第45話 宇宙モンスターと戦闘機
レギナと連絡を取りながらガリュード砂漠に到着すると合流した。レギナは妹のサシャと弟のラドルを連れていた。サシャとラドルは五歳くらいで、レギナと似ている双子だった。ただ滅茶苦茶可愛い。
二人はレギナの後ろに隠れるようにしながら、その両脇から顔だけ出して私とサリオを見ている。時々頭の耳がピコピコと動き、それが可愛かった。
「サリオ、ルナダガーは?」
「もうしゅぐ着陸しましゅ」
ルナダガーは偵察艇だったが、連絡艇としても使われていた事があり、惑星に着陸できる機能があった。そのルナダガーが見えてきた。
地上のボランザ宇宙港は着陸順番待ちがかなり酷い状態なので、私たちが砂漠に着陸させたと知ったら、ここに避難民が押し寄せるかもしれない。ちなみに、宇宙エレベーターには長い行列ができていた。
ルナダガーが砂漠に着陸した。機体の下部にあるスラスターから噴き出したプラズマで、砂漠の砂塵が舞い上がり、砂嵐が来たような状態になった。
擬似的な砂嵐が晴れるのを待ってから、ルナダガーに近付き乗り込む。サシャとラドルは目を丸くしてルナダガーの内部を見ていた。その二人をレギナが促して操縦室に行き、座席に座らせる。
サリオがメインモニターの電源を入れると、操縦室の前面と側面に配置されているモニターに周囲の砂漠が映し出された。
「ゼン、天震力ドライブを使って、ルナダガーを宇宙まで運べましゅか?」
「問題ない」
戦闘ルームへ行った私は、天震力ドライブを発動する。天震力が身体から溢れ出し、加速力場サーキットがアシストする。制御門を開放レベル1にすると、膨大な天震力が船体を包み込んでルナダガーが持ち上がり始めた。
宇宙に出ると、戦闘ルームから操縦室に戻った。
「ねえ、逃げるの?」
ソニャが私に聞いてきた。
「相手が脅威度5の砲撃シャークだからね。勝つのは難しいんだよ」
「ゼンなら、勝てるんじゃないの?」
ソニャは私が海賊船を破壊したところを見ていたので、そう思ったようだ。確かに元コルベット艦の海賊船を翔撃ダガーで倒す事はできたが、まだ練習不足で使い熟せているとは言えない状態だ。
それに脅威度5の宇宙モンスターは、コルベット艦より大きなフリゲート艦に匹敵すると言われている。なので、倒せるかどうかは分からない。
チラティア星系の政府が、避難命令を出している通信が聞こえてきた。そして、宇宙で戦える者たちに砲撃シャークの撃退に協力するように要請している。
ルナダガーのカメラを砲撃シャークに向け、その映像を拡大する。砲撃シャークは頭から胸までがサメのような生物で、そこから後半がイカのような生物というモンスターだった。
「気持ち悪いな。それにデカイ」
その砲撃シャークは、全長二百メートルほどもある化け物だった。それが分かったソニャは、驚くと同時に恐怖を感じたようだ。
屠龍猟兵ギルドが砲撃シャークの詳細情報を送ってきた。それによると砲撃シャークの胴体から伸びているイカの足のようなものは、砲撃ノズルと呼ばれているそうだ。砲撃ノズルはエンジンノズルのようにプラズマガスを凄い勢いで噴き出して推進力とする器官だという。
砲撃ノズルは、本来エンジンの一部のようなものなのだが、砲撃シャークは武器としても利用している。前方に砲撃ノズルを向けてプラズマ化したガスを噴出し、敵を攻撃するのである。
「なぜギルドは、準備していなかったのでしゅ?」
サリオが質問すると、レギナが肩を竦めた。
「予算がないというのもあるけど、今まで巨大な宇宙モンスターが訪れた事がなかったからだ」
ここに巨大宇宙モンスターが現れる確率は、一千年に一回とか一万年に一回というもので、そのために予算を割り当てる事は難しい。ただ他の星に在住している屠龍猟兵を呼ぶ事は可能で、今回もランクAの屠龍猟兵を呼んだはずだという。
「あっ、戦いが始まったでしゅ」
この星には正式な軍が存在しない。この恒星の所有権は屠龍猟兵ギルドにあるが、本格的に開発している訳ではない。中規模都市一つと研究施設があるだけなので、軍を配備するほどの予算がなかった。
とは言え、無防備ではない。十数機の戦闘機が宇宙港に配備してあり、その戦闘機が砲撃シャークへ向かった。だが、砲撃シャークはフリゲート艦並みの戦力と防御力を持っている。
我々は戦闘機が砲撃シャークを倒す事を期待して見守った。戦闘機が近付き、レーザーガンやガトリングガンのようなもので攻撃。レーザー光が砲撃シャークの背中に命中し、その皮膚を焼き切ろうとする。
しかし、砲撃シャークの肉体は信じられないほど頑丈で、戦闘機程度のレーザーガンでは深い傷を与える事はできなかった。ガトリングガンの攻撃も同じだ。
「レギナ、砲撃シャークの強さをどう思う?」
砲撃シャークと戦闘機の戦いを見ていた私は、レギナに質問した。
「さすが脅威度5の宇宙モンスターといったところね。あたしの武装機動甲冑じゃ、どうやっても勝てない相手だよ。ゼンは勝てる?」
砲撃シャークがフリゲート艦なみに強いのだとすると、翔撃ダガーで倒せるか分からない。
「分からない。まだ翔撃ダガーの威力がどれほどか、限界が分からないんだ」
「ネットを調べた?」
「調べてみたが、曖昧な情報が多すぎて整理できなかった」
翔撃ダガーの事だと思われる情報が数多くあったのだが、不正確な情報で一つ一つの情報を分析するには相当な時間が掛かりそうだった。この情報を分析するには、情報支援バトラーか類似したアプリが必要だ。
「戦闘機が、砲撃シャークに近付いてましゅ」
サリオが声を上げた。モニターを見ると、十数機の戦闘機が急速に砲撃シャークに接近している。
「何をするつもりだろう?」
レギナが鋭い視線で戦闘機の動きを観察すると、顔をしかめた。
「近付いてミサイルを撃つ気だ。最後の手段なんだろう」
その戦闘機は無人ではなく、屠龍猟兵ギルドが雇っている戦闘機乗りが操縦しているらしい。想定外の事が起きた場合、咄嗟の判断は機械より戦闘機乗りが優れているのだと聞いている。
人工知能による自動操縦にも多くの利点があるのだが、高度な技術を持つ敵がハッキングして人工知能を乗っ取るという事があり、軍事面で自動操縦を嫌う種族も多いらしい。
分散して四方八方から近付く戦闘機に、砲撃シャークが多数の砲撃ノズルを向ける。その様子を見ていると、このモンスターが生物兵器として天神族に作られたという話を思い出した。こんな化け物が自然に発生する訳がないのだ。
戦闘機に向けられた砲撃ノズルから、次々にプラズマガスが噴き出された。それは熱線ビームのように伸びて戦闘機に命中する。その攻撃で戦闘機の半分が撃破された。
「あああっ」
それを見て思わず声が漏れた。レギナも溜息を漏らす。その直後、残った戦闘機がミサイルを放った。そのミサイルが砲撃シャークに命中して爆発する。
「やったでしゅか?」
ソニャが声を上げた。爆発が収まった後、砲撃シャークを観察すると少しだけ傷を負ったようだ。Uターンして離れようとする戦闘機に向って、また砲撃ノズルから噴き出したプラズマガスが襲い掛かった。
その攻撃で四機が撃破され、残った戦闘機が逃げ出す。しかし、ダメージを受けて激怒した砲撃シャークが追い掛けて破壊した。期待した戦闘機が全滅した事で、ルナダガーに乗っている全員が落胆した。
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