第199話 宇宙クラゲの大量発生

 今回の旅行は視察が目的なので、我々は惑星ミャントを詳しく調べた。ボソル感応力を持つワーキャット族の数を調べてみると、人口の七パーセントほどだと分かった。


「総人口が二十億人でしゅから、ボソル感応力を持っているのは、一億四千万人でしゅ」

「十分な数だ。でも、七パーセントか。ナインリングワールドより比率が高いな」

「ワーキャット族というのは、そういう種族なのでしゅ」


 地球人はどうなのだろう? ボソル感応力を持つ人の比率は高いのだろうか? 久しぶりに地球の事を思い出していると、ネットに宇宙クラゲが大量発生しているニュースが流れた。


「宇宙クラゲの大量発生は、数十年おきに起きているようでしゅ」

「それはいいんだが、宇宙クラゲが大量発生した年には、大型の宇宙モンスターが問題を起こす傾向があるようだ」


「ここの屠龍猟兵は、優秀なのでしゅか?」

 屠龍猟兵に関する情報は私の方が詳しく調べたので、質問してきたのだろう。

「屠龍猟兵の数は少ないらしい。それに屠龍猟兵ランクが高い者でもランクBのようだ」


「ランクBというと、ゼンと同じでしゅね。それなら中々優秀なのではありませんか?」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、私の場合は大物狩りでランクBになったようなものだ。地道な屠龍猟兵の活動をしていないから、経験不足な面もあるんだ」


 例えば、何万という数の宇宙クラゲが大量発生した場合に、屠龍猟兵ギルドでは間引くという依頼を出す事があるが、私にはそういう経験はない。


 そんな事を話していたせいなのか、屠龍猟兵ギルドから連絡がきた。

「ここのギルド支部長は、テレパシーでも持っているのか?」

「どうしたんでしゅ?」

「宇宙クラゲ狩りへの参加要請だ」


 私はレギナと連絡を取り、屠龍猟兵ギルドから参加要請があったか確認した。レギナにも参加要請が来たようだ。それをサリオに伝えると、笑い出した。


「笑い事じゃないぞ」

「そうでしゅけど、タイミングが良すぎましゅ。参加するのでしゅか?」

「ワーキャット族が、本当に困っているのなら、参加しようと思う。それにデルトマギヌの支店出す事になれば、こういう活動もプラスに働くと思う」


 サリオが納得したように頷いた。

「そうでしゅね」

 私はレギナと一緒に屠龍猟兵ギルドへ向った。ギルドはホテルから近い距離にあるので、のんびりと歩いていく。


「ゼン、魔導技に大量の宇宙クラゲを倒せるものはないの?」

「ないな。粒子撃をばら撒くような戦い方が、一番効率的だと思う」

「惑星ボランで、粒子散弾という魔導技を使っていたじゃない。あれはどうなの?」


「あれは地上で使う近距離用の魔導技だから、宇宙で使うには効率が悪いかな」

 レギナに言われて宇宙クラゲを一度に大量に駆逐する方法を考えた。だが、短期間に開発できるものではないようだ。


「今回は大勢の屠龍猟兵が参加するようだから、我々だけで駆逐する必要はないはずだよ」

「そうね」

 我々がギルドに到着すると、すぐに説明会が開かれた。その説明会には十数人の屠龍猟兵が出席していた。


「今回、宇宙クラゲが五万九千匹ほどに増えました。それを二万匹ほどにまで減らしたい、というのがギルドとしての希望です」


 ギルド職員のワーキャット族が説明すると、同じワーキャット族の屠龍猟兵が顔をしかめた。

「およそ四万匹も駆除するのか。何人の屠龍猟兵が参加するのです?」


「今のところ、百二十二人ににゃります」

「そうだと、一人三百二十匹ほどを仕留めにゃいと」

 別の屠龍猟兵が溜息を漏らした。

「はあっ、多すぎる」


 さすがに一人三百二十匹というのは多い。その説明会が終ると、私とレギナは別室に案内された。そこに支部長が待っていた。


「参加要請の応えていただき、ありがとうございます」

 我々の他に五人の屠龍猟兵が案内されていた。

「宇宙クラゲの他に、何かあるのですか?」

 私が尋ねると、支部長が険しい顔になって頷いた。

「はい。実は宇宙クラゲの大量発生の時期には、装甲クラーケンが暴れる事があるのです」


 ヒューマン族の屠龍猟兵が、顔色を変えた。

「冗談じゃない。俺たちに装甲クラーケンを倒せというのか?」

「ここに居られる屠龍猟兵の方たちは、ランクC以上の屠龍猟兵ばかりです。中には脅威度5の宇宙モンスターを倒した経験のある方も居ます」


 脅威度5の宇宙モンスターを倒したというと、私の事だろうか? 確かに巡洋サーペントやクラーケンを倒した事はある。だが、クラーケンより装甲クラーケンの方がかなり手強いのだ。


 皆の視線が私に集まるだろうと思っていたら、他の屠龍猟兵たちはワータイガー族の屠龍猟兵に目を向けていた。もしかして脅威度5の宇宙モンスターを倒したというのは、私の事じゃなかった?


 ヒューマン族の屠龍猟兵バラクが、ワータイガーに声を掛けた。

「聞いているぞ。あんたはクラーケンを倒したベルーガだろ?」

「そうだ。だが、装甲クラーケンは強敵だ。俺だけで倒せるとは思えん」


 支部長が頷いた。

「そこで皆さんに協力してもらい、装甲クラーケンを倒して欲しいのです。倒すのが無理にゃら、惑星ミャントに近付かにゃいように、撃退してください」


 レギナが私の耳元に顔を寄せ、小声で言った。

「ゼン、もしかして自分の事だと思った?」

「もしかすると、ナインリングワールドでの活躍は、伝わっていないのかな?」

「その可能性もある」

 レギナが手で口を押さえ、肩を震わせている。笑っているのだ。まあいい。あのワータイガーを中心に戦うというのなら、それでも良いだろう。


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