第204話 チルタ砂漠

 装甲クラーケンを倒した後、惑星ミャントで視察を続けた。その間に何度か屠龍猟兵ギルドに行き、そこでベルーガの事が耳に入った。


「ゼン、ベルーガなんだけど、ソコル号にトドメを刺したミャント軍に賠償金を請求したそうよ」

 レギナから聞いて顔をしかめた。

「やっぱり撃たなくて正解だったな」

 それを聞いたレギナが、苦笑いする。


「でも、あの時『俺の事は構わずにソコル号ごと撃て』と言っていたのに」

「ワータイガー族は、その時の感情に行動が左右されるみたいだから、行動や言っている事に一貫性がないんだ」


 レギナは納得できないという顔だ。

「ソコル号は、装甲クラーケンの攻撃で半分くらい壊されていたのよ」

 これからミャント軍とベルーガの間で、長い交渉が始まるのだろう。関わりたくないものだ。


「スクルドの悪魔のささやき。あれは本当に悪魔のような言葉だったんだな」

 そんな事を話してから、ギルドにある屠龍猟兵だけがアクセスできる情報を検索した。この情報はギルドの内部資料になるので、オンラインで検索できない。ギルド支部へ足を運んで、ギルドの端末で検索しなければならないルールになっている。


「ん? これは何?」

 レギナが変な声を上げた。

「何か見付けたのか?」

「このクルフェタ星系には、モール天神族の遺跡があるみたい」


 天神族は宇宙のあちこちに遺跡を残している。歴史が長いので、そういう遺跡が存在するのは当然の事なのだが、天神族の場合は意味の分からない遺跡が多い。たぶん我々が理解できないだけで、天神族には明確な理由があったはずだ。


 私は席を立ってレギナの傍に来た。

「どんな遺跡なんだ?」

「恒星の近くに存在する丸い構造物で、恒星の周りを高速で回っているだけなの」

「また天神族の謎か。ワーキャット族が調査したはずだけど」


「ええ。調査したけど、中に入れなかったみたい」

 その構造物は直径三百キロほどの巨大な構造物らしい。まず恒星の近くにあるのが問題だった。一つ間違うと恒星に引き寄せられて焼かれる可能性があり、それが大きなリスクとなっている。


 ワーキャット族が撮影した映像があったので、それを見た。構造物は完全な球体であり、継ぎ目が一つもなかった。


「何もヒントがないな」

 私とレギナは、構造物の正体を突き止めるためのヒントを探した。

「おっ、同じような球体が惑星ミャントにもあるぞ」

 この惑星のチルタ砂漠にドーム状の遺跡が発見されているが、この遺跡も継ぎ目がない構造をしているらしい。カムラン遺跡という名前だった。


 その映像もあったので、調べてみる。地上の遺跡は直径が二百メートルほどであり、サイズが違った。だが、サイズ以外はそっくりだった。


「ちょっと待って。このドーム状の遺跡の天辺てっぺんに、何かある」

 レギナが声を上げて端末を操作する。天辺部分だけ拡大すると、十字架のようなものが突き刺さっていた。この映像は遠くから撮影したものなので、詳しく調べる事はできなかった。


 この遺跡がある砂漠には戦争サンドワームというモンスターが巣食っているので、遺跡に近付くのは容易ではないらしい。


「一度調査したいな」

 そこでチルタ砂漠と戦争サンドワームについて調べた。チルタ砂漠は五時間に一回砂嵐が発生するという厄介な砂漠だった。しかも気温が七十度ほどになるという。


「軍が開発した強化アーマーなら、問題ないようね」

 強化アーマーというのは、デルトコロニー軍が開発したMM型機動甲冑の一種で、以前に惑星ボランで狩りをした時にレギナが使っている。その強化アーマーは燃え盛る炎の中でも行動できるという性能を持っていた。


 私とレギナは、ホテルに戻ってサリオとスクルドに相談した。結果、サリオとスクルドは行かないそうなので、二人だけで行く事になった。


「スクルドは、何で行かないんだ?」

「そんなほこりっぽいところには、行きたくないからよ」

「強化アーマーを着装して行くんだから、埃は問題にならないと思うけど」


「私は家事支援ロボットですから、子供たちの世話をしながら留守番しています」

 スクルドが家事支援ロボットだという事を忘れていた。


 準備を終えてカズサに搭載している連絡艇を使ってチルタ砂漠まで向かう。この連絡艇は九人乗りで航続距離が長いという特徴があった。


 翌日の早朝に連絡艇で出発した我々は、昼頃にチルタ砂漠に着陸した。連絡艇は異層ブレスレットに収納できる大きさではないので、カムフラージュ装置を起動して見付からないようにする。


 着陸した地点から遺跡まで五十キロほどあるが、戦争サンドワームに攻撃される危険があるので、飛んでいかない。ここからは昔使った事がある並輪バイクを使う。


 この並輪バイクなら戦争サンドワームも気付かないと思われる。戦争サンドワームは、全長十八メートルほどで、頭はカバに似ており、胴体は巨大ミミズというモンスターだった。こいつの武器は口から吐き出すプラズマ弾で、八光径荷電粒子砲と同程度の威力があった。


「行こうか」

 強化アーマーを着装した我々は、並輪バイクに乗って静かに進む。外気温は六十五度だった。強化アーマーがなければ耐えられない温度だ。


 並輪バイクのスピードは時速三十キロほどに抑えている。それ以上のスピードになると、駆動音が大きくなるからだ。


 戦争サンドワームに見付からないように進んでいたのだが、砂の下に潜っていた戦争サンドワームの上を通過してしまう。その瞬間、戦争サンドワームが砂の中から飛び出してきた。


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