第201話 装甲クラーケンとベルーガ

 動き出した装甲クラーケンは、屠龍猟兵の屠龍戦闘艦ではなく宇宙クラゲの群れを追い掛け始めた。腹が減っていたらしい。大きな口を開けて宇宙クラゲを呑み込んでいる。


「あいつ、腹が減っていたのか」

「そうみたいね」

 すぐに屠龍猟兵ギルドから指示が来ると思ったが、何も指示がなかった。どういう事だろう?


「レギナ、何で指示が来ないんだと思う?」

「装甲クラーケンは、宇宙クラゲを食べている。宇宙クラゲが減っているから、攻撃するのをためらっているのかもしれない」


 ギルドは効率的に宇宙クラゲと装甲クラーケンを駆逐しようと考えているのかもしれない。だが、装甲クラーケンは全力で倒さないとダメな相手だ。効率を考慮しながら倒せるようなモンスターではなかった。


 装甲クラーケンが宇宙クラゲを食べるのに夢中になっている今、攻撃するチャンスがあるかもしれない。それを逃さないためにも、攻撃する戦力を待機させるべきだと思うけど。


「ミャント軍と屠龍猟兵ギルドの中に、大型宇宙モンスターと戦った経験がある者が居ないようね。いっそマスターが指揮したら」


 私は肩を竦めた。

「ナインリングワールドで上げた、私の実績も知らないんだ。指揮権を預けるのなら、ワータイガー族のベルーガに預けるだろう」


 それを聞いたレギナが首を傾げた。

「それはどうかしら。ベルーガは、頭を使って戦うようなタイプに見えなかった」

 ベルーガの顔を思い出した。確かに知的な感じはなかった。ただワータイガー族なので顔で判断できないと思う。


「取り敢えず、装甲クラーケンの討伐を優先するように、ギルドへ進言してみよう」

 ギルドの支部長に連絡すると、検討してみようという事だった。


 それから宇宙クラゲを倒しながら指示が出るのを待っていると、満腹した装甲クラーケンが宇宙クラゲを倒している屠龍戦闘艦に近付き始めた。獲物を横取りしていると思ったのかもしれない。


「まずいな。あの屠龍戦闘艦が攻撃されるぞ」

 カズサのブリッジにあるメインモニターに映し出される屠龍戦闘艦を注目した。その屠龍戦闘艦から助けを求める緊急連絡が届いた。


「ゼン、ギルドから装甲クラーケン討伐の指揮を、ベルーガに任せるという指示が出ました」

 レギナが不満そうな顔で報告した。遅いと思っているのだろう。


「屠龍猟兵のベルーガだ。装甲クラーケン討伐の指揮は、俺が執る」

 ベルーガはミャント軍の駆逐艦に命令を出し始めた。

「何で、ベルーガはカズサに指示を出さないの?」

 レギナが首を傾げている。

「ベルーガは、我々を信用していない。という事だろう」


「そういう事なら、カズサの力を見せるしかないわね」

 スクルドがなぜかやる気になっている。

「ギルドから指示された宙域の宇宙クラゲは、ほとんど駆逐している。ここを離れても問題ないはずよ」


 レギナの意見は納得できるものだった。

「よし、装甲クラーケンが暴れている宙域に向かうぞ」

 レギナがカズサを操縦して装甲クラーケンへ向かわせた。メインモニターに装甲クラーケンの様子を映し出す。その周りにはミャント軍の駆逐艦が布陣しており、ベルーガの屠龍戦闘艦が装甲クラーケンに近付くチャンスをうかがっている。


「ベルーガの屠龍戦闘艦の主砲は、二門の三十光径荷電粒子砲のようね」

 スクルドがベルーガの屠龍戦闘艦を分析して報告した。

「三十光径荷電粒子砲で、装甲クラーケンの装甲を貫けるのだろうか?」

 私は気になった点を口にした。クラーケンの装甲は貫けても、装甲クラーケンの装甲は無理なのではないかと疑問を持ったのだ。


「どうなのかしら。装甲クラーケンの皮は、五メートルほどの厚みがあるそうよ」

 レギナが情報を調べて教えてくれた。装甲クラーケンは全長が四百メートルほどもあるモンスターだ。皮がそれだけの厚みであっても不思議ではない。


「駆逐艦が攻撃を始めたわ」

 スクルドが言う。装甲クラーケンの体表でいくつもの爆発が起きた。駆逐艦から発射されたプラズマ弾が、装甲クラーケンに命中して砕け散ったのである。


「ダメ、装甲のような皮でプラズマ弾が防がれている」

 レギナが唇を噛み締めて言う。駆逐艦が総攻撃している間、ベルーガの屠龍戦闘艦は装甲クラーケンの口が見える位置に移動していた。口を狙ってプラズマ弾を撃ち込むつもりのようだ。


 装甲クラーケンが駆逐艦に襲い掛かった。複数の足で駆逐艦を捉えると締め上げる。駆逐艦の船体にヒビが入り、それが大きくなって真っ二つになると爆発した。それを見た駆逐艦が離れ始める。


「逃げるな、撃ち続けろ! このままだと惑星ミャントが危ないぞ」

 ベルーガが脅すように命じた。すると、駆逐艦が覚悟を決めたように激しい砲撃を続け始める。


「嫌な戦い方だ」

 思った事が口から出た。それを聞いたレギナが頷く。

「でも、このやり方で装甲クラーケンを倒せば、ワーキャット族は、死んだ仲間やベルーガを英雄だと称えるわよ」


 そう言ったスクルドをチラリと見た。アンドロイドなので、顔からは何を考えているか分からない。

「攻撃できるようになるまで、どれくらい掛かる?」

「三十二ルプルです」

 カズサの制御脳が応えてくれた。ちなみに三十二ルプルは、およそ二十五分くらいである。


「ベルーガのソコル号が砲撃した」

 レギナが声を上げた。駆逐艦のものより大きなプラズマ弾が、装甲クラーケンの口に飛び込んだ。そして、内部で爆発する。


 装甲クラーケンが内部に傷を負ったようだ。口から大量の体液を吐き出した。それを見たベルーガは、プラズマ弾を次々に撃ち込む。但し、胴体を狙ったようだ。胴体に撃ち込まれたプラズマ弾は、その装甲を貫通する事ができなかった。


 ベルーガはもう一度を口を狙おうと移動する。そこに装甲クラーケンが襲い掛かった。


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