第202話 装甲クラーケンvsカズサ

 装甲クラーケンの長い足が、ベルーガの屠龍戦闘艦ソコル号を叩いた。その硬い足は屠龍戦闘艦のバリアを破り、その外板を削り取った。その時、ソコル号からミサイルが発射され、装甲クラーケンの胴体に命中して爆発。その衝撃で、装甲クラーケンがソコル号から離れた。


「ゼン、ベルーガが危ない」

 レギナが声を上げた。そう言われても、カズサが攻撃できるようになるまで後十五分ほど必要だ。


「ミャント軍、何をしている。攻撃しろ!」

 通信機からベルーガの声が聞こえてきた。どうする? このままではベルーガとミャント軍が全滅する。

「マスター、どうするの?」

 スクルドが質問してきた。私は五秒ほど迷ったが、通信機のスイッチを入れた。


「ミャント軍と屠龍猟兵に告げる。私は屠龍戦闘艦カズサのゼンだ。装甲クラーケンは我々が仕留める。ミャント軍とベルーガ殿は、カズサに向って装甲クラーケンをおびき寄せてくれ」


「ミャント軍のバリサスです。本当に装甲クラーケンを仕留められるのですか?」

「命中すれば、大丈夫です」

「了解しました。ミャント軍はゼン殿の作戦に従います」


「待て。どうしてカズサの主砲が、装甲クラーケンを仕留められると分かった?」

 ベルーガが確認してきた。

「ミャント軍とベルーガ殿が、装甲クラーケンと戦っているのを分析した結果よ」

 スクルドが代わって答えてくれた。


「そうか、分かった」

 ベルーガも渋々認めて協力する事にしたようだ。

「艦首砲管制室へ行く。狙いやすい位置に移動してくれ」

「了解した」

 レギナが操縦桿を握りながら答えた。


 私は艦首砲管制室へ行って艦首砲を起動した。ミャント軍は忠実に自分たちの役割を果たしている。荷電粒子砲で装甲クラーケンを攻撃しながら、こちらに向かって飛んできている。


 一方、ベルーガは攻撃をせずに装甲クラーケンの脇に回り込もうとしていた。余計な事をしなくても良いのに、と思いながら見ていた。


「艦首砲の射程に入りました」

 カズサの制御脳が報告した。サポート装置と繋がった私は、膨大な天震力の一部をレーザー光に変換すると同時に、残りの天震力を離震軸に沿って振動するエネルギーに変換し、レーザー光に乗せて撃ち出した。


 紫色に輝く離震レーザーが宇宙を斬り裂いて進み、装甲クラーケンの胴体に突き刺さる。その瞬間、装甲クラーケンの皮が離震レーザーの効果で分解され、その一部が熱と光のエネルギーに変換されて爆発した。


 爆発の衝撃で、装甲クラーケンの巨体が後方に弾かれる。

「一撃では無理だったか」

 艦首砲管制室から見ていた私は、装甲クラーケンの胴体に大きな穴が開いたが、仕留められなかったのを確認した。


 大きなダメージを与えたのは確実だが、胴体部分だと即死するような弱点がないので死なない。ただ時間が経てば、衰弱して死ぬかもしれない。いや、その考えは甘いだろう。モンスターの自己治癒能力は凄まじいというのが相場だ。


「ゼン、胴体ではなく頭を狙って」

 レギナからのアドバイスだった。どこから頭なんだろう? 巨大なタコのような装甲クラーケンは、頭と胴体の区別がはっきりしない。そこで目を狙う事にした。


 目を狙って放った離震レーザーが、装甲クラーケンの胴体と頭の境目くらいに命中した。そこで爆発が起き、血や肉が宇宙に飛び散る。脳の一部にダメージを受けた装甲クラーケンは、のた打ち回り始めた。


 それを目にしたミャント軍とベルーガが攻撃する。多数のプラズマ弾が装甲クラーケンに命中して爆発。そのほとんどは装甲クラーケンの分厚い皮に命中してプラズマを飛び散らせるだけだったが、中にはカズサの離震レーザーが開けた穴に命中してダメージを与えたものもあった。


「馬鹿な! ベルーガが装甲クラーケンに近付いていく」

 レギナが驚いたように声を上げた。メインモニターにベルーガのソコル号を映し出すと、装甲クラーケンに向かって突き進んでいた。


「あいつ、自殺するつもりなのか?」

 私が声を上げた時、ソコル号に気付いた装甲クラーケンがそちらに向かい始めた。

「こいつは、俺の獲物だ。誰にも渡さん」

 通信機からベルーガの声が聞こえてきた。どうやら興奮して感情の制御ができなくなっている感じだ。その屠龍戦闘艦であるソコル号には、大きな傷痕ができている。明らかに無理をしている。


「マスター。ベルーガより先に、装甲クラーケンにトドメを刺せないの?」

 スクルドの声が聞こえた。

「ベルーガのソコル号が邪魔だ」


「マスター、撃っちゃえ」

 スクルドが悪魔のようにささやいた。スクルドのやつ。

「そういう冗談はやめろ。本当に撃ちたくなるだろ」

 それを聞いたレギナの笑い声が聞こえてきた。


 ソコル号が至近距離から三十光径荷電粒子砲を撃ち込んだ。それが装甲クラーケンの目玉に命中して爆発。致命傷かと思われたが、装甲クラーケンは死なずにソコル号に反撃した。


 ソコル号は装甲クラーケンの足に絡め取られた。

「……ああっ」

 レギナは装甲クラーケンに抱きかかえられているソコル号を見て、溜息を漏らした。

「益々攻撃できなくなったようね」


 その時、通信機からベルーガの声が響いた。

「ベルーガだ。俺の事は構わずにソコル号ごと撃て」

 思わず顔をしかめた。

「そう言われると、尚更なおさら撃ちにくくなるじゃないか」


「どうするの?」

「このままじゃ、ベルーガも死ぬ。撃つしかない」


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