどな。あの人がやってること、まるで分からんもん」


名も無き市民011

「それに思い至らない馬鹿が行くんだろ」


名も無き市民012

「そんな奴らなら死んでもよし」


名も無き市民013

「よくはねえよ。冥層に行けるってことは日本でも一握りの強者ってことだぞ。死に過ぎればダンジョン産業全体の危険だ」


名も無き市民014

「実際このニュースのせいでダンジョン素材扱ってる企業の株価急落した。おのれ白木」


名も無き市民015

「記事でも言われてるけど、やっぱ白木の対応は問題だと思う。冒険者たちの欲望を煽るだけ煽って後は知りませんは自分の影響力を考えてない」


名も無き市民016

「それって白木悪くなくない?探索を配信するなんて珍しいことでもないし、それを見た奴らの行動までは制御できないでしょ」


名も無き市民017

「攻略法とかも言わないとってことよ。下手に情報小出しにするから、半端に理解した奴が死んでいく。これは明確に白木の責任」


名も無き市民018

「死んだやつらが白木とパーティー組んでたは嘘くさいけど、白木のせいで人が死ぬはマジでしょ」


名も無き市民019

「白木湊は日本を弱体化させるために送り込まれたスパイだ!白木湊は日本を弱体化させるために送り込まれたスパイだ!白木湊は日本を弱体化させるために送り込まれたスパイだ!白木湊は日本を弱体化させるために送り込まれたスパイだ!」


名も無き市民020

「有名になるって大変だよなぁ。俺も冒険者の端くれだけど、今回の件で家主さんがしないといけないことなんて無いと思う」


名も無き市民021

「『自己責任』だからな。新しい階層行きたいなら自分で調べろって話だし、教えてもらうなら対価は払うべき」


名も無き市民022

「でも、ダンジョンに関係ない人からは批判されてるよね」


名も無き市民023

「『自己責任』は冒険者のルールだからな。助け合えばいいじゃん、はごもっともだけど」


名も無き市民024

「その辺言われてるよね。狭量だとか、冷たいとか」


名も無き市民025

「献身しろってことだろ。俺が言われたらぶちぎれるわ」


名も無き市民026

「何で外野にとやかく言われなきゃいけないの?」


名も無き市民027

「白木湊は日本を弱体化させるために送り込まれたスパイだ!白木湊は日本を弱体化させるために送り込まれたスパイだ!白木湊は日本を弱体化させるために送り込まれたスパイだ!白木湊は日本を弱体化させるために送り込まれたスパイだ!」


名も無き市民028

「有名になるって大変だなぁ、ほんとに」


名も無き市民029

「おい、お前等!白木のチャンネル見て見ろ!動画上がってる!」


名も無き市民030

「動画?配信じゃなくて?」


名も無き市民031

「51階層の雨の解説とか危険なモンスター、探索の仕方とか動画付きで解説されてる」


名も無き市民032

「ちょっと見てくる」


名も無き市民033

「俺も」


名も無き市民034

「落ちます」


名も無き市民035

「冒険者っぽいのが一気に消えたなぁー笑」


名も無き市民036

「これ、動画のクオリティ的に前もって準備してたっぽいな」


名も無き市民037

「わざわざ教えてくれるなんて太っ腹じゃん。後続のために身を削ってくれて、記事書いたやつも満足だろうさ」


名も無き市民038

「俺的には出さないでほしかったな。これがまかり通れば、圧をかければ冒険者は情報を出すっていう悪しき前例になる」


名も無き市民039

「配信で言ってた通り、オーブもオークション出されてるぞ!さっそくアメリカの【ADS】が億入れてる。これは張ってたな(笑)」


名も無き市民040

「祭りじゃあ!!」


名も無き市民041

「来たこれ!!」


名も無き市民042

「5階層の歩き方も教えてほしいなぁ……」


名も無き市民043

「ねえよ、そんなのwww」


□□□


「日本?オレが?」


早朝から呼び出されたアメリカの冒険者、サイラス・ディーンは、怪訝な顔を対面する男に向ける。

【ADS】長官のみが座ることを許された席に深く腰掛けた男、ロナウド・ベッツは小さく頷いた。

【ADS】は日本でいうところの【迷宮管理局】であり、アメリカ全土のダンジョンの管理を行っている政府機関だ。


「そうだ。【状態異常適応】のオーブを取りに行け」


ぶ厚い肉体を誇るサイラスと比べれば、華奢とも呼べるロナウドだが、鷲のような鋭い眼光でサイラスを見据える。


「何だそのスキル?」

「……日本の【冥層冒険者】が発見した新スキルだ。お前は配信を見ていないのか?彼はダンジョン攻略の常識を変えているんだぞ?」

「見てねえよ。オレ、日本語分からねえし」


今の時代、翻訳機能の発展により、言語の壁は無いも同然だった。

ダンジョンと同時に発見され、文字パターンが複雑な『迷宮語』以外は、機械によるリアルタイムの翻訳が可能だ。

お前はいつの時代の人間だ、と言いたくなるような言い訳をするサイラスにロナウドはため息を吐いた。


「………これからオークションに出される予定だ。お前はそれの受け取りに向かえ」

「これからぁ?出されるかどうかも分からねえ、落札できるかどうかも分からねえスキルをオレに取りに行かせる気か?」

「彼は動画内でオークションに出品すると明言していたし、彼と【オリオン】の意思はこちらでした。どうやら広く冥層の情報を広め、冥層の攻略を進めるようだ」

「そりゃいいね。俺らも真似できる」

「……だが主導権は向こうにある」

「「アメリカは一番でなければならない」ってか?」


皮肉気に笑うサイラスを無視し、ロナウドは言葉を続ける。


「【状態異常適応】は、【D.C.1】の冥層攻略に使える可能性が高い。必ず落札するが、当然邪魔も入るだろう。落札後はすぐに回収し、持ち帰れ。【鑑定】が終わり次第、お前に使ってもらうことになるだろう」


新発見のスキルは、効果を検証した後、使用するのが常だ。

しかしアメリカは、例外だった。

サイラスもロナウドの言葉に疑問を抱かず、頷いた。


「なあ、出品者と会えるんだよな?」

「恐らくな」

「……はっ、なら行くぜ。一度会いたいと思ってたんだ」


サイラスは荒々しい笑みを浮かべる。

無意識に醸し出される迫力に、ロナウドも冷や汗を浮かべた。

サイラスもまた、アメリカで冥層に挑んでいる冒険者の一人だ。

サイラスを世界最強の冒険者と呼ぶ声も大きい。

そんな彼にとっても『冥層』の壁はぶ厚く、自分よりも先にその壁を越えた湊とは一度会いたいと思っていた。


「スカウトはしなくていいのか?」


【ADS】は冒険者の収集にも積極的だ。

その背景には、アメリカの事情も関係している。

アメリカは冒険者大国だ。それは、ダンジョン大国であることも意味する。

アメリカは日本と比べ、20倍以上もの数のダンジョンを保有しており、その数は世界一だ。


それはアメリカにダンジョン資源という宝をもたらし、世界一の大国としての立場を確固たるものにしたが、同時に【氾濫】と呼ばれるダンジョンのモンスターが溢れ出す脅威を抱え込むことになった。


【氾濫】の原因は様々だが、最も大きい要因はモンスターの大量発生、それによる上層へのモンスターの進出だ。

その対策はいち早くダンジョンの異常を察知し、討伐すること。

しかしアメリカは、冒険者不足に悩まされていた。

特に、下層で活動する冒険者が不足しており、常に強者を求めていた。


「今スカウトしても意味は無いだろう。財も力も名声も手に入れたのだ。わざわざ母国を捨てるはずがない」

「だからって変なの連れてくんのはやめてほしいぜ」


サイラスは数年前に日本からスカウトされた冒険者を思い出す。

かつて橋宮両と並び、日本最強の冒険者と呼ばれていた悪童を。


「奴には力はある。それでいい。それよりもお前はミナトシラキへの態度に気を付けろ。喧嘩を売るなよ。いずれはアメリカに招くのだからな」


全てが満たされた者は、スカウトに応じない。

しかしそれが欠けた時、人はあっさりと差し出した手を取るとロナウドは経験から知っていた。


(冥層を攻略するのは日本ではない)


もし、白木湊主導の元、日本の冒険者の冥層進出が進めば、アメリカのダンジョン大国としての地位を脅かしかねない。

この先に待つのは、白木湊を抱える日本の後を追うアメリカという屈辱的な構図だ。

しかし白木湊をアメリカに招くことさえできれば、その構図は一転し、この国は更なる発展を遂げるとロナウドは確信していた。

白木湊をアメリカに招く、それが『アメリカ』に仕える自身の役割だとロナウドは理解していた。

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