第154話 文明レベルD
宙域同盟の地域統括センターは、第三小惑星帯にある管理種族のベイビスコロニーに存在する。恒星の反対側にベイビスコロニーはあり、デルトコロニーからだと二十一日が必要だ。
「じぇん、パムもまじょうしになれりゅ」
他の子供たちと一緒にアイスクリームを食べていたパムが、質問してきた。
「パムは魔導師になりたいのか?」
「ん、じぇんといっしょにたたかうの」
「そうか。デルトコロニーに帰ったら、調べてみよう」
パムは嬉しそうに頷いた。
その会話を聞いていたレギナが、妹のサシャに目を向ける。
「サシャは何になりたいんだ?」
「航宙船の船長さん」
「へえー、船乗りになりたいのか。ラドルは?」
「食品研究員」
レギナが首を傾げた。
「それは、どんな仕事?」
その会話を聞いていた私は苦笑いした。食品研究員とは、私が日本で食べていたものを再現させようと、その研究を任せている者たちだったからだ。
「ラドルは、私の故郷の食べ物に興味があるのか?」
「うん。アイスクリームは美味しい」
食品研究員はいくつかの食品をすでに開発しており、アイスクリームもその一つなのだ。ラドルは食いしん坊なのかもしれない。但し、私が食べたいと思っているラーメンの開発には成功していない。残念だ。
ベイビスコロニーに到着し、アキヅキを宇宙港に停泊させるとサリオと一緒に宙域同盟地域統括センターへ向かった。
ここはチャービスコロニーと同じ管理種族のコロニーであるが、規模が違う。チャービスコロニーは三十万人の収納規模しかないが、ここは五億人の収容規模があるコロニーなのだ。
コミューターポッドに乗って宙域同盟地域統括センターへ向かっていると、街並みが見えてきた。チャービスコロニーほどではないが、この街も活気を失っている。
「ワーラビット族のコロニーは、何で活気がないんだろう?」
「彼らはコロニーや惑星、小惑星を、天神族から任されていましゅ。最初の頃は自分たちで開発しようとしていたようでしゅが、いつの頃からか使用権を他の種族に売って、生活するようになってしまったそうでしゅ」
サリオの話では、最初の頃は上手くいっていたらしい。だが、ワーラビット族の内部で派閥争いが起き、分裂してしまった。それぞれが勝手に使用権の販売を始めたので混乱し、衰退し始めたようだ。そのせいで管理がいい加減になり、ダメになったコロニーを安売りする状況になっているという。
「最後まで自分たちで開発しようとしていれば、こんな事にはならなかったのに」
ちなみに、ワーラビット族の収入源は、現在ネットワーク関係から入る収入が大きな割合を占めている。
宙域同盟地域統括センターに到着した。事前に連絡していたので、すぐに担当官のところに案内された。担当官は銀色の瞳を持つヒューマン族だった。
「担当するニーナ・マゼラティです」
ヒューマン族なのだが、不思議な雰囲気を持つ種族だ。その銀色の目で見詰められると何もかも見透かされているような気になる。
「デルトコロニーのゼン・ジングウジです」
ニーナから文明レベルを変更する手続きの説明を受けた。
「文明レベルDへと変更という事になりますと、『低レベルな恒星間移動手段を開発し、複数の恒星を支配下に置く』という条件になります」
「高度な恒星間移動手段を開発すると、文明レベルDになれると聞いていますが」
「その通りです。デルトコロニーは、高度な恒星間移動手段を開発したのですか?」
「ええ、そうです」
「失礼ですが、どのように開発したのか、伺ってもよろしいですか?」
不正な方法で手に入れたものではないか、と疑っているようだ。仕方がないだろう。デルトコロニーは歴史が浅いのだ。そんな短期間に高度な恒星間移動手段を開発できたとは思えないのだろう。
私はメルバリー宙域でイノーガー戦闘艦を拿捕し、その遷時空跳躍フィールド発生装置とルオンドライブを手に入れた事を説明した。
「なるほど。イノーガー軍団の技術を手に入れたという事ですね。そういう事ですと、将来的に心配な点が」
「心配な点というのは?」
「メルバリー宙域の時空間黒点に、まだイノーガー戦闘艦が隠されているのなら、それを引き出して手に入れようと考える者が出るかもしれません」
「なるほど。今回のようにコルベット艦クラスのイノーガー戦闘艦だったら、何とかなるでしょうが、巡洋艦、戦艦クラスだったら、恐ろしい事になりそうです」
我々は設計データと試作装置を担当官に渡し、それらがちゃんとしたものである事が確認されるのを待った。
宇宙港で数日待っていると、確認できたという知らせが来た。手続きをしてデルトコロニーに住む住民が文明レベルDの市民だと認められた。
用が済んだので、デルトコロニーに帰ろうとした時、宇宙港から出る事を禁じられた。どういう事かと状況を調べると、ベイビスコロニーが管理しているインガスコロニー群で戦争、もしくは大規模テロが起きたらしい。
攻撃されたのは、鬼人の住むヴォラドコロニーとグラドコロニーだった。
「おかしいな。鬼人のコロニーなら近付く戦闘艦があれば、探知して撃退するはずだ」
子供たちが昼寝している間に、我々はアキヅキの食堂に集まり話をしていた。
「ヴォラドコロニーの宇宙港が攻撃され、大勢の鬼人たちが亡くなったそうでしゅ」
サリオの言葉に顔をしかめる。
「戦争じゃないのかもしれないな」
「テロだと思うの? でも、鬼人のコロニーは臨戦態勢を取っているぞ」
レギナはテロが嫌いだ。以前にテロを行うような馬鹿は、死刑が相応しいと言っていた事がある。テロかどうかは分からないが、鬼人の間で何かが起きているようだ。
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