第49話 ナインリングワールド

 小型プラズマエンジンを製造する会社を設立する事になったが、惑星ボランでは人口が少なすぎて商売にならない。そこで人口の多い場所に移動し、会社を設立しようと決まった。


 その場所というのがナインリングワールドである。ここには数百億という知的生命体が数百のスペースコロニーで生活しており、そのために数百万隻の航宙船が存在すると言われている。小型プラズマエンジンの需要はあるのだ。


 私とサリオ、レギナは話し合い、ナインリングワールドへ行く事にした。その距離はおよそ四十六光年で、ルナダガーなら七日ほどで到着する。但し、ナインリングワールドの外縁部から目的のスペースコロニーへ行くのに掛かる時間は、計算に入っていない。


 ここでもう少し資金稼ぎをしてからという話も出たが、現在の惑星ボランは混乱の中にある。惑星全体に避難命令が出たので、多くの人々が他の星へ逃げ出したのだ。それは屠龍猟兵ギルドの職員も含まれており、元の状態に戻るには時間が掛かるだろう。


 レギナもナインリングワールド行きに賛成した。ルナダガーを動かすだけなら私とサリオだけで十分だったが、戦闘を行うとなるともう一人必要である。レギナを仲間にできたのは幸いだった。


 三人は家族と一緒にルナダガーに乗り込んでナインリングワールドへ向かった。ソニャやサシャ、ラドルの子供たちは、船の中を探検したり、船に積み込んだ膨大な映像ライブラリーを見て船内生活を楽しんだ。


 私は部屋で『初級龍珠工学』の研究をしていた。資金を稼ごうとしているサリオを手伝う事ができないかと考えたのだ。


 研究に疲れて船のリビングに行くと、レギナが子供たちと遊んでいた。

「お姉ちゃん、お腹空いた」

 弟のラドルが声を上げたので、レギナが笑う。

「食事の時間は、もう少し後だぞ。我慢するんだ」


 リビングは人工重力があるので、地上と同じように駆け回った子供たちはお腹が空いたようだ。宇宙では基本的におやつの時間というのはない。但し、スイーツは存在する。


 クーシー族やミクストキャット族は、ヒューマン族とほとんど同じものを食べられる。だが、ネギ類やナッツ類はダメらしい。地球の猫や犬は、カフェインやアルコールもダメだが、サリオやレギナは普通に飲んでいる。


 このルナダガーには、大量の食料がクーシー族用、ミクストキャット族用、ヒューマン族用に分けて貯蔵されている。ほとんどは冷凍食品なのだが、小麦粉や調味料などもあるので自炊する事もできた。


 私が食べたくなってお好み焼きみたいなものを作った事があったが、それをレギナやサリオたちも食べて好評だった。もちろん素材を吟味して、サリオたちに有害なものは除外している。


 遷時空スペースから通常空間に出ると、アミラタール星系だった。ここがナインリングワールドである。光学装置で観察すると、外縁部近くには三個の大きなガス惑星が見えた。そして、その内側には九つの小惑星帯が存在した。


 その小惑星帯はアミラタール星を中心とした九重のリング状に配置されている。配置されていると思ったのは、それが人工的に配置されたように見えたからだ。


「この小惑星帯は、不自然じゃないか。小惑星の密度が異常なほど高いみたいだ」

 思わず疑問を口にすると、サリオが頷く。

「アウレバス天神族が、岩石惑星を破壊してリング状にばら撒いたそうでしゅ」


「何のために?」

「実験用の宇宙モンスターの棲み家を造るためでしゅ」

 溜息が漏れた。

「規模がデカすぎて、信じられない」

「天神族がやった事でしゅ。信じるしかないのでしゅ。……建設されたコロニーも、最初は研究施設だったのでしゅが、天神族の眷属が大勢住み着くようになって、規模が膨らんだそうでしゅ」


 現在では研究施設は放棄され、純粋なスペースコロニーとして活用されている。またそれらのスペースコロニーは小惑星の資源を採掘して発展しているという。


 スペースコロニーの規模は内側の小惑星帯へ行くほど大きくなっていた。一番内側の第一小惑星帯に存在するスペースコロニーが五十億人規模、第九小惑星帯のスペースコロニーが三十万人規模という具合である。逆にスペースコロニーの数は、第九小惑星帯が一番多く、第一小惑星帯のスペースコロニーは少ない。


 我々の目標は、第八小惑星帯にあるモリスコロニー群である。コロニー群とは、数個から三十個ほどのスペースコロニーの集まりである。


 そのコロニー群はヒューマン族やオーク族のスペースコロニーが多く存在し、その中のヒューマン族のスペースコロニーであるラルクコロニーに向かっていた。


 ラルクコロニーは五百万人規模のスペースコロニーで、文明レベルDのラルク星人が管理している。ちなみに、そのスペースコロニーの所有者が個人である場合、君主という意味の『ロード』と呼ばれるようだ。


 今回の目的地であるラルクコロニーは、ラルク星人の企業が所有者なのでロードは存在しない。そして、この企業というのが様々な事業を展開しており、その中には不動産事業もあった。


 その目的地に移動する途中、何匹もの宇宙クラゲや凶牙ボールと遭遇した。凶牙ボールというのは四メートルほどのダンゴムシのようなモンスターで、鋭い牙で噛み付いて攻撃する。


 どちらも近付かせない事が肝心なので、火器管制担当のレギナが遠距離でレーザーを放って仕留めた。


 ラルクコロニーはトーラス型と呼ばれるドーナツのような形をしており、それが回転する事で人工重力を発生させている。その中心部に軸となる構造物が存在し、そこには宇宙港と工場区画があった。その宇宙港にルナダガーを停泊させる。


「ここのコロニーで生活するのか?」

 私はサリオに尋ねた。

「残念でしゅが、居住権を持たない者は、コロニーの居住区画には入れません。なので、工場区画かルナダガーで生活する事になりましゅ」


 工場区画と言っても惑星上のものとは違い、大小様々な無重力の部屋があるだけだという。サリオは工場区画を管理している企業に連絡し、工場を一部屋借りる契約をした。そして、エンジンの製造に必要になる機械や部品、材料を購入する。同時に新会社の設立と登記も行った。


 その間、我々はルナダガーで生活した。製造機械の設置や他の準備は、五十体の整備ロボットに任せた。


「サリオ。製造するエンジンが優秀なものだと、他のエンジンメーカーが真似るという事はないのか?」

「それは大丈夫でしゅ。特許を申請しましゅから」

「でも、ゴブリン族のようなやつの手に渡ると、無断でコピーされるんじゃないか?」


 それを聞いたサリオが真剣な顔で悩み始めた。

「そうでしゅね。あいつらなら、勝手に分解してコピーしそうでしゅ」

 サリオと話し合って中核部分をブラックボックス化する事にした。下手に分解すると、ブラックボックスごと消滅する仕組みにする。


 そのせいで設計変更が必要になったが、それは必要な作業だった。そして、一ヶ月ほどで無人工場が完成した。労働者は整備ロボットだけという安上がりな工場だ。最初に製造したエンジンは徹底的にテストし、問題点を洗い出して改良し、完成させた。


 その小型プラズマエンジンは、サリオが自慢できる製品となった。最初は売れなかったが、ある輸送会社が採用して燃費効率の良さが証明されると、少しずつ売れ始めた。我々は新しい事業に成功したのだ。


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