第46話 惑星ボランの危機

 戦闘機の失敗を確認した屠龍猟兵ギルドは、弱り果てて砲撃シャークを倒した者に五百億クレビット賞金を出すと通達した。


「賞金が五百億クレビットか。金欠の今は欲しいけど、リスクが高いな」

「無理はダメでしゅ」


 我々は諦めたが、他の屠龍猟兵たちの中には砲撃シャークを倒そうと思った者も居た。ちょうどルナダガーの前方を進んでいた屠龍戦闘艦が、Uターンして戻り始めたのだ。ちなみに、屠龍猟兵がモンスター狩りに使う戦闘艦は屠龍戦闘艦と呼ばれている。


「レギナ、あの三隻が誰か分かりましゅか?」

 サリオが尋ねた。

「一隻だけなら知っている。一番大きな船がランクCのドルガッタの船だ。あの船はフリゲート艦並みの戦力を持っているはずだ」


「なるほど。一隻だけでフリゲート艦相当の戦力を持つのであれば、他の二隻と協力して、砲撃シャークを倒せるのでしゅ」


 その三隻は全長が六十メートルと八十メートル、百五十メートルほどの小型戦闘艦である。彼らは協力して砲撃シャークを倒すつもりのようだ。


 近付いて来る三隻の屠龍戦闘艦に気付いた砲撃シャークは、スピードを上げた。そして、三隻の屠龍戦闘艦に急接近すると、砲撃ノズルを屠龍戦闘艦に向かって伸ばす。


「あの三隻は、バリアがあるんだろうか?」

 私は砲撃シャークを倒しに行った屠龍戦闘艦を見ながら、サリオに尋ねた。その直後、三隻の屠龍戦闘艦が慌てたようにスピードを落として軌道を変更し、回避しようとする。


「スピードを落としたら、ダメでしゅ」

 モニター越しに三隻の動きを見ていたサリオが、珍しく大きな声を上げた。スピードを落とせば、屠龍戦闘艦の砲撃も正確になるが、砲撃シャークも狙いやすくなると判断したらしい。


 スピードを落とした屠龍戦闘艦に接近した砲撃シャークが、三隻の屠龍戦闘艦へ砲撃ノズルを向けてプラズマガスを噴射した。


 ビームのように見えるプラズマガスが三隻の屠龍戦闘艦に命中し、盛大な火花を散らす。小さい二隻はバリアがなかったようで、船体を貫通されて爆発。百五十メートルの屠龍戦闘艦はバリアで防いだ。


 生き残った屠龍戦闘艦がプラズマ砲弾を放った。そのプラズマ砲弾が砲撃シャークの頭に命中し、一部を削り取って後方に消える。


「おっ、これなら倒せるんじゃないか?」

 レギナは一撃で砲撃シャークにダメージを負わせたドルガッタの屠龍戦闘艦に期待しているようだ。私も期待した。砲撃シャークを放置したら、惑星ボランが大変な事になると予測できたからだ。


 砲撃シャークと屠龍戦闘艦が行き違い。屠龍戦闘艦はUターンし、直進する砲撃シャークの後を追い始めた。そのUターンの最中も攻撃を続けている。


 Uターンを完了した屠龍戦闘艦がプラズマ砲弾を発射。砲撃シャークは応戦するために砲撃ノズルを後方の屠龍戦闘艦に向けてプラズマガスを噴き出す。


 重力や大気のない宇宙空間では、プラズマガスは熱線ビームのように遠くまで届く。但し、一定距離をすぎると拡散して消えるようだ。


 両者はプラズマ砲弾とプラズマガスを激しく撃ち合い、少しずつダメージを蓄積していく。屠龍戦闘艦はバリアを展開する装置がオーバーヒートを起こしているようで、時々バリアが揺らぐようになっている。


 一方の砲撃シャークは身体のあちこちに被弾して肉片が飛び散り、体液が漏れ出ている。そして、決着する時が来た。砲撃シャークが撃ち出したプラズマガスが屠龍戦闘艦のバリアを突き破り、船体に大きな穴を開けたのである。


 被弾した屠龍戦闘艦は、倒すのを諦めて逃げ出した。その逃げ出した方向が問題だった。斜め前方で見守っていたルナダガーの方向へ飛翔を始めたのだ。


「あの屠龍戦闘艦、何でこっちに来るんだ?」

「この先に跳躍リングがあるからでしゅ。跳躍リングを使って遷時空シュペーシュに逃げ込むつもりなのでしゅ」


「逃げ切れそうか?」

「ダメだろうな。スピードは砲撃シャークの方が上だ」

 私の質問にレギナが答えてくれた。それは正解だった。追い付いた砲撃シャークが、屠龍戦闘艦のエンジンをプラズマガスで撃ち抜き、破壊してしまったのだ。


 その屠龍戦闘艦は何度か爆発して宇宙空間を漂い始めた。砲撃シャークは接近して砲撃ノズルを屠龍戦闘艦に巻き付けると、真っ二つにした。それを見たレギナが大きく肩を落とす。


 屠龍戦闘艦を破壊した砲撃シャークは、惑星ボランへ戻らなかった。

「あいつ、こちらに向かって来てないか?」

 私が声を上げると、レギナが頷いた。ルナダガーに気付いた砲撃シャークが、敵認定して追って来たようだ。


 私は急いで戦闘ルームへ向かった。

「ゼン、全力で攻撃してから逃げるんだ」

 通信機からレギナの声が聞こえた。

「了解」


 私は制御可能な限界ギリギリの天震力を強化粒子弾に注ぎ込んで、砲撃シャークに向けて放った。強化粒子弾はマッハ12のスピードで飛んで、砲撃シャークに命中して爆発。その攻撃は砲撃シャークの口に命中し、その部分の皮膚をボロボロにする。だが、傷は深くないようだ。


「ダメか」

 戦術魔導技では倒せないと判断した私は、翔撃ダガーを取り出した。その翔撃ダガーを戦闘ルームの外に出すと、開放レベル1で天震力を注ぎ込む。そして、砲撃シャークに向けて撃ち出した。


 翔撃ダガーは威力があるのだが、欠点が一つある。一度的を外すと、戻って来るのに時間が掛かるという点だ。私は慎重に翔撃ダガーを制御し、正確に砲撃シャークに命中するように軌道を微調整した。


 光に包まれた翔撃ダガーは一瞬で長距離を飛翔し、砲撃シャークを貫通した。それでも砲撃シャークは死ななかった。だが、大きなダメージを負ったらしく、スピードがガクリと落ちた。


「仕留めるチャンスだ。船のスピードを落として接近しよう」

 レギナの提案に全員が賛成した。ルナダガーのスピードを落とし、戻って来た翔撃ダガーにもう一度天震力を注ぎ込んで砲撃シャークを攻撃する。


「もう一回だ!」

「やるのでしゅ!」

 レギナとサリオが興奮している。私が翔撃ダガーによる攻撃を三回繰り返すと砲撃シャークが動かなくなった。


 砲撃シャークの攻撃を受ける前に倒せたのでホッとした。砲撃シャークが大きなダメージを負っていなかったら、こういう結果にはならなかったかもしれない。


 戦闘ルームから操縦室に戻ると、子供たちやレギナ、サリオが大喜びしていた。

「ゼンはしゅごいでしゅ」

 ソニャが飛び跳ねるように喜んでいる。そして、サシャとラドルもキラキラした目で私を見ていた。レギナは私をハグすると振り回して感謝を伝えた。


 喜んでいるのはサリオたちだけではなく、屠龍猟兵ギルドの者や同じ屠龍猟兵たちも喜んでくれたようで、感謝の声が通信機から聞こえてきた。


 惑星ボランに戻ると大歓迎された。こうして我々は惑星ボランの危機を防いだ救世主となった。特に砲撃シャークを仕留めた私は、英雄扱いされて困惑した。


 そのニュースは惑星中に広がり、ゼンという名前が人々の記憶に刻まれた。そして、この功績でランクCに戻り、賞金の五百億クレビットを手に入れた。もちろん砲撃シャークの死骸も換金する事になる。


 これから先、この資金を基にもっと様々な星で活動する事になるだろう。


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