第2章 ナインリングワールド編

第44話 サリオとレギナ

 私は神宮司じんぐうじぜん、地球の日本人なのに宇宙の冒険者みたいな屠龍猟兵という職業に就いている。私とサリオ、サリオの妹ソニャは、中古航宙船の大規模マーケットがあるゾルーダ星へ行き、元偵察艇であるルナダガーを手に入れた。


 そのルナダガーで遷時空スペースから通常空間に戻ると、目の前に屠龍猟兵ギルドが管理するチラティア星系が広がっていた。我々は数日掛けて魔境惑星ボランに到着し、ルナダガーを宇宙港に停泊させる。


「懐かしい景色だ。こんな気持になるとは思わなかった」

 そう言うと、聞いていたサリオが笑う。ソニャは真剣な顔で惑星ボランを見ていた。その後、宇宙エレベーターで地上まで下りた。


 サリオとソニャはホテルで休むというので屠龍猟兵ギルドの近くで別れ、私はギルドに入った。そこでレギナを探す。宇宙エレベーターの中からレギナに連絡し、会う約束をしたのだ。


「ここだ」

 聞き慣れたレギナの声が耳に届き、そちらに視線を向けるとロビーに立っているレギナの姿が目に入った。私は思わず笑顔になり、近付いて挨拶した。


「ゼン、また若返ったみたいだな」

 笑いながら肩を竦めた。遺伝子組換えによる長命化処置は、全身の細胞が入れ替わるタイミングで細胞単位で若返る。なので、外見上は時間を掛けてゆっくりと若返っているように見えるようだ。自分でもチェックしているが、現在は三十歳ほどに見える。


「どうだった。航宙船は見付かった?」

「文明レベルCの偵察艇を、購入する事ができたよ」

「凄いじゃないか。でも、高かったんじゃないか?」

「いや、動力炉が紛失してエンジンも破損していたので、安かった」


「ジャンク船を買ったのか。修理が大変だったはずだ」

「整備ロボットを持っていたんで、何とか修理できた。そこで提案なんだが、船の乗組員になってくれないか?」


 レギナが首を傾げた。

「つまり、屠龍猟兵のチームを組もうというのか?」

「そういう事」

「しかし、あたしには妹と弟が居る」

「一緒に船に連れて来ればいい。両親は亡くなったと聞いたから、家族は妹たちだけなんだろ」


 この惑星ボランでは、子供たちの教育を学校ではなく学習ソフトによる個別教育で行っている。様々な種族が生活しているので、学校という共通した場所で教育するのが困難なのだ。


 妹と弟が学校に通っているのなら、一緒に船に乗り込むというのは難しいだろう。だが、学習ソフトによる個別教育なら、船の中でも勉強できる。


 ルナダガーは屠龍猟兵用の船として活用するが、当分の間は戦闘には使用しないつもりだ。武装が全くないのだから使用できないというのが、本音である。ただモンスターの居る場所へ行くので、早期に宇宙クラゲくらいは倒せる武装が欲しい。


 海賊船から回収した武器が使えるのではないかと考えているが、まだチェックもしていないので分からない。


「いいわ。あたしも宇宙に出たいと思っていたから、いい機会だと思う。でも、この星を離れるの?」

「すぐにじゃないけど、離れるつもりだ。希望があるなら聞くよ」


「そうね。新しく買った武装機動甲冑を試せるモンスターが、居る星がいいわね」

「買ったんだ」

「ええ、ゼデッガーから手に入れた龍珠を売って、九億クレビットする高機動型フランセスⅡを購入した」


 レギナが嬉しそうに言う。購入した武装機動甲冑は、脅威度4のモンスターとも戦えるほど強力なものだという。


 その翌日、私とサリオ、レギナの三人がホテルの一室に集まって今後の目標を話し合った。ソニャは近くのテーブルで勉強しており、レギナの弟妹は、ゲストタワーの部屋で保育ロボットと一緒に待っているという。


「まず第一に、資金が欲しい」

 私が言うとサリオとレギナも頷いた。何をするにも金が必要なのだ。


「レギナは、どうして危険な屠龍猟兵になったのでしゅか?」

 サリオがレギナの顔を見ながら質問した。

「あたしの生まれた星は、ダバス海賊団に攻撃されて大きな被害を出したんだ。その攻撃で両親は死んだわ。その時に思ったの。いつかダバス海賊団のリーダーに罰を下したい……でも、今のままじゃ無理だと分かっている」


 ダバス海賊団の噂は私でも聞いていた。配下が数百人という大海賊団である。宙域同盟の星域から少し外れた星々に拠点を築いて周辺の惑星や船を襲っていた。ただそういう事件が起きているのが、宙域同盟の外なので宙域同盟軍は動かないらしい。


 今より若かったレギナは屠龍猟兵になって強くなり、ダバス海賊団に戦いを挑もうと考えたという。そう話したレギナは、考えが浅い子供だったのだと苦笑いする。


 自己紹介的な話が終わった頃、ホテルの端末から非常事態の警告音が発せられた。

「何の警報でしゅか?」

 サリオが驚いた顔をしている。スマートグラスを出して装着するとネットを流れているニュースを調べる。すると、脅威度5の砲撃シャークが現れて惑星ボランに近付いているというニュースが広まっていた。


「サリオ、ルナダガーを自動で着陸させられるか?」

 そう尋ねると、サリオが頷いた。

「できるけど、着陸しゅる場所が……」

「ガリュード砂漠の入り口付近なら、大丈夫だろう」


 私とサリオはルナダガーを砂漠に着陸させるために、管理している機関と交渉を始めた。交渉は難航したが、非常事態だと押し切り、何とか許可を取った。


 サリオはルナダガーと繋がっている専用端末を使って指示を出す。レギナには弟妹を連れて来るように指示する。レギナは急いで部屋を出て行った。


 モンスターが惑星に近付くという事は、大規模災害の予兆でもあった。モンスターが惑星上空の宇宙から惑星を攻撃する事があるのだ。


 ソニャは警報を聞いて不安そうな顔をしている。

「サリオ兄!」

 ソニャがサリオに抱きついた。サリオは妹を安心させるように抱き締めた。それからホテルの外へ向かう。


 ホテルの外に出た我々の耳に、混乱した人々の声が聞こえてきた。

「そんな荷物は邪魔だ。捨てろ!」

「五月蝿い! これは大切なものなんだ」

 逃げ出そうとしている住民たちが言い争いをしていた。


 私は急いでホバーバイクを出して乗った。サリオとソニャは小柄なので、なんとかホバーバイクに乗せる事ができた。


 街の上空に飛び上がってエレベーター街を見下ろすと、滅茶苦茶混乱していた。避難命令が出ており、大勢の人々が宇宙エレベーターや地上の宇宙港へ向っているようだ。


 砂漠への着陸許可を取った時に聞いたのだが、地上の宇宙港であるボランザ宇宙港は、離発着の順番待ちで十八時間が必要らしい。砂漠に着陸する許可を取ったのは、良い判断だった。


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