第41話 海賊船
通信機が不審船からの警告を受信した。
「逃げ出そうとしたら、攻撃する」
それを聞いた私とサリオは、相手が海賊だと確信した。
「あれっ、あの船に見覚えがある」
何となく見た事がある船だと気付いた。
「……あっ、メルオラが最初に見せてくれたコルベット艦でしゅ」
という事は、メルオラと海賊は繋がっていたのだ。この遭遇も偶然ではなかったのだろう。
「メルオラのやつ……」
「どうしましゅか?」
「この船には武装がない。戦術魔導技で攻撃してみるけど、コルベット艦はバリアを装備しているはずだ」
ゾロフィエーヌからもらった『一般常識』によると、コルベット艦以上の戦闘艦にはバリアを装備するのが常識だという。そのバリアを戦術魔導技で貫通できるか分からなかった。
私は戦闘ルームへ向かった。一方、サリオはルナダガーを操縦して逃げ出す。当然海賊船となったコルベット艦が追って来た。
戦闘ルームへ行き、追って来る海賊船を探して位置を確かめる。スピードはルナダガーの方が速そうなので、逃げ切れるかもしれないと思ったが、レーザーキャノンと荷電粒子砲を使って攻撃してきた。
ルナダガーの周りをレーザー光やプラズマ砲弾が通過する。そうなると、ジグザグに軌道を変えて攻撃を避けなければならない。結果、スピードが落ちるのでゆっくりと海賊船との距離が縮まり始めた。
「まずいな」
近付いて来る海賊船に怒りの視線を向けると、強化粒子弾を放った。開放レベルTで全ての天震力を込めた強化粒子弾が海賊船を目指して飛び、もう少しで命中するという時にバリアに阻まれて爆発した。
「ダメか。強化粒子弾ではバリアを破れない」
その声を戦闘ルームに設置されたマイクが拾い、操縦室のサリオが聞いたようだ。
「開放レベル1で粒子弾を撃てないのでしゅか?」
サリオの声が聞こえた。母王スパイダーと戦った時の事をサリオにも話しているので、その時と同じ事ができないかと質問しているのだ。
「やってみよう」
制御門を開放レベル1にする。すると、大量の天震力とボソル粒子が身体の中に流れ込んできた。ボソル粒子を船外に出して球形にする。粒子弾は粒子円翔刃よりは形にしやすい。それでも目一杯の精神力が必要だった。それを海賊船に向けて放った。
残念ながら開放レベル1の粒子弾は的を外した。やはり命中率が下がるようだ。
「それで終わりか、残念だったな」
通信機からメルオラの声が聞こえてきた。メルオラは海賊の協力者ではなく、海賊そのものだったらしい。
「まだまだこれからだ」
「ふん、戦術魔導技が通用しなかったんだ。何ができる。その船には武器がないんだぞ」
開放レベル1の粒子弾が命中すればバリアを貫通する事ができるのだが、命中させる自信がなかった。そこで開放レベルTに戻して貫通力の強い強化粒子貫通弾を放った。だが、バリアで受け止められる。
「無駄な事はやめて、降伏しろ」
耳障りなメルオラの声が聞こえた。そう言っている間も海賊船は攻撃をやめない。プラズマ砲弾が戦闘ルームの近くを通り過ぎた。それに気付いてゾッとする。
その時、ゼデッガーから手に入れた翔撃ダガーの事を思い出した。その翔撃ダガーを取り出すと、天震力でコントロールしながら船外に出す。小さなエアロックのような仕組みを戦闘ルームに組み込んであるのだ。
船外に出した翔撃ダガーに天震力を注ぎ込む。開放レベルTだと翔撃ダガーの限界まで天震力を注ぎ込むのに時間が掛かりそうだ。そこで開放レベル1にして天震力を注ぎ込むと二秒ほどで限界に達した。成功したのは、翔撃ダガーに開放レベル1までの天震力制御をサポートする機能があったからだ。
満杯になるまで天震力を充填した翔撃ダガーは薄い緑色の光を放っており、そのせいで何倍にも大きくなったように見える。次の瞬間、翔撃ダガーを海賊船に向かって撃ち出した。
海賊は光を放つ翔撃ダガーに気付いて海賊船の軌道を変えた。海賊船が避けようとしているのを見た私は罵った。
「クソッ、海賊なら正面から勝負しやがれ!」
理不尽な事を言っているという自覚はあるが、思わず叫んでしまう。そして、翔撃ダガーと細い意識の糸のようなもので繋がる事を利用し、それに全精神力を集中して飛翔する翔撃ダガーの軌道を変える。成功した。
「ヨッシャー!」
翔撃ダガーが纏っている光が海賊船のバリアにぶつかって穴を開けた。その光は力を持つ光だったようだ。そのまま直進した翔撃ダガーは、船体を貫通して反対側から飛び出すとUターンする。
海賊船のスピードがガクリと落ちた。戦闘ルームの近くまで戻って来た翔撃ダガーに、もう一度天震力を注ぎ込む。海賊船はバリアを失ったようだ。私は再び翔撃ダガーを撃ち出す。
翔撃ダガーによる二度目の攻撃で海賊船が爆発する。あの爆発では、メルオラも死んだに違いない。ホッとして翔撃ダガーを回収すると操縦室に戻った。
操縦室に入った私に、ソニャが飛び付いてきた。
「ゼン、凄いでしゅ」
ソニャがニコニコしながら興奮していた。そんなソニャに、サリオが優しい笑顔を向けている。それから三人で話をした。
「やっぱり船に武装がないと心配でしゅ」
「でも、資金が底を突いた。また狩りをしないと」
「惑星ボラン以外のところへ行くのでしゅか?」
「いや、まずはボランに戻って、翔撃ダガーの練習や粒子装甲の改良をするつもりだ」
母王スパイダーを倒して『初級魔導装甲』の技術情報を手に入れたが、まだじっくり調べていない。『初級龍珠工学』の勉強と船を手に入れる事を優先したからだ。
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