第43話 惑星ボランへの帰還

 遷時空跳躍フィールド発生装置の最終チェックが終了したので、これで実際に動かす事ができる。


「という事は、あの遷時空跳躍フィールド発生装置が、六千億クレビットの価値になったという事か。凄いな」


「でも、絶対に売るのは反対でしゅよ」

「分かっているよ。手放したら二度と手に入らないんだろ」

 サリオが頷いた。

「ゾロフィエーヌに、遷時空跳躍フィールド発生装置の作り方を教われば、良かったでしゅかね?」


「それは欲張りすぎだろ。ゾロフィエーヌを怒らせると怖いぞ」

「そうでしゅね。遷時空跳躍フィールド発生装置は特別でしゅから」


「最終チェックも終わったから、逃げよう」

「天震力ドライブでお願いしましゅ」

「もう推進剤の心配か?」

「海賊船との戦闘で大分使ったのでしゅ。節約しないと」

「了解」

 俺は戦闘ルームへ行き、ルナダガーを追って来る海賊船とは反対方向に加速させた。すでにかなりのスピードとなっている駆逐艦とゼロから加速しているルナダガーでは、圧倒的に駆逐艦の方が速い。


「このままでは追いつかれましゅ。少しでも早くバーチ1になって、遷移しゅるしかありません」

 遷時空スペースに飛び込むには、光速の〇.一パーセントの速度であるバーチ1が必要だった。


 追って来る駆逐艦が攻撃を開始した。その駆逐艦の主砲は二十光径荷電粒子砲のようだ。駆逐艦は有効射程外から砲撃しているので、かなり見当外れの場所をプラズマ砲弾が通過している。


 しかし、時間が経つに従い狙いが正確になってきた。ルナダガーと駆逐艦の距離が縮まったのである。危機感が高まり、サリオがもっと加速度を高められないかと言ってきた。


「できるけど、ソニャが耐えられるのか?」

 このルナダガーには、慣性力抑制装置が存在しない。急加速すれば、ジーが発生する。そのGは乗組員全員に襲い掛かり、その身体を後方へ押し付ける。


 そのGに幼いソニャが耐えられるかを心配したのだ。

「ゼンの心配も分かるけど、攻撃を受けたら全員死にましゅ」

「分かった。危ないと思ったら加速を増強するよ」

 私はソニャの危険を考えると良い方法ではないと思ったが、仕方がない選択だと分かっていた。


 もう少しで有効射程圏に入るという時、駆逐艦の加速が止まった。

「サリオ、どうして加速を止めたのか分かるか?」

 通信機越しにサリオに尋ねた。

「たぶん、推進剤が少なくなったのでしゅ。本来の駆逐艦なら、推進剤を使わない推進手段を持っているはずでしゅが、海賊の手に渡った時には、それらは取り外されていたのだと思いましゅ」


 推進剤を使わない推進手段としては、天震力ドライブと同じ原理である加速力場ジェネレーター、人工重力を利用する重力エンジンが存在する。それらがない航宙船は、常に推進剤の残量を計算していないとダメなのだ。


 逃げ切れるかもしれないと思った時、駆逐艦から二つの何かが出てきた。

「ゼン、小型戦闘機でしゅ」

「しつこすぎるぞ」

「仲間の敵討ちだと考えているのでしゅ」

 小型戦闘機が近付いて来るのを見て舌打ちした。バリアを持つ駆逐艦も手強いのだが、素早い動きをする戦闘機も手強い。


 問題は俊敏な動きをする戦闘機に命中させられるかどうかである。目視で狙いをつける戦術魔導技の基本技は、長距離狙撃に向いていない。


 だからと言って、戦闘機を近付ければレーザーガンやスペース機関砲で攻撃してくるだろう。

「考えてばかりじゃダメだな」

 命中する事を祈りながら攻撃する事にした。天震力ドライブを中止し、サリオにエンジンを使って加速するように伝える。


 段々と近付いて来る戦闘機に向かって強化粒子貫通弾を放つ。広大な宇宙で小さな戦闘機に命中させるのは、かなり難しい。やはり命中しなかった。翔撃ダガーで攻撃しようかと考えたが、豆粒ほどの大きさに見える戦闘機に命中するように誘導するのは難しい。


 二機の戦闘機はスピードを上げて迫ってきた。そして、レーザーガンを撃ち始める。小光径のレーザーガンだと同じ戦闘機は撃破できても、ルナダガーほどの船だとエンジンなどの部位に命中させない限り撃破は難しい。


 レーザーがルナダガーの船腹に命中して光を放った。その瞬間、ルナダガーが震える。ルナダガーも軍用艦なので、これくらいのレーザーに耐えるだけの強度はあった。だが、こんな時はバリアが欲しいと思う。


 まだ距離があるので、レーザーガンだけの攻撃である。宇宙を高速で飛び回る戦闘艦の戦いでは、かなり接近しないとスペース機関砲の攻撃は命中しないからだ。


 またルナダガーの船体に振動が走る。私は強化粒子貫通弾をやめて連続で粒子貫通弾を放ち始めた。練習の成果で粒子貫通弾を一発放つ時間が〇.五秒くらいにまで短縮している。それを活かしてばら撒くように後方へ粒子貫通弾を放ち続ける。


 ばら撒いた粒子貫通弾は戦闘機に向って飛ぶが、どれも命中しなかった。原因は基本技である『粒子撃・貫通弾』の命中精度が低いからである。


 この事をサリオに相談したら、

「スペース機関砲などの武器に例えると、照準装置の性能が低いのでしゅ。基本技は一発一発の命中率を上げる事より、速射能力を重視しているのだと思いましゅ」

 と言われた。


 基本技の基本性能だという事なら、それを改造して別の魔導技を創り出すしかない。それには長い研究時間と労力が必要なので手を付けていなかった。


 更に戦闘機が近付く。戦闘機もレーザーガンでは仕留められないと考え、スペース機関砲の有効射程まで近付こうとしているようだ。だが、それだけ近付けば粒子貫通弾も命中する確率が高くなる。


 粒子貫通弾をもう一度ばら撒くと、最後の粒子貫通弾が一機の戦闘機に命中した。粒子貫通弾は戦闘機のエンジンを撃ち抜いたらしく、戦闘機が盛大に爆発した。


「やったー! ゼンは凄いでしゅ」

 通信機からソニャの声が聞こえてきた。その後、もう一機の戦闘機が近付いてきたので、粒子貫通弾を同じようにばら撒いて仕留めた。


 通信機からまたソニャの歓声が聞こえてくる。

「ゼン、もうしゅぐバーチ1の速度に達しましゅ。操縦室に戻ってください」

 急いで操縦室に戻って座席に座ると、シートベルトを締める。モニターで後方を見ると、駆逐艦がもう少しで有効射程内に入るほど迫ってきていた。


 ルナダガーを加速させてバーチ1に達した瞬間、遷時空跳躍フィールドを展開すると遷時空スペースに飛び込んだ。操縦しているサリオが大きく息を吐き出すのが見えた。


「逃げ切れたようでしゅ。もう追って来ないでしょう」

 海賊が所有する戦闘艦のほとんどは、遷時空跳躍フィールド発生装置を持っていないので、遷時空スペースに入るには跳躍リングを利用するしかないという。


 遷時空スペースを何回か経験した事で慣れた。ソニャも長旅を経験して慣れたようだ。遷時空スペースを二日ほど移動してチラティア星に戻ったルナダガーは、第五惑星ボランへ向かう。


 今回の旅で危険な事もあったが、星間航宙船という素晴らしいものを手に入れた。これで自由に星の世界を旅する事ができる。活動範囲が広がれば、地球を探し出す助けになり、サリオの願いであるクーシー族の救済も何かできるかもしれない。


 私は広大な宇宙の中に浮かぶ魔境惑星ボランを見ながら、何だか懐かしい気分になっていた。



―――――――――――――――――

【あとがき】


 今回の投稿で『第1章 宇宙の冒険者編』が終了となります。次章もよろしくお願いします。


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