第42話 海賊船のサルベージ

「こういう場合、ここの政府に報告するべきなんだろうか?」

 サリオに確認した。

「難しいでしゅね。海賊が政府を抱き込んでいたら、僕たちが逮捕されるかもしれません」


 サリオの話によると、海賊と政府がグルになっているという事があるのだという。レーダーで海賊の仲間が近付いていないか調べたが、一隻だけの単独行動だったようだ。ルナダガーは非武装の船なので、一隻で十分だと判断したのだろう。


「あの海賊船を調べてみよう」

 ルナダガーを爆発した海賊船に近付けて様子を調べると、二つあるエンジンの一つを翔撃ダガーが撃ち抜いた事で爆発したようだ。


 海賊船から出ている放射線を調べると異常はないので、放射性物質が漏れ出ているという事はなかった。そこで宇宙服に着替えた私とサリオは、海賊船に向った。


 背中のスラスターを噴かせて海賊船に近付き、爆発で生じた穴から内部に入る。最初にエンジンを確認した。二つのエンジンは修理不可能なほど壊れており、機関室へ移動する事にした。船内は薄暗かったが、電源は存在するようだ。たぶん非常用バッテリーの電源が生きているのだろう。


 機関室へ行く途中で海賊の遺体と遭遇した。爆発で吹き飛ばされた破片で身体が切り裂かれている。


 何かに気付いたサリオが、遺体の手を調べた。

「こいつ、識別リングをしていましゅ」

 識別リングというのは、カードキーの指輪版である。それとサリオのハッキングツールを使えば、大概のドアは開けられるという。


 サリオが機関室のドアを回収した識別リングとハッキングツールで開けて中に入る。機関室は頑丈な壁で囲まれているので、爆発の影響をそれほど受けていなかった。


 コルベット艦であった海賊船は、軍用の高性能小型核融合炉を搭載していた。その高性能小型核融合炉が無傷で残っていた。ただ爆発を感知した船の制御脳は、核融合炉を緊急停止させたようだ。


「これは使えるんじゃないか?」

 核融合炉の状態を確かめた私は、サリオに尋ねた。

「そうでしゅね。整備ロボットを出してもらえましゅか」

 私は異層ブレスレットから整備ロボットを出して起動する。サリオは整備ロボットに小型核融合炉の取り外しを命じた。


 機関室に整備ロボットだけ残し、サリオと一緒にブリッジへ向かう。その途中、何人かの遺体を見付けた。ブリッジのドアもサリオが開けた。中は酷い状態になっていた。


 翔撃ダガーの一撃目は、ブリッジの左側から入って右側へ抜けるように貫通したようだ。そのせいでブリッジ内の全海賊が死んでいた。この中にはメルオラも居るのだろうが、判別できないほど酷い状況だった。相手は海賊だと分かっているが、こういう光景を見ると気分が悪くなる。


「これは酷い。回収できそうなものはないな」

「ええ、これはダメでしゅね」

 ブリッジの調査はすぐにやめて他の部屋を探し始めた。すると、倉庫で小型アタッシュケースにリュックのようなショルダーベルトやウエストベルトが付いているものを発見した。


 それを調べると、新品の機動甲冑だと分かった。以前に使っていたゴブリン族の低性能機動甲冑ではなく、文明レベルDのMM型機動甲冑だ。


 MM型機動甲冑というのは、マイクロマシン型機動甲冑の事である。ミリ単位の極小マシンで構成された機動甲冑で、使用者の体表に極小マシンが張り付いて機動甲冑になるというものだ。


 このMM型機動甲冑のメリットは、様々な体形の使用者に自動的に極小マシンが合わせてくれるので、ほとんどの知的生命体が使用できるという点だ。


 しかし、デメリットも存在した。通常型のものより強度が劣るのである。と言っても、銃弾や刃物を弾き返すくらいの強度はあった。しかも筋力のアシスト機能もあり、パワーを七倍にするというものだった。


「MM型機動甲冑が、八個ありましゅ。持って帰りましょう」

「使えるのだろうか?」

「海賊が倉庫に仕舞っていたという事は、使えるはずでしゅ。但し、爆発で壊れていなかったら、という条件が付きましゅが」


 動くかどうかの確認は後にして八個のMM型機動甲冑を異層ペンダントに仕舞った。それから格納庫らしいところへ行くと、小型戦闘機のようなものがあった。ただ戦闘機の中央に大きな穴が開いており、修理はできないようだ。


 小型戦闘機はダメだったが、その格納庫で円盤型の偵察ドローンを発見した。少し壊れていたが、修理できそうなので回収する。


 海賊船に搭載されている武器の中で、十二光径荷電粒子砲と八光径レーザーキャノンが修理できそうだったので、これも整備ロボットに取り外させて回収する。小型核融合炉も取り外し作業が終わり、回収した。


 その頃になってルナダガーから通信が入った。それは制御脳が近付いて来る航宙船を発見した時に発するもので、私とサリオは整備ロボットを回収するとすぐにルナダガーに戻った。


 操縦室ではソニャが不安そうな顔で待っていた。

「どんな船が近付いて来るのでしゅか?」

「デカイでしゅ」

 ソニャがメインモニターに近付いてくる航宙船を映し出した。その船は全長二百五十メートルほどある戦闘艦だった。


「これは駆逐艦でしゅね。識別信号もなしでしゅか」

 それを聞いて舌打ちしたい気分になった。

「メルオラの仲間か。どうする逃げるか?」

「ゼンは、駆逐艦を撃破できると思いましゅか?」

「駆逐艦だとバリアも強固になるだろうから、正直分からない。方針としては逃げよう」


 サリオが頷いた。

「逃げる前に、遷時空跳躍フィールド発生装置の最終チェックをしないとダメでしゅ」

 最終チェックというのは、停止した状態で遷時空跳躍フィールド発生装置を起動し、遷時空跳躍フィールドがちゃんと発生するかチェックする事だ。


 サリオが遷時空跳躍フィールド発生装置の自己チェックシステムを起動してテストする。それで異常がなかったので起動させた。次の瞬間、ルナダガーの前方十五キロの位置に遷時空跳躍フィールドが発生する。


 サリオはいくつかの機械を使って遷時空跳躍フィールドを検査した。

「問題ないでしゅ。ちゃんとした遷時空跳躍フィールドが発生していましゅ」

 これで跳躍リングを使わずに、遷時空スペースに飛び込めるという事だ。後はバーチ1の速度になれば逃げ切れる。


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