第203話 装甲クラーケンvsカズサ(2)

「もう一度言う。俺ごと撃て!」

 通信機からベルーガの声が聞こえてきた。まだ言っているのか。その時、ミャント軍のバリサスの声が通信機から聞こえてきた。


「ベルーガ殿、あなたの覚悟を受け取りました。ミャント軍は総攻撃を行います」

「えっ」

 通信機からベルーガの驚いたような声が聞こえたが、空耳だろう。


「撃て!」

 ミャント軍の駆逐艦が荷電粒子砲を一斉砲撃する。これにはびっくりした。

「……ミャント軍は、ベルーガの言葉を信じて撃った? それとも装甲クラーケンを倒すために必要なら、屠龍猟兵くらい犠牲になってもいいという事か?」


「両方じゃないの。きっと惑星ミャントにベルーガの大きな銅像が建てられるわよ」

 スクルドがそう言った瞬間、プラズマ弾が装甲クラーケンとベルーガのソコル号に着弾した。連続で爆発が起こり、ソコル号から脱出ポッドが発射される。


「そりゃそうだ。船と一緒に爆発する必要はないからな」

「ミャント軍の狙いが甘いから、ベルーガに逃げられるのよ」

 スクルドが残念そうに言う。

「おい、それは酷いと思うぞ」

「ベルーガの行動は作戦の邪魔よ。一旦我々に協力すると約束したのに、勝手な行動を取って、装甲クラーケンに捕まったのよ。しかも『自分ごと撃て』とか態とらしい事を言い出したわ」


 スクルドは、ベルーガの自分勝手な行動が気に食わなかったようだ。自我が目覚めているのは確実だな。それに感情が豊かになっている。


「ゼン、ベルーガの事は置いといて、今は装甲クラーケンに集中しないと」

 レギナがもっともな意見を言う。

「了解。装甲クラーケンにトドメを刺すぞ」

 レギナが最適な位置にカズサを移動させ、私は艦首砲の狙いを装甲クラーケンの頭に向けた。


 装甲クラーケンはミャント軍の攻撃でダメージを受けていた。大量の体液が流れ出たので、動きも弱々しくなっている。装甲クラーケンの目と目の間に狙いを付けて離震レーザーを発射した。


 紫色に輝く離震レーザーが装甲クラーケンの眼球に突き刺さり、その眼球を蒸発させると奥にある脳に命中して爆発した。


 装甲クラーケンはピクピクと痙攣していたが、ついに動かなくなった。ミャント軍がプラズマ弾を命中させても動かない。


「装甲クラーケンを仕留めたようです。ありがとうございます」

 ミャント軍の総指揮官であるバリサスが連絡してきた。メインモニターにワーキャット族の将軍が映し出される。


「後は宇宙クラゲだけですね。どうしますか?」

「それは我々で駆逐できると思います。カズサの皆さんは、装甲クラーケンの運搬うんぱんをお願いできにゃいでしょうか?」


「了解した。ところで、ベルーガは生きているのですか?」

 バリサスの顔が微妙に歪んだ。

「生きているようです。救助信号をキャッチしました」

「救助に向かわせたのですか?」

「ええ、補給艦を救助に向かわせました」


「チッ」

 スクルドが舌打ちしたような音を出した。舌のないアンドロイドなので、舌打ちできないはずなのだが。まあいい、それより装甲クラーケンの龍珠を回収しないと。


 通信を切った後、我々は装甲クラーケンのところに飛んだ。そして、解体ロボットを出して龍珠の回収を命じた。


「マスター、装甲クラーケンの龍珠は何に加工されるの?」

 スクルドが質問してきた。

「あの龍珠から、高性能な重力レーダーが作れるそうだ」

「カズサの統合探査システムが、今以上に高性能になるという事ね。でも、ミャント軍は龍珠を我々が手に入れても文句を言わないかしら?」


「我々に装甲クラーケンの死骸を任せたという事は、仕留めた者の権利を行使していいという事じゃないか」

 仕留めた者の権利というのは、屠龍猟兵の古いルールである。それは仕留めた者はモンスターの好きな部位を手に入れる権利を持つというものだ。


 しかし、このルールは古いものなので、今では使われていない。ただ仕留めた者が価値がある龍珠を欲しいと要求した場合、それを認めなければならないと思っている者は多かった。


 装甲クラーケンは大きすぎてカズサが搭載している大容量異層ストレージにも入らなかったので、カズサが曳航えいこうして運んだ。我々がもう少しで惑星ミャントに達するという宙域まで来た頃、宇宙クラゲの駆逐作戦が終了した。


 装甲クラーケンの解体は屠龍猟兵ギルドが行うというので、死骸はギルドの船に渡して龍珠だけ持って惑星ミャントに降りた。


 すぐに子供たちの居るホテルへ行く。

「じぇん、すごかった」

 パムが嬉しそうな顔で走ってきてピョンと抱きついてきた。私はパムを抱き上げて質問した。

「何が凄かったんだい?」


「くらーけんと戦ってた」

 我々が装甲クラーケンと戦っていた様子が、ネットニュースとして流れたようだ。それを子供たちが見たらしい。


 ラドルとサシャは興奮してレギナに話している。レギナは嬉しそうに聞いていた。

「サリオ、留守中に何か問題はなかったか?」

「地上は平和でしゅ」

「そうか。良かった」

 疲れていたので、その日は子供たちとゆっくり過ごした。


 その翌日、屠龍猟兵ギルドへ行くと、すぐに支部長室に案内された。

「宇宙クラゲと装甲クラーケンの件は、ありがとうございました」

 ユベル支部長が礼を言った。


「屠龍猟兵として、当たり前の事をしただけです」

「最初にゼン殿の事を調べておけば良かった、と反省しているのです」

 ギルドは我々の事をナインリングワールドの屠龍猟兵ギルドに問い合わせたようだ。


「ところで、今回の件の報酬ですが、金ではなく装甲クラーケンの龍珠を欲しいのです」

 それを聞いたユベル支部長は、納得したように頷いた。

「当然の要求だと思います。それだけでよろしいのですか?」


「我々は龍珠だけで構いません。今回の戦いでは、ミャント軍に大勢の死傷者が出たようですから、死者の遺族と負傷者に使ってください」


 今回の戦いでは駆逐艦がロストして大勢のワーキャット族が死んでいる。それを分かっているので、欲張る気にはなれなかった。


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