第200話 宇宙クラゲの駆逐作戦

「それでは簡単に参加するメンバーを紹介しよう。最初はランクBのベルーガ殿だ。彼はクラーケンを倒した実績がある」


 支部長の紹介で、他の五人の名前とランクが分かった。ランクBは、ワーキャット族の魔導師フォラン、ヒューマン族の武装機動甲冑使いバラク、それにクラーケンを倒したベルーガになる。ランクCは、ワーキャット族の魔導師ミーウァ、同じくワーキャット族の魔導師タタシアだった。


 ベルーガは武装機動甲冑使いだが、宇宙では屠龍戦闘艦ソコル号で宇宙モンスターを倒すらしい。他の屠龍猟兵も自分の屠龍戦闘艦を所有しており、装甲クラーケン狩りでは戦力になるようだ。


「装甲クラーケン狩りでは、ミャント国の軍も戦います。ですが、軍は大型宇宙モンスター狩りに慣れていません。主力は皆さんの屠龍戦闘艦ににゃるでしょう」


 ミャント軍の主力は駆逐艦二十六隻なので、今まで装甲クラーケンを相手にする事はなかった。このクラスの宇宙モンスターを相手にするには、最低でも巡洋艦に搭載されている荷電粒子砲並みの武器が必要なのだ。


 ちなみに、私とレギナはランクBの魔導師とランクCの武装機動甲冑使いとして紹介された。間違いではないが、屠龍戦闘艦カズサの戦力を紹介しないときちんとした作戦は立てられないと思うのだが。


「一つ確認しておきたいのですが、皆さんの屠龍戦闘艦の中で装甲クラーケンを仕留められる武器を搭載している船はありますか?」


「俺のソコル号なら、装甲クラーケンの装甲を貫通できる」

 巨漢のベルーガが胸を張って言う。

「あたしたちのカズサも、貫通できる」

 レギナが張り合うように言った。すると、バラクがニヤッと笑う。


「ムーラン宇宙港に停泊している船だろ。見たぜ。あの艦首砲は、三十光径荷電粒子砲並みの威力がある、という事なのか?」


 離震レーザー砲は三十光径荷電粒子砲以上の威力がある。

「そうだ」

 私が答えるとバラクがゆっくりと首を振った。

「見栄を張るな。あれはレーザー砲の類だろ。あの光径だと装甲クラーケンは無理だ」


「あれは普通のレーザー砲じゃない」

「もしかすると、クリムゾンレーザーか。それなら可能性はあるな」

 言い返そうとした時、支部長が止めた。

「そこまで、仲間にゃんだから言い争いはやめましょう」

 言い争っていたのではなく、情報交換していたのだが、支部長は言い争いだと思ったようだ。


 ワーキャット族は、戦闘向きの種族ではない。戦力を集めれば、装甲クラーケンも倒せると考えているふしがある。ただワーキャット族は事務能力が優れているので、ギルド職員などには向いている。


 我々はまず宇宙クラゲを駆逐する事になった。子供たちはサリオに任せ、レギナとスクルドと一緒にカズサで宇宙に出る。


今更いまさら、宇宙クラゲ退治なの?」

 スクルドは不満らしい。

「倒すのは宇宙クラゲだけど、数が多いからな。少しでも戦力が欲しいのだろう」


「それは理解するけど。宇宙クラゲだったら、戦闘艦ではなく戦闘機で十分なはずよ」

「デルトコロニーの戦闘機と一緒にするな。ここの戦闘機は航続距離が短いので、頻繁に推進剤を補給に戻らないとダメなんだ」


「ミャント軍も空母を所有しているけど、小型空母と中型空母だから、搭載機数も制限されるそうよ」

 軍の戦力を調べたレギナが教えてくれた。


 デルトコロニーの戦闘機は、全長二十二メートルの迎撃戦闘機ライジンだったが、新しく制宙戦闘機フウジンを開発している。このフウジンは全長三十一メートルと大型化していた。


 しかも推進システムが、小型垓力集積器と垓力推進エンジンの組み合わせに替わっているので、航続距離が桁違いに長くなっていた。


「数十年おきに宇宙クラゲの大量発生が起きているのだから、宇宙軍もそれに合わせて考えるべきなのよ」


「そうだな。スクルドの言う事にも、一理ある。だけど、装甲クラーケンも居るから、駆逐艦という中途半端な戦闘艦を建造する事になったのだろう」


 屠龍猟兵ギルドから宇宙クラゲの駆逐作戦を開始するという連絡があった。我々はカズサを指定された宙域に向ける。その宙域は装甲クラーケンが暴れている宙域から近い場所だった。


 他の屠龍戦闘艦が戦闘を開始した。カズサも宇宙クラゲがうようよしているところに突っ込んで、三連装パルスレーザー砲の砲塔を回転させながら、パルスレーザーをばら撒き始める。


 それは三連装パルスレーザー砲を撃つというより、ばら撒くという表現が相応しい攻撃だった。


 パルスレーザーでは、宇宙クラゲの核を撃ち抜かないと仕留められない。だが、カズサの優秀な火器管制装置は正確に宇宙クラゲの核を撃ち抜いた。


「仕留めた宇宙クラゲの数が、百を超えました」

 カズサの制御脳が報告してくる。百単位で報告するように指示してあるのだ。


「他の連中はどうだ?」

「ランクDの屠龍猟兵が担当している宙域が、手間取っているようです」

「予想通りかな」

 ランクDの屠龍戦闘艦というのは、全長百メートルほどの小型コルベット艦のような戦闘艦が多い。初めての屠龍戦闘艦であるルナダガーを思い出す。あの船の武装も十二光径荷電粒子砲と八光径レーザーキャノンという貧弱なものだった。


 ランクDの屠龍戦闘艦が戦っている様子を観察し、何が悪いか分析した。

「武装は問題じゃないな。他の屠龍戦闘艦との連携が取れていないのが、原因だな」


「連携して戦うシステムもなければ、経験もないのよ」

 レギナがモニターに拡大された苦戦中の戦いを見て言った。


「仕留めた宇宙クラゲの数が、二百を超えました」

 屠龍戦闘艦カズサは、次々に宇宙クラゲをほふりながら指示された宙域を周回した。


「仕留めた宇宙クラゲの数が、五百を超えました」

「順調だな。この調子だと、もうすぐ二人分の目標数をクリアしそうだ」

 一人三百二十匹という話だったので、私とレギナの分を合わせると六百四十匹だ。三十分もしないうちに六百二十匹を超えた。


「装甲クラーケンに動きはないか?」

「今、動き始めたわ。でも、その動きはゆっくりよ」

 スクルドが報告した。警戒する必要があるようだ。


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