第39話 新しい船

 私とサリオ、ソニャの三人は、客船に乗ってゾルーダ星へ向かった。レギナも行きたがったが、弟と妹の世話があるので行けないという事だ。レギナに兄弟が居るというのを初めて知った。


 ゾルーダ星にある中古船マーケットは、第三惑星の月であるフェニャスの周囲に存在する。そこには小さな宇宙ステーションが数多く漂っており、その周囲には中古船が係留されていた。そして、衛星フェニャスの地上にも数え切れないほどの中古船が置かれている。


「うわーっ、船が一杯」

 その光景を見たソニャが驚きの声を上げた。ソニャは可愛く素直な少女であり、すぐに私にも懐いた。


 客船が中央宇宙ステーションに到着すると、レンタル小型船の店へ行った。そこで四人乗りの超小型航宙艇を借りて販売店巡りを始めた。小さな宇宙ステーションは、全て独立した中古船販売店なのだ。三つの販売店を回ったが、気に入った船はなかった。


「ゼン、ここの中古船はほとんど貨物船か貨客船でしゅよ」

「そうみたいだね。戦闘艦はなさそうだ」

 ここの中古船マーケットの中で大きな販売店を選んで回ったのだが、屠龍猟兵用として使えそうなものはなかった。そこで三つ目に行った販売店の店員に戦闘艦を売っているところはないか聞いた。


 その店員は真っ赤な瞳を持つヒューマン族の男だった。

「そうですね。あるとすれば、衛星フェニャスの小さな販売店だと思いますよ。ああいうところは、戦場でサルベージした戦闘艦を修理して売っている事がありますから」


 我々は超小型航宙艇でフェニャスに着陸した。サリオが情報ネットワークを検索し、戦闘艦を売っている販売店の情報を調べる。


「衛星独自のネットワークを調べました。二つほど在庫がある販売店がありましゅ」

「よし、そこに行ってみよう」

 一軒目の販売店で売っていた戦闘艦は、全長三百メートルほどの駆逐艦だった。文明レベルEの種族が建造したもので、乗組員が五十人ほど必要だという。


「ダメだな」

「これはダメでしゅね」

 ソニャが首を傾げた。

「なぜダメなの?」

「乗組員を五十人も集められないからでしゅ。それに屠龍猟兵の船には向いていません」


 一軒目はハズレだったようだ。それで二軒目へ向かった。その販売店は古い建物で歴史があるようだ。そこの主人は六十すぎの老人に見えたが、実際は二百歳を超えているのではないだろうか。


「お客さん、どんな船が欲しいのかね?」

 この主人はメルオラという名で、宇宙ステーションの店員と同じ赤い瞳のヒューマン族だ.

「戦闘艦があるなら、見せて欲しい」

「ほほう、戦闘艦か。屠龍猟兵なのかな?」

「そうです」


 主人が戦闘艦が置いてある場所まで案内してくれた。ソニャは店内で待つ事になり、私とサリオだけが宇宙服を着て向かう。


 衛星フェニャスの地上は、細かい砂が積もった砂漠のような地形だった。その上を店のホバーカーで飛んで戦闘艦に向かう。案内してくれた先にあった戦闘艦は、全長百三十メートルほどのコルベット艦だった。遷時空跳躍フィールド発生装置やルオンドライブは付属していないが、構造は戦闘艦だ。


 宇宙軍の軍艦は、偵察艦、コルベット艦、フリゲート艦、駆逐艦、巡洋艦、戦艦の順番で重装備になるので、コルベット艦は偵察艦より重装備という事になる。ちなみに、コルベット艦とフリゲート艦は、艦を付けずにコルベット、フリゲートと呼ばれる事もある。


「この船を動かすのに必要な乗組員の数は?」

「五人です」

 それくらいだったら、用意できそうだ。ただ高そうな船だった。いくらなのかと確認した。


「この戦闘艦は、六百億クレビットですな。これでぎりぎりです」

 溜息しか出ない。その横でサリオがメルオラに目を向ける。

「高すぎましゅ。他に戦闘艦はないのでしゅか?」

「待ってくれ。このコルベット艦は、十二光径荷電粒子砲と八光径レーザーキャノンを備えた戦闘艦だ。決して高くはない」


「残念ながら、予算をオーバーしているんです」

 私がそう言うと、メルオラが不満そうな顔をする。

「そうですか。しかし、他の戦闘艦はコルベット艦より高い。……待って、一隻だけ安い船がある」


 私は身を乗り出した。

「それは?」

「文明レベルCの種族が建造した偵察艇だったが、今はジャンク船だ」

 ジャンク船と聞いて中国の古い木造帆船を連想したが、違うだろう。たぶんジャンク品の船という事だ。


「見せてくれ」

 メルオラが頷いた。

「いいですよ」

 そのジャンク船というのは、全長七十メートルほどの偵察艇だった。形は両刃の短剣に似ている。但し、グリップの部分が太く、二基のプラズマエンジンが組み込まれていた。ストロブ合金というかなり頑強な金属で建造されており、強い加速や荒い操縦にも耐えられる構造だという。


 そして、日本刀の鍔に相当する部分は、小さな翼のように広がっていて長さが三十メートルほどありそうだ。中に入ってチェックすると、機関室に肝心の動力炉がなかった。それにエンジンの一部も壊れているようだ。そのエンジンをサリオにチェックしてもらう。


「どう、直せそうか?」

 サリオが頷く。

「部品さえ揃えれば、修理は可能だと思いましゅ」

 それから船の全体をチェックし、問題点を洗い出した。そして、最大の問題が船の制御脳にある事が判明した。制御脳は独自のエネルギー源を持っており、それがプロテクトが掛かったままだと分かったのだ。


「プロテクトが掛かったままだと、この制御脳は使えません。新しい制御脳に付け替える事になりましゅ」

 メルオラが肩を竦めた。

「だから、安くなっている」


「安いと言うと、いくらなのでしゅ?」

「百五十二億クレビットですな」

 戦闘艦が百五十二億というのは安いが、ちゃんと動くという前提だ。私はサリオと二人だけになって話し合った。


「新しい制御脳を買うと、どれくらいになる?」

「軍用の制御能となると、百二十億クレビットはしましゅ」

「それだと、動力炉が買えなくなる」

「大丈夫でしゅ。新しい制御脳は必要ありません。僕がプロテクトを外しましゅ」


 サリオの顔を見ると自信がありそうだった。話し合った末に、このジャンク船を購入する事にした。メルオラのところに戻り、買う条件をいくつか出した上で購入すると伝えた。


 すると、メルオラがニヤッと笑い、条件を飲んで承諾した。その条件というのは、この場所でジャンク船を修理させてくれというものだ。


 修理期間が長く掛かりそうなので、スペースシェルターという宇宙仮設住宅をレンタルした。これは人工重力装置付きのもので、一ヶ月ほど生活が可能なのものである。


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