第205話 制御施設

 レギナと私が着装している強化アーマーは、普段の二十倍ほどのパワーを発揮できる機能を持っている。そのパワーを使って二人とも跳び下がった。


「ゼン、気を付けて」

 そう言ったレギナが大刀型ディコムソードを取り出して構えた。ディコムソードの刃には、分解力場を発生させる機能があり、その力で鋼鉄さえ切り裂く威力を持っていた。


「はあっ!」

 レギナはディコムソードを戦争サンドワームの頭に振り下ろす。その一撃で戦争サンドワームの頭が真っ二つになって死んだ。


「あれっ、戦争サンドワームはもっと手強いと思っていたのに。ワーキャット族は騒ぎすぎよ」

「一匹一匹は大した事がないけど、すぐに群れて攻撃してくるからだと思う」


 レギナがパッとこちらに視線を向けた。

「まさか?」

「数十匹が、砂の中から地上に出てきた」

「どうするの?」

「こうなったら全力で迎え撃つか、逃げるしかない」

「ここまで来て逃げるのは、面白くない」


 そう言ったレギナは、異層ペンダントから軍用ホバーバイクを取り出した。これは二人乗り用で座席が二つあり、腰をシートベルトが固定するような仕組みになっていた。


「強行突破するなら、これが使えるんじゃない」

「でも、戦争サンドワームのプラズマ弾はどうする?」

「ゼンの魔導装甲がある」

 納得した私が賛成すると、レギナが軍用ホバーバイクの操縦席に乗った。続いて後ろの席に乗る。その瞬間、自動的にシートベルトが伸びて腰が固定された。


 レギナが軍用ホバーバイクを浮上させると、その周りに魔導装甲を展開した。この魔導装甲も日々改良が進んで強力になっている。戦争サンドワームのプラズマ弾くらいなら問題なく受け止められるほどの強度があった。


 軍用ホバーバイクが飛び始めると、すぐに戦争サンドワームが反応した。一斉にプラズマ弾で攻撃を始めたのだ。砂漠を這い回る戦争サンドワームの口からオレンジ色のプラズマ弾が吐き出され、それが軍用ホバーバイクに向かって飛んでくる。


 そのスピードは思っていたほど速くはなく、ほとんどはレギナの操縦で回避できた。ただ一割くらいの割合で、展開している魔導装甲に命中するものもあった。


 命中したプラズマ弾は魔導装甲の表面で砕け散り、爆発音を響かせる。

「この五月蝿いのは、何とかならないの?」

「魔導装甲で空気も遮断すれば、消えると思う。但し、その分の空気抵抗が魔導装甲に掛かる」


「仕方ない。強化アーマーの防音機能のレベルを上げるしかないわね」

 防音機能を上げると我慢できるほどの音になった。それから最短ルートを飛んで、カムラン遺跡に到着する。その遺跡の周りには戦争サンドワームの大きな群れが存在した。


 ドーム状の遺跡の上に着陸して降りると、レギナは軍用ホバーバイクを仕舞った。

「うわっ、この数は異常だ」

 遺跡の周りを取り囲んでいる戦争サンドワームの群れを見て思わず声が出た。まるで砂糖にたかる蟻の群れのようだった。


 その戦争サンドワームたちが、我々に気付いて一斉にプラズマ弾を放った。こいつらは遺跡を守っている存在ではないようだ。プラズマ弾が遺跡に命中して次々に爆発する。


「数が多すぎる。どうする?」

 レギナが顔を強張らせて尋ねた。プラズマ弾は魔導装甲で防げているのだが、安心できる状況ではなかった。


「魔導装甲で守っている間に、天辺にある十字架を調べてくれ」

「了解」

 レギナが十字架を調べ始めた。もちろん十字架と呼んでいるものには、地球の十字架のように宗教的な意味合いはない。


 十字架を調べている間に、戦争サンドワームたちが遺跡の壁を登り始めた。この遺跡の壁はザラザラしているので、戦争サンドワームでも登れるようだ。ヤバイ。


 その時、レギナの声が聞こえた。

「ゼン、十字架がエネルギーを吸収しているみたい」

「どうして分かった?」

「触ったら、身体から何かが吸収されるのを感じたの」


 レギナの様子から、その吸収力は大した事がないと判断した。そして、確かめるために手を伸ばして十字架を触る。すると、身体から天震力がごっそりと奪われた。そのために魔導装甲が維持できなくなって解除される。


「そんな……ヤバイ」

 その瞬間、私とレギナが金色の光に包まれ、同時に意識がなくなった。


 次に気が付いた時、私はレギナを抱きかかえるようにして倒れていた。最後の瞬間にレギナを守ろうとしたようだ。


「レギナ、起きてくれ」

 気を失っているレギナの身体を揺さぶる。

「ううっ」

 レギナが起き上がり、頭を振りながら問い掛けてきた。

「ここは、どこなの?」

 周りを見回すと、ドーム状の大きな部屋のようだ。天井にポツポツと光源があるので、真っ暗という事はない。ただ少し薄暗かった。


「遺跡の中じゃないか?」

 その時、頭の中に声が響いた。

【……ギジィジィ……侵入者……警告。降伏……抹殺す……】

「どういう意味だ? 自分たちでここに連れてきたのに、侵入者はないだろ」


 それから緊張しながら、警告された何かが現れるのを待った。だが、全く現れる気配がない。

「何も起きないな」


「この遺跡は古いものみたいだから、壊れているんじゃないの」

 私とレギナは遺跡の中を探索して回った。この遺跡は五階に分かれており、最上階であるドーム状になっている部屋だけはガランとしていたが、一階から四階にある部屋には様々な機械が設置されていた。


 但し、ほとんどの機械は止まっている。壊れているという感じではなく、エネルギー不足で停止していると推測できた。通路にはロボットだった残骸が散らばっており、メンテナンスもできなかったようだ。


 そんな遺跡の中で、唯一生きている機械があった。それが我々に警告してきた人工知能だ。異層ペンダントの中から分析用ロボットを取り出し、その人工知能が蓄えていた情報を取り出した。


 その結果、この遺跡は恒星の近くにある謎の構造物を制御する施設だったと判明した。

「それで、あの大きな構造物は、何だったの?」

 レギナが質問してきた。

「あれは、恒星のエネルギーを回収するプラントだったみたいだ」


 天然の核融合装置である恒星から、エネルギーを取り出すので、恒星の近くに設置されていたようだ。そのエネルギーを何に使おうとしていたのだろう?


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