第38話 サリオの帰還

 私が病院を退院して三日が経過した日、サリオが戻って来た。ゲストタワーの部屋に入ったサリオの後ろには、クーシー族の少女が立っていた。


「ゼン、若返ったみたいでしゅね?」

 サリオが私の顔を見て首を傾げながら言う。最初の一言が、それだとは思っていなかった。

「長命化処置を受けたんだ。それより、その子は?」


 サリオの顔が曇った。

「妹のソニャでしゅ。僕の家族で残っていたのは、この妹一人だけでしゅ」

 サリオとソニャの悲しげな顔を見ると、何と言って慰めたら良いか分からない。

「……そうか。大変だったんだな」

「最後の家族なのでしゅ。ソニャだけは幸せになって欲しいのでしゅ」


「そうだな。私も協力するよ。ところで、コラド星とゴブリン族のゴヌヴァ帝国は、どうして戦争になった?」


「ゴブリン族が罠を仕掛けたのでしゅ。輸送船にカモフラージュした軍艦がコラド星系に入り込み、問題を起こして宇宙軍と戦いになったのでしゅ」


 ゴブリン族は自分たちの輸送船が一方的に攻撃されたと主張し、問題が大きなって戦争にまで発展したという。クーシー族は必死で戦争になるのを止めようとしたが、ゴブリン族は戦争へと突っ走り、とうとう宣戦布告して戦争を始めたという。


「宙域同盟は、何もしなかったのか?」

「戦争が始まると宙域同盟は、調停部隊を派遣しました。でしゅが、間に合わなかったのでしゅ」

「間に合わなかった?」


「調停部隊が到着する前に、コラド星の主惑星ジルタがゴブリン族に制圧されてしまったのでしゅ」

 まだ戦争は続いていたが、ゴヌヴァ帝国に惑星ジルタが組み込まれてしまった。その事実を元に、ゴブリン族はコラド星系での戦争を内戦だと主張した。


 宙域同盟軍は、内戦に干渉しないという法律がある。それをゴブリン族は利用したのだ。宙域同盟もすぐには納得しなかったが、時間が経つうちにコラド星系の全部の惑星が制圧されてしまった。


 ここまで既成事実が進むと、クーシー族が人質になっている事もあって調停部隊は何もできなかった。そして、事実上ゴブリン族のゴヌヴァ帝国が、コラド星を支配下に置いた。


「我々クーシー族は、必ずコラド星を取り戻しましゅ」

「その意気だ。私も力を貸すよ。だけど、何をしたら良いか分からない」


「まずは、クーシー族が安全に暮らせる場所を探そうと思うのでしゅ」

「生き残ったクーシー族はどれくらいなんだ?」

「ゴブリン族から逃げられた者は、三千万人ほどでしゅ」

「多い、いや元は何億人も居たのだから少ないのか。避難場所になっているタリタル星の惑星ロドアじゃ。ダメなのか?」


「タリタル星は故郷の星に近いので、取り戻しゅための戦力を準備しようとしゅると、しゅぐにバレてしまいましゅ」


 サリオの妹ソニャが、私の事をジッと見ていた。

「おじさんは、屠龍猟兵なの?」

「そうだよ」

「いいな。ソニャも屠龍猟兵になりたい」

 それを聞いたサリオが笑う。


「どうして屠龍猟兵になりたいのでしゅ?」

「強くなって、ゴブリンを倒してやるの」

 小さなソニャでも、ゴブリン族に対して怒りを持っているようだ。両親と長兄を殺されたのだから、それは当然の事なのだろう。


 私とサリオはお互いに離れていた期間に何があったのか話した。

「えっ、ランクCになってから、降格してランクDに戻ったのでしゅか?」

「そうなんだ。原因は私じゃないのに酷いと思わないか?」


 サリオが肩を竦めた。

「でも、怪我人が出たのでしゅから、仕方ないと思いましゅ」


 過去の出来事について話し終えると、これからどうするかを話し始めた。

「ゼンは航宙船を買おうと思っているのでしゅね?」

「そうなんだ。でも、ちゃんとした屠龍猟兵用戦闘艦を買うには資金が足りない」


 母王スパイダーを倒して手に入れた龍珠と死骸を売り、二百三十億クレビットになった。航宙船がないと他の星への移動が不便なので、その資金で船を買おうと思っている。


 そう言えば、レギナがゼデッガーを倒して手に入れた異層ペンダントの中身を売り、念願の武装機動甲冑も買うつもりだと言っていたが、もう購入したのだろうか? おっと、今は船の話だった。


「資金はどれくらいなのでしゅ?」

「全部で三百億くらいだけど、改装するだろうから、出せるのは二百五十億クレビットかな」

 それを聞いたサリオとソニャは驚いていた。


「屠龍猟兵というのは、儲かるのでしゅね」

「もう少しで死ぬところだったけどね」

 サリオが溜息を吐いた。

「ゼンは相変わらずでしゅ。操縦はどうするつもりだったのでしゅか?」


「航宙船操縦士二級の勉強を始めている。もう少しでシミュレーションの訓練が始まる。でも、サリオが戻ったから、必要ないかな」


 サリオは航宙船操縦士二級の免許を取得したという。故郷への旅は長かったので、その時間を利用して取得したのだ。


「勿体ないでしゅ、免許は取得するべきでしゅよ」

「そうかもしれないな。このまま続けるか」

 サリオたちは近くにホテルに泊まるという。私は以前のように一緒に住んでも良かったのだが、ソニャも居るので、別の部屋を探すらしい。


 私は航宙船操縦士二級の取得に集中し、その八日後に免許を取得した。そして、私とサリオ、それにレギナが話し合い、ゾルーダ星へ行く事にした。


 ゾルーダ星には大きな中古船マーケットがあり、そこでなら良い船が見付かるかもしれないとレギナが提案したのだ。レギナは私が船を欲しがっていたのを覚えており、探してくれたのである。


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