第40話 ジャンク船の修理
私とサリオ、ソニャの三人はスペースシェルターの中で生活しながら、偵察艇の修理を始めた。最初に整備ロボット五十体を起動し、偵察艇の調査をさせる。
すると、新しい動力炉と燃料タンク、それに細々した部品が必要な事が分かった。大きなもの以外は、衛星フェニャスにある巨大なホームセンターのような店で購入。そして、核融合炉とタンクは専門会社に発注した。
部品の中には特殊なものもあり、普通の店では販売しておらず、販売している会社に注文しなければならないものもあった。それから船全体を綺麗に掃除し、砂埃やゴミを船外に放り出す。
掃除が終わると本格的な修理が始まった。その間にサリオが制御脳のプロテクト外しを始める。プロテクトを外すだけでなく、制御脳の仕組みを把握しなければならないので、時間が掛かるらしい。
五十体の整備ロボットは、驚くほどの早さで偵察艇の修理を進めた。そして、小型核融合炉と燃料タンクが搬入され、設置して配線を繋いで起動すると船が生き返った。その後、この船にも戦闘ルームを追加する。
その頃からメルオラが頻繁に訪れて修理の進捗を気にするようになった。
「凄いですな。もう動力炉を稼働させたのですか。修理のプロでもないのに、仕事が早い」
「整備ロボットが、優秀なんですよ」
「羨ましい。儂もその整備ロボットが欲しくなりました。どこの製品なのです?」
「もう滅びた種族のものなので、手に入れる事はできないんです」
「残念ですな」
メルオラがわざとらしく溜息を吐いた。
それから修理は急ピッチで進んだ。エンジンが完璧に修理され、推進剤タンクに推進剤を充填する。その頃になってサリオが制御脳のコントロールに成功した。
普通なら年単位の時間が掛かるのだが、サリオは天神族のゾロフィエーヌから『制御脳の技術情報』をもらっていたので、その技術を基に制御脳分析ソフトを作り上げていた。
そのソフトを使って制御脳を分析すると、驚くべき事実が判明した。この偵察艇はアヌビス族が建造した船だったのだ。こういうのを縁があるというのだろう。
「この偵察艇は、バーチ8まで出る高速偵察艇だったようでしゅ」
バーチ8というと光速の〇.八パーセントだ。音速の七千倍ほどなので凄まじスピードという事になる。その分大量の推進剤を搭載したので、搭載できる武器は貧弱なものになったようだ。
制御脳の分析結果から、建造した当時は八光径レーザーキャノン二門と五光径荷電粒子砲一門を搭載していたらしい。その戦力だと脅威度3のモンスターくらいまでしか倒せない。とは言え、今はどんな武器も搭載していないので、建造当初の方がマシである。
「制御脳によるチェックを開始しましゅ」
サリオが全機能分析ソフトを起動させた。このチェックで問題がなければ、船は飛べるようになったという事だ。私とサリオ、ソニャの三人は静かに結果を待った。そして、モニターに全て正常だったというメッセージが表示された。
「やりました。これで飛べましゅよ」
サリオが最近見せなくなった笑顔を久しぶりに見せた。ソニャも跳び上がって喜んでいる。それから食料や家電を買い込み、出発の準備をした。メルオラには支払いを済ませているので、いつでも宇宙に飛び出せる。
残る作業は、遷時空跳躍フィールド発生装置と売った小型航宙船から取り外したルオンドライブを設置して操縦システムと繋げるだけになった。操縦システムの改造は終わっており、設置して繋げれば操縦席から遷時空跳躍フィールド発生装置とルオンドライブを操作できるようになっている。
それからエンジンテストや他の機器のテストを行い正常に作動する事を確かめた。この偵察艇には人工重力装置も組み込まれており、操縦室や居住区画、よく使う通路は人工重力が存在する。
「この船は、何という名前にしゅるの?」
ソニャが質問した。名前か? サリオと話し合い、『ルナダガー』とした。第三惑星の月で生まれ変わった短剣のダガーのような偵察艇だったからだ。ちなみに、偵察艦の中で小型で少人数で運用するものを偵察艇と呼んでいる。
ただ日本人である私の感覚では、全長七十メートルもある船は小型ではない。ジャンボジェットもそれくらいの大きさだったはずだ。
遷時空跳躍フィールド発生装置とルオンドライブの設置が終わると、メルオラに連絡してから飛び立つ準備をする。小型核融合炉から生み出されたエネルギーにより推進剤がプラズマ化され、エンジン内で加速されてから猛烈な勢いで噴き出す。
その推進力でルナダガーは宇宙に飛び出した。向かう先は跳躍リングである。跳躍リングは恒星の重力圏の外縁部に設置されている。それを目印にする航宙船が多いのだ。
レンタルしていたスペースシェルターは返したので、ルナダガーでの生活が始まった。ソニャはルナダガーの居住区画が気に入ったようだ。元々八人乗りの偵察艇だったので余裕がある。衛星フェニャスで購入した食料は微妙な味だったが、ソニャは文句を言わずに食べていた。
「これからどうしましゅか?」
サリオが尋ねてきた。
「クーシー族を助けるには、多くのクーシー族が暮らせる場所が必要だな」
「そう言ってくれるのは嬉しいでしゅが、大勢の人々が暮らせるような場所というのは、難しいでしゅ」
「どこかの惑星に、土地を確保するというのはできないだろうか?」
「難しいと思いましゅ。移民を歓迎しない惑星がほとんどでしゅ」
そうなると未開発惑星を初めから開発するのは、どうかと思った。だが、そういうのは惑星を買うという事だ。無理だろう。
「惑星は無理でしゅが、シュペーシュコロニーなら可能性がありましゅ」
シュペーシュコロニー? ああ、スペースコロニーの事か。
「スペースコロニーなんて、国家規模の経済がないとダメなんじゃないか?」
「新しく建造すると、そうでしゅ。でも、スペースコロニーにも中古品がありましゅ」
スペースコロニーに中古なんてものがあるとは、想像もしなかった。考えれば当然の事なのだが、スペースコロニーの中古品の中には安いものもあるという。日本で言う訳あり商品に相当するものだ。
私とサリオが話をしている間、ソニャは近くのテーブルで学習ソフトを使って勉強をしていた。その学習ソフトは、タリタル星へ行った時にカーシー族から購入したと聞いた。中身はクーシー族のものとほとんど同じだという。
その時、ルナダガーの操縦システムが警告音を鳴らす。
「何だ?」
「これは……識別信号を発していない船が近付いて来ていましゅ」
「つまり不審船という事?」
「そうでしゅ。海賊船かも」
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