第171話 高性能ルオンドライブ

 クラビスが去った後、我々は都市宇宙船に乗ってデルトコロニーへ向かった。都市宇宙船に使われている技術の調査が終わっていないので、豹人族のイオハたちも都市宇宙船に乗ったままデルトコロニーへ飛んでいる。


「ここの生活にも飽きたにゃ。僕はニコラコロニーに戻るよ」

 そう言ったレオを、イオハがジト目で睨む。

「そんにゃ目で見にゃいでよ。護衛はゼンが居るから必要にゃいだろ」

「そうだけど、責任感というものはにゃいの?」


 それを聞いたレオは、わざとらしく溜息を吐いた。

「はあっ、そんにゃものを期待されても困るぞ」

 今度はイオハが溜息を漏らす。

「もういいわ。行きにゃさい」


 レオが都市宇宙船から離れると、しばらくの間は静かな日々が続いた。デルトコロニーに到着し、都市宇宙船は農業コロニーの隣に停泊する。ミネルヴァ族たちは、すぐに都市宇宙船と農業コロニーを繋ぐ通路の建設を始めた。


 私がロードパレスで決裁処理をしていると、イオハが訪ねてきた。

「ロード・ゼン、ニコラコロニーから調査団が来る事ににゃったのですが、受け入れてもらえませんか?」


「そうですね。都市宇宙船の中ならいいでしょう」

「それで十分です。ところで、クラビスから贈られたメモリーの中身の事ですが、七不思議に関する情報もあったのですか?」


「あれは魔導師が使う魔導技や小技のマギヌに関するものでした。七不思議に関係するようなものではないです」


「そうにゃのですか。七不思議に関係する情報があれば、教えて欲しいと思ったのです。もちろん、対価は支払います」


 イオハも私が重要な情報を譲るとは考えていないのだろう。ただ質問して反応を確かめてみたのだ。あのメモリーには重要な情報が記録されていた。大半が魔導師として有益なものだというのは、本当の事だった。


 但し、一つだけ重要な技術情報が記録されていた。それは遷時空スペースを移動するために必要なルオンドライブに関する技術だ。


 宙域同盟で広く使われているルオンドライブは、一日に一光年から二十光年を飛ぶ性能のものが普通である。アキヅキに搭載されているルオンドライブも、一日に七光年ほど飛べる性能があるので普通の範囲だった。ところが、クラビスから受け取ったルオンドライブの技術は、一日に六十光年ほど飛べるものだった。


「都市宇宙船の調査は、どれほど進んでいるのですか?」

「『垓力蓄積装置』と『大加速力場ジェネレーター』の調査は完了し、『慣性力抑制装置』については専門知識のある者が必要ににゃるという事で、調査団に来てもらう事にしたのです」


 ミネルヴァ族に技術情報を教えてもらえないかと交渉したらしいが、断られたそうだ。イオハが帰り、一人になった私は、ミネルヴァ族について考えていた。


 現在、ミネルヴァ族には新しい屠龍戦闘艦の建造を依頼しており、どんな戦闘艦にするかを話し合っている。当然、新しい屠龍戦闘艦には新しいルオンドライブを搭載する予定だ。


 そのミネルヴァ族の代表であるグルードが執務室へ来た。

「ゼンの旦那だんな、主砲はどうするんだい?」

 ミネルヴァ族のグルードは、私の事を『旦那』と呼ぶ。『閣下』というのは天神族に対して使うものなので、『旦那』に決めたそうだ。


「今の三十光径荷電粒子砲を使おうと、思っていたんだけど」

「ダメだ。あんなもんじゃ戦艦に勝てねえ」

 最初から戦艦なんかに勝とうとは思っていない。ミネルヴァ族は最強の屠龍戦闘艦を目指して建造しようと考えているようだ。


 但し、屠龍戦闘艦というのは小人数で運用するものなので、戦艦のように大人数で運用する戦闘艦に比べると、大きさに制限がある。大きくても全長五百メートルくらいが限界なのだ。


 全長五百メートルの戦闘艦で、全長三キロメートル以上もあるような戦艦と戦うのは無理である。その事をミネルヴァ族に言うと、否定された。


「そりゃあ、文明レベルAの戦艦なら勝つのは難しい。それは俺らも認める、ただ文明レベルBの戦艦なら、装備と戦い方で勝てると思うぜ」


 グルードの話によると、魔導技をサポートさせるような技術があるという。離震レーザーなら、サポート装置を搭載する事で威力を十倍、二十倍にする事も可能だという。


「なるほど。そういうサポート装置を搭載すると、戦艦の主砲以上の威力がある離震レーザーを放てるようになるのか」


「しかも照準装置や統合探査システムも使えるんで、遠距離攻撃も楽になるという優れもんですぜ」

「面白い。そのサポート装置を開発してくれ」

「分かりやした。その代わりに、旦那の離震レーザーについて教えてくだせえ」


「分かった。ただエネルギー源はどうする。核融合炉にするのか?」

「推進用エネルギーには垓力を使い、その他は大型高性能核融合炉が生み出すエネルギーを使うというのが無難ですかねぇ」


「他にも方法があるのか?」

「反物質を使った対消滅リアクターという選択もありやすが、旦那は低コストで反物質を生産する技術を持っていませんからね」


「もしかして、反物質を生産する技術を持っているのか?」

「アウレバス天神族がよく利用する方法ですが、持っていますぜ。但し、それには金色の龍珠が必要になります」


「金色の龍珠……どんなモンスターを倒せば、手に入るんだ?」

「ナインリングワールドに棲み着いているモンスターの中だと、墜月ホエールですね」

 それを聞いてガッカリした。現在の私では倒せそうにない。速攻で対消滅リアクターは諦めた。


 副砲はクリムゾンレーザー、近接迎撃用武器にはお馴染みの三連装パルスレーザー砲を選んだ。デルトコロニーで大量生産しているので手に入りやすいのだ。


 こうして新しい屠龍戦闘艦の仕様を少しずつ決めながら、ミネルヴァ族とブルシー族が協力して設計を始めた。


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